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黒髪の魔女は優雅に魔術を詠む  作者: 緑乃ぴぃ
黒髪の少女は時(ものがたり)を紡ぐ(つむぐ)
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第31話 冒険者ギルドで見る夢は -その3-


「オレの前でやつの話をするな!」そう怒鳴る老兵風のおっちゃん。

「やんのかコラッ」と、絡む若者。

「はーいそこ、喧嘩しなーい」さらりとたしなめるファネッサさん。

「本日、午前の部の受付は終了でーす」どこか棒読みなグレーテさん。

「革製の手甲を落としたヤツ、すぐに名乗り出ろ」と、年老いた掃除婦のおばちゃん。

「そこのパーティー、酒を床にこぼさない!」甲高い声が受付の中から飛んでくる。

「嬢ちゃん酒でもどうだ?」私の真横から声。


 うるさい&うるさい&酒臭い&ナンパ、されてます、おっちゃんに。


「こうみえてもなぁ俺はすごい人物なんだぞ~。でよ~一杯奢るぞ~」

「だっ大丈夫ですよっ」


 なんだろう私って、こういう人を呼び込みやすい体質……なのかなぁ……。

 とくに酔っぱらいの人を……。


「そう言わずに一杯だけでもどうだ? うまいぞぅ」

「ジジィこの前も言ったろ? むやみやたらに手ぇ出すんじゃねーよ」

「じゃぁグレーテでいいか」


――ボクゥ――


 グレーテさんの右フックがおっちゃんの脇腹に見事に入った。


「なっなにすんだグレーテ!」

「はーい、同僚のみなさん~。こいつを連れて十秒以内にギルドから出て行かないと登録取り消しマース、十、九、八――」

「わっ悪いなグレーテ、いつもいつも迷惑かけちまって――」

「今回で何度目!? 頼むから酒を飲まずに来てくれ、七、六、五――」


 おっちゃん、両脇をガタイのいい青年二人に捕まれそのままズルズルと連行から~の、扉の向こう側へ消えた。

 えっと、流れが早くて付いていけない。


「すまんなルチア。あの人、酒さえ入らなければ腕のいい職人なんだがな……」

「冒険者じゃなくて職人!?」

「そうだ、屋根専門の職人だ」

「ここって冒険者ギルドですよね?」

「昨日、説明したろ? なんでもありなんだよ」


 冒険者登録後、ざっくり教えてもらった。

 ランクは通常A~Gまで。

 でも、このギルドはCが天井で打ち止め。

 理由は、まぁお察しというかそういうこと。

 Aの上にSと最上級のSSがあるけど王都のギルドでしか登録できず、数えるほどしかいないそうだ。

 依頼内容は様々で、屋根修繕、家や壁の補修、ハウスクリーニング、害獣駆除、庭の手入れ、買い出し、子守り、ほか。 

 護衛や盗賊討伐もあるにはあるけど、こちらのギルドへ依頼してくる時点で依頼主もそれなりの人物。

 普通はあちらの冒険者ギルドへ依頼するそうだ。

 うん。

 きっぱりさっぱり言える。

 確実に断言できる。

 まったく夢がない。

 そう、異世界あるあるなら『王都までの護衛:金貨五枚』を請け負うも実は極秘裏に王族が乗っている馬車を護衛して――なんてのが王道で、フラグ回収ストーリーが始まるのに、どうがんばっても『壁の補修』じゃストーリー展開に無理がある。

 精々、壁を補修していたら依頼主のおばあさんと仲良くなりお茶会を――くらいだよ。


「ルチア、今日は下見?」


 振り向くとグレーテさんがけだるそうに立っていた。


「依頼掲示板のほう、見せてもらっていますっ」

「そんな堅苦しいのは無しだ。適当に見ていってくれ」


 それだけ告げるとグレーテさんは受付窓口へ戻った。

 口はよろしくないけど、素はやさしい人。


「嬢ちゃん~ここは初めてかい? おっちゃんがいろいろ教えてやるよぅ?」

「そこのボケジジィ! 孫と同じ歳の女に手出すなっ!」

「グレーテちゃんよぅ~そんなんじゃ嫁の貰い手がないぞぅ~。なんならもらってやっ――」

「とっとと死ねぇっクソジジィ!!」


 うっうん、口はよろしくない――けど素は、やさしい人――のはず……はず……。




  ◆◇◆




「指示された範囲の清掃、すべて終わりました。ご確認のほう、よろしくお願い致します」

「……あらそう」


 ツンと澄ましたご婦人、腕を組みながら床、食品棚、流し台、吊るされた薬草類など、ぐるりと一周見回すと小さくうなずいた。


「まぁまぁね」

「完了でよろしいでしょうか?」

「いいでしょう。サインをするから出しなさい」


 私はあわててテーブルの上に置いたポーチのなかから依頼書の紙一枚を取り出し、スッと差し出した。


「見かけない顔ね?」

「はっはい、最近この街に来まして登録も少し前にしました」

「そう」


 ご婦人、依頼書の記入欄に名前を書くとスィッとこちらに滑らせ、テーブルからあわや落ちそうになりガッとつかみ取る私。


「あっありがとうございますっ」

「帰りは裏口から」

「はっはい」


 ペコリと会釈をして裏口の扉に手をかける。


――ガチャ――

――ギィィ――


「嘘、もうこんな時間!?」


 外に出ると太陽は半分くらい山に隠れていた。

 中流家庭の住む地区のせいか夕方でも人通りがあって理由は、道の左右に並んだ街灯があるせい。

 ぼんやり光る街灯は魔導具。

 辺りが暗くなると自然に点灯するらしく、宿泊する宿屋の周りには一本も立っていない代物。

 灰色のミドルローブの襟元を締め、急ぎ早に足を進める。

 別に急ぐ必要もないけどなんとなく、ただなんとなく、この場から少しでも早く立ち去りたかった。

 請け負った仕事はハウスクリーニングで大銅貨七枚。

 日給にして七千円。

 ここからギルドの取り分の二割が引かれる。

 グレーテさんは言った。

 気難しい婦人が依頼主だけど報酬は悪くない。

 初めての依頼だから御祝儀も含めあんたに回したと。

 それを隣で聞いていたファネッサさんも普通は駆け出しの者には回さない依頼だと言いさらに、八十~九十こなすとGからFに昇格できるとも付け加えた。


――ピュィ――


 足元をかすめる風はどこまでも冷たく、無意識に背中が丸くなる。

 昔、知り合いの子はぽつりと言った。

 明日は明日の風が吹く――。

 仕事、がんばろ。


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