第30話 冒険者ギルドで見る夢は -その2-
「なんでメガネ掛けた子供がいんのよ?」
「私ですか?」
「ほかに誰がいんのよ?」
「こちらを紹介されまして……」
「はっ?」
「紹介状、ありますっ」
「なんでそんなの持ってんの?」
「ですから、こちらを紹介されまして……」
「誰に?」
「冒険者ギルドに……」
「あっちの?」
「あっちのというのはよくわかりませんが、たぶんそうだと思います……」
「チッ」
木枠の向こう側、喧嘩腰のお姉さんの舌打ち、心に刺さる。
「出して」
「はい?」
「紹介状、見せて」
「はっはいっっっ」
胸元に手を入れ一枚の紙切れを取り出す。
「あーはいはい、登録完了ね」
「えっまだ中身を――」
「大銅貨五枚、すぐに出して」
「ええ!?」
「だ・し・てっ」
「えっえと、その――」
「はーい本日の新人登録の受付終了でーーーす」
「えっえー!?」
「明日、また来て」
思考、フリーズ。
なんで?
どうして?
「あれ、ルチアじゃない?」
木枠の向こう側、ファネッサさんが立っていて紙の束を手に持っていた。
「どうしたの?」
「とっとととろくに――」
「あー登録に来たの?」
「はっはい!」
「受付は終わった?」
「えっとその、あの……」
「あー、グレー髪色のショートヘアのお姉さんは対応がゴミなだけで、悪い人じゃないから安心して」
安心してって言われても……。
「知り合い?」
「同じ宿に泊まっている子よ」
「あの宿に!?」
「そうよ、なにか問題でも?」
「いっいえ、お嬢ちゃん。登録料は大銅貨五枚ね」
「この子、あんたより三~四つ年下よ」
「えーっ、ガキじゃないの!?」
「じゃないのよー」
対応がゴミなお姉さんを上から目線で対応するファネッサさん、素敵すぎる。
まるで宝○歌劇団のよう。
あとでお酒でも奢ろう。
◆◇◆
「いろいろとありがとうございます」
「いえいえ、久しぶりに美味しいお酒が飲めたわ」
「そう言ってもらえるとうれしいです」
「あたしは浴場に寄っていくけど行くでしょ?」
「今日はいろいろあり過ぎて疲れてしまい、すぐにでも寝たいです」
「そう、ならここでお別れね、また明日」
ファネッサさんはライトゴールドの髪をなびかせながらそれだけ告げると、道の反対側にある公衆浴場の中へと消えていった。
ふぅ。
宿まで歩いて五分。
ここなら襲われる心配もない。
のんびり歩こう。
久しぶりの外食、すごく良かった。
とくに鶏肉料理が絶品。
お酒はぬるくて微妙だけど、ファネッサさん曰く「こんなに度数の高い酒は久しぶり~」
料理も美味しかったけどなにより二人で食したのが大きい。
お金が溜まったらまた行きたいなぁ二人で。
うん。
「明日から節約生活、がんばろ」
ファネッサさんは食事中、いろいろ教えてくれた。
この街には二つの冒険者ギルドがあって、その差は歴然。
あちらはヨフィーナ王国が直接運営管理しているギルドで名は、ヨフィーナ王国冒険者ギルド。
対してこちらは昔からこの街で営むギルドで、街ペルーナの住人が興した由緒あるギルド。
名はペルーナ冒険者ギルド。
しかしその名で呼ぶ者はほとんどおらず、冒険者ギルドだけで通用する。
理由はしごく単純。
貴族や裕福な商人の護衛といえばあちらで、家の修繕や壁の補修などの雑用はこちらに依頼されるから、ギルド名を言わなくても自然と棲み分けができていると。
間違ってあちらのギルドに『床の張り替え』なんて依頼が張り出されることは絶対になくて、また逆もしかり。
依頼料の金額も値段相応で、あちらは最低でも大銅貨単位の依頼からで、こちらは銅貨から可能。
そうなると自然と働く職員の給料にも反映されるから、対応に差ができるのも当然といえば当然。
口のよろしくないグレー髪色のショートヘアが似合うあの人の名は、グレーテさん。
ギルドに勤めて十年以上の大先輩で、幼少の頃から働いているとか。
どおりで態度が大きいなと納得。
お酒のカップを傾けつつファネッサさんは言った。
あちらのギルドに登録している冒険者らはこちらを見下していて、消えて無くなってしまえばいいとさえ思っている節がある。
けど、もしこちらのギルドが無くなって一番困るのはあいつら。
「アホだよね~。掲示板に『壁の補修』が張り出されても依頼、受けますかって話。そんな依頼、絶対に蹴るよねっ」
酔いのまわったファネッサさんはさらに饒舌に語った。
こちらのギルドはとても古く、ヨフィーナ王国建国前から存在していて、歴史書の中に存在する英雄たちの登録記録、依頼達成記録まであって、裕福な商人がその内容が記された帳簿を売ってくれと迫ってきた商談もあると。
もちろん売るつもりはなくて、地下の隠し金庫に厳重に保管されているそうだ。
歴史があり由緒正しいギルドのせいか建物も『クラシカルで趣のあるたたずまい』で、床の補修の跡々が悠久の歴史を物語っていていわゆる『古くて時代遅れの木造の建屋』そのもの。
そういえば面白い話してくれた。
こちらの規定では両方に登録可能。
しかしあちらの規定では同時登録は不可。
この規定は絶対に守られるべき事項で、もし変更するとなると王の意向が必須とか。
理由は不明だけど、ブランドイメージを守りたいあちら側の恣意が働いていると推測。
というか、こちらは両方登録可能と宣言していても、あちらがダメって言えば話はそこで終わり。
なんとも変な規則。
「おかえり」
宿屋の前、おかみさん。
「無事に登録できた?」
「はい、ファネッサさんのおかげで」
「それは良かった」
「で、あの子は?」
「浴場に寄ってます」
「あんたは?」
「今日はとても疲れたのですぐに寝たいです」
「そうかい」
「おみさん、宿屋前でどうしたのですか?」
「んと、この子がねぇ」
「この子?」
「そうさ」
足元に視線を移すおかみさん。
「ニャアアアン」
あっと。
「ミーケ~お迎えありがと~♪」
「ミーケ?」
「女の子なのでミーケと名付けました」
「よくわからないけどいい名だね」
「黒猫のミーケ、ご主人様のお帰りだよー」
――カリッ――
「痛っ、なぜ爪を立てる」
じんわり右指に痛み、走る。
「そりゃあ酒臭いからだよ」
「そんなに臭います?」
「ああ臭うさね」
「ちなみにおかみさん、何歳から飲んでいいのですか?」
「ルチアって、時々わけのわからないことを言うね」
「そっそうでしょうか?」
「そりゃそうさ。酒なんざ飲みたいときに飲めばいいんだよ」
「ですよねー」
[お酒は二十歳になってから]なんて標語、あるわけないか。




