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黒髪の魔女は優雅に魔術を詠む  作者: 緑乃ぴぃ
黒髪の少女は時(ものがたり)を紡ぐ(つむぐ)
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第33話 冒険者ギルドで見る夢は -その5-


 夕方、チラリと顔を見せたらガッと捕まり、グレーテさんはチュウができそうなほど顔を近づけ言った。

 ヘマさえしなければそれでいい。

 もしなにかやらかしたら、全力で誤魔化せ。

 それでも駄目なら他人に(なす)()けろ。

 もちろん、あちらのギルドから派遣された者に。


「グレーテさん、やっぱり断ります……」

「ダメ。ギルドに登録してまだ十日も立っていないけど、あんたの評判は悪くないの」

「でも……」

「御祝儀であげた初依頼あったでしょ? 昨日の昼間、本人が来て言ったの。またあの子に頼みたいって」

「えぇ……」

「気難しい人物で有名なあの人に気に入られるなんて久しぶりの快挙よ」

「でもその人は商人の妻で、今回の依頼はご貴族様ですよね?」

「そうよ。パーティーの裏方の仕事。こんな大口の仕事なんて久々よ」と、鼻息荒くグレーテさんは言うとなおも畳みかけるように、絶対命令と言い切った。


 私的には貴族らに顔を覚えられるリスクを回避したいしなんといっても、黒髪の存在だけは隠し通したい。

 パーティー会場のすみ、うっかり「君、かわいいね。今度僕の屋敷の庭園でお茶でもしない?」なんて誘われホイホイ後を着いていったら「是非結婚しよう」と言われ、素直に求婚を受けたら「わたくしの大切な息子に手を出した罪は重いザマスヨ!!」と告げられ、断頭台の露と化す――そんな未来が見える。

 うん、気持ちいいほどぶっとんだ妄想をする自分、好き。

 というかこちらの世界の男性、価値観が合わなすぎて恋愛対象にならない。

 仕方ないよね、“力が正義”の世界なんだもの。


「ルチア、あきらめなさい」

「ファネッサさんまでも……」

「そりゃそうよ大銀貨二枚よ。銀貨じゃなくて大銀貨よ?」

「それはわかっていますヨ」

「急遽四人ほどお願いされたけど、依頼主の希望に沿った人物は貴女だけ。この意味わかる?」

「まっまさか夜の――相手――」

「それはないわ。どこにそんな魅力があるというの?」


 ファネッサさん、腕を組み仁王立ちしながら視線を私に向け、上から下へ、爪先から頭の天辺まで何度も往復すると「でしょ?」

 なにその発言。

 まぁ否定はしないデス。


「ルチア、貴女はほかの人よりも所作(しょさ)が整っていてそれを無意識のうちに出している。もしかしたらどこぞの没落貴族の、ご息女ではと疑ったこともあるの」

「そうなのですか!?」

「それに関してはグレーテやギルド長とも意見が一致したの。でも、あの安宿に宿泊するような人物にそれはないよねって結論でも一致したの」


 ファネッサさんの言う無意識の所作、なんてことはない。

 日本で生活していれば自然と出る動きで、音を立てずに食する、背筋を伸ばし歩く、挨拶をするときは相手の目線と感情を鑑みて対応する、ほか、会社勤めをするうえで必要な当たり前のマナー。

 それがこちらの世界だとワンランク上の人物と見間違えさせるなんて、なんとも滑稽な話だ。


「ファネッサは話に割って入らないで。と・に・か・く、あんたは朝一番でとある貴族の館の裏手に行って、担当執事の指示を仰ぐ。それだけよ。なにか質問は?」

「えっとですね、では――」

「なにも質問無しで了承ねっ」

「そんなっ」

「おっと、とあるお方の館は街の外れにあるから徒歩で小一時間くらいかしら」

「遠く――」

「えっ!? 冒険者登録をしたばかりなのにもう登録抹消したい? なにか不満でもあるの?」

「えぇ……」

「あなたには二つの選択肢があるの。快く請け負うか、涙を流しながら喜び請けるかの、どちらかよ」

「えぇぇぇっ……」

「あらま、二つ返事で快諾してくれるなんてとてもうれしいわ」

「話がまったく噛み合わないのですけど……」

「どこが?」

「ですから快諾なん――」

「ルチアちゃん、あなたは登録したての新参者。ギルドに長年勤める私の指先一つであなたの人生を(もてあそ)ぶ――なんてのもできたりするのよ~」

「弄ぶ――」

「え!?、なになに?、涙を流しながら快諾してくれるなんてお姉さん、とてもうれしいわぁ」

 にこやかな笑みを見せるグレーテさんの隣、ファネッサさんも心なしか笑みがこぼれていた。

 というかなにこのスピード感。




  ◆◇◆




 朝六時、裏口の入り口前、芝生ふかふかの上で、パリッとした濃紺色の執事服を着た若い男性は、目の前に立ち並ぶ私たちに向けて簡素に告げた。

1)基本、邸内で働く“小間使い”の指示に従い行動するように。

2)客人への接客対応として前列の五名。

3)飲食物の給仕と客人のエスコートは中段の五名。

4)室内の清掃と雑務は後方の四名。

5)午前中は屋敷内の飾り付けと下準備。

6)午後から客人がお越しになるため、それまでにすべての用事を終わらすように。

7)報酬の支払いに加え、当家の品格を損なうことなく終日勤しんだ者には別途報奨金を提示。

8)着用する小間使い着はこちらで準備したものに着替えてもらう。

9)それと、軽く湯浴みをして体臭を消すように。


「以上、九項目が基本となる」


 若い男性は私たちの顔をぐるりと見渡すと、なにか質問はあるかと聞いてきた。


「ハイッ」と、一番前に立つ女性は手を挙げ、私たちは基本裏方で良いのか尋ねた。


「前列の者は裏方というより、私たちの補助に付いてもらう」


 男性の答えに、前のほうから“キャッキャッ”と明るい声が聞こえた。

 次に中段の列の一人が手を挙げ、給仕も仕事に含まれるなら主賓会場に出入りできるのか?


「もちろんだ」


 前に並ぶ五人、小声でなにか話はじめ、笑顔がチラリと見え喜んでいる。

 この流れからすると横に並ぶ三人の誰かが手を挙げ質問する――はず。

 はず!?


「……」

「……」

「……」


 しかし誰も挙手しなくて、隣に立つ背の高い女性の表情をうかがいたいけど、顔を横に向けちゃいけないって本能が語りかけてきた。


「ほかに質問がなければ控え室に行ってもらい着替えと湯浴みをしてもらう」


 男性は軽く一礼をすると横に逸れ、そのまま裏口の玄関から屋敷の中へ入って行った。

 一瞬の間を開け、ざわつくみんな。

 隣の背の高い女性、前の列の人に話しかけたかと思うとすぐにこちらを向き「なんで四人出せなかったの?」

 唐突な質問に私は思わず“?”という表情をしたのがよほど気に食わなかったのか顔を傾け腕を組み、“チッ”と舌打ちをしてきた。

 そう、私の耳に入るように。


「そっちが依頼通り、四人出していればあたしたちは前の列にいたの、わかる?」

「あっあの……」

「執事の人は“品格を損なうことなく働いた者には別途報奨金”を出すって言ったけど、あたしらの列にはまったく関係ない話」

「そっそ――」

「どうしてくれるの?」

「えっと……」

「全てそっちの責任なんだから、あたしの言いたいこと、わかるよねっ?」

「わか――?」

「あんた、バッカじゃないの!?」

「なっ――」

「あたしら三人分の仕事をあんたがやる責任があるってこと。おわかり?」

「そっそん--」

「口答えするの? だったら、そのゴミクソなメガネを地面に叩き付けてわからせてやろうか?」


 背の高い女性、ぐいっと顔を近づけたかと思うと地面にペッと唾を吐き捨て「一~二時間だけ手伝ってあげる。それ以降はすべてあんたがやるの、いい?」


 クスクスと笑い声がいくつも聞こえるなか、目を閉じ、うつむくしかできない。

 そして周りから人の気配が消えるまで、目を開けられなかった。


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