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黒髪の魔女は優雅に魔術を詠む  作者: 緑乃ぴぃ
黒髪の少女は時(ものがたり)を紡ぐ(つむぐ)
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第29話 冒険者ギルドで見る夢は -その1-


 ここは王宮(おうきゅう)(みや)びの()

 貴族たちが(うやうや)しく頭を()げるなか、王さまは(ひざまづ)騎士(きし)にいいました。

 魔物退治の報奨(ほうしょう)として金貨二百枚と領地(りょうち)、そして我が娘の婿(むこ)となってほしい。

 白銀(はくぎん)の騎士は「わたしはただ、襲ってきた魔物を()し、村々(むらむら)を救っただけにございます」といって(うやうや)しく頭を()げました。

 小さくウンウンと王様はうなずくと「なんと謙虚(けんきょ)な心、ますます気に入ったぞ」そういうと王さまは立ちあがり――。


 一斉に手が上がる。

 これで何度目かもう覚えていない。


「ルチア、おかしいと思わぬのか?」

「えっと、どこでしょう――か?」

「村々を救っただけで王の娘と婚儀を結ぶなど、あるわけなかろう?」

「何度も言いますが、これはあくまで作り話でして――」

「ほかにも、玉座に鎮座する王に対して、騎士には敬意と配慮が感じられん」

「ですから――」

「国は違えど一国の主を軽視し過ぎでまったく話にならん!」

「えっとですね――」

「他の者もそう思うだろう?」


 私の目の前、椅子に座り二十人はいようかと思う衛兵が一斉にうなずいた。


「ワシからも一ついいか?」


 一番前の席に座る階級の高い人物。


「ワシが一番引っかかるのは、緑色の肌を持つ“ゴブリン”とやらはなんだ?」

「えっとですね、森の奥深くに集団で住んでいまして、人や家畜を襲うのです」

「ごく稀に、熊や狼、猪、鹿などが魔石を食って“魔獣”になる事例はあるが、“魔物”とはなんだ?」

「魔物は魔物で、魔獣と違い――」

「まったく話にならん。これでは許可は出せぬ」

「でも、前回のラプンツェル物語は大丈夫で、今回の物語はなぜ不許可ですか?」

「お前もしつこいな、ラプンツェルはいいんだ。しかし今回のは駄目だ」


 カッと目を見開き階級の高い人物は「これでお開きだ。次回の物語は期待しておるぞ」

 それだけ告げると皆に持ち場に戻れと指示をして、自らも席を立った。


――マジかぁ――


 ガックリ肩を落とす私。

 気合いを入れてキャラ立て&紙絵の枚数も増やしたのに検閲上演で終わりとは……。

 “楽しみにしていた感”を隠さない衛兵たちを目の前に一度最後までやり通し、その後チェックとして二回目を上演するも厳しいご指摘を受け、あっけなく不許可。


「俺は悪くないと思うぞ」と、背の高い衛兵は上から目線で言った。

「ただ、ゴブリンとかオーク!? スタンピート?、聞き慣れない言葉を並べられてもなぁ」

「まぁそうですよね……」

「一番理解できなかった“すてーたすおーぷん”とはいったいなんだ?」

「そっそれは、別ウインドが目の前に表示される現象でして、仮で表現するなら、パッと目の前に半透明な羊皮紙が現れ、己の体力値や魔力度、経験値などが数値化を介して読み取れるスキルなのです」

「んんん?????」

「ソウナリマスヨネー」


 衛兵は腕を組み首をクイッとひねり「俺が、頭が悪いからわからないだけなのか?」

「えっと……違います。私が、頭が悪いから伝え切れず……スミマセン」

「まぁそれはいいとして、隊長が口にした通り報酬が大きすぎる。敵国から玉座を守ったのなら話はわかるが……ハァ」と、深いため息も追加してきた。

「ちなみに、どんな物語に興味がありますか?」

「興味か? それはやはり騎士道物語だな」

「デスヨネ~」

「おっと、俺はもう行くがなにか困ったことがあればいつでも言ってくれ」


 背の高い衛兵はそれだけ告げると、壁に立てかけられた槍を手に持ち石階段を駆け上がって行った。


「おつかれさん、次回も期待しているぞ」と、背後から別の声。

「うちのかみさんがラプンツェル物語を見たいと言っていたから頼むぞ」と、柔和そうな衛兵は手を振りながら石階段に足を掛けた。

「女、早く片づけて出て行け」


 振り向くとどこか神経質そうな衛兵、それだけ言い残し扉の向こう側に消えた。


――シーン――


 衛兵の詰め所の休憩室、ポツンと取り残された私。


「ふぅ」

「さて……」

「さてさて……」


 まさかの最初で最後の物語になろうとは……。


「ぼくは疲れたよ、パトラッチュ……」


 うん、言ってみただけ。


「チョー赤字だよ、パトラッチュ……」


 今回は気合いを入れてふんだんに色を使い、紙の枚数もかかったから銀貨二枚はかかった。

 数日前は金貨一枚も――払ったし、このままいけばもって一ヶ月で路銀が尽きる。

 一応、先払いで宿代は払ってあるからすぐに野宿する事態にはならないけど、それでも時間の問題。


「とりあえず、手軽に稼げるアルバイトとなると――」


 ギルドに……行くか……。

 背に腹は替えられんし……。

 アルバイト――久しぶりに懐かしい言葉、じんわり心に染みた。




  ◆◇◆




「おお……」


 この街の冒険者ギルド、相当儲かっているようで天井は高く、白い大理石の床もピカピカに磨き上げられゴミ一つ落ちていない。

 元いた国のバーリント聖国、街バリアムトの冒険者ギルドより倍以上の建屋で、パッと見、壁に張られた依頼数も倍以上あってギルド職員数もかなり多め。


「ふむ、基本的な作りはどこも同じか……」


 正面入り口の右側に受付カウンターが並び、正面の壁には依頼の紙が貼られた掲示板があって、左側には丸いテーブルがいくつも置かれ、冒険者たちが各々休憩なり会話、飲食をしていて三十~四十人くらいかな。

 左側の壁際には飲食を提供するお店があって軽食やパン、飲み物の入った瓶をカウンター上に並べている。

 お酒も提供しているけど、まだ昼間のせいか飲んでいる人はまばら。

 酔っぱらいとか素行の悪そうな人は――いない。

 それと女性冒険者の比率――むむ、以外と高いぞ。

 チッ。

 逆ハーレムは無理そうだ。


「依頼申請の方ですか?」


 振り向くと優しそうな女性。

 上下紺色の制服、職員さんだ。


「今日はどのようなご依頼を?」

「ごっご依頼ではなく、登録のほうでして……」

「ギルドへの登録ですか?」

「はっはい」

「ではこちらへ」


 気のせいかもしれないけと職員さんの視線、足元から上へと一瞬流れたように感じた。


「私の後に付いてきてください」

「はっはい!」


 職員さんに連れられ廊下を歩く。

 ここの冒険者ギルド、やっぱりすごい。

 人の目に晒されない場所もきれいに清掃と整理が行き届いている。

 よしっ、最初が肝心。

 しっかり営業スマイルをしないと。

 きちんと身支度も整えてきたら問題、ないでしょ~。

 いつもの濃緑色ローブは宿屋で待機。その代わり、ヨハンさんの古着屋で買った灰色のミドルローブを羽織り、内側にはクリーム色のシャツと同色の長いスカートで、どちらもシンプルなデザイン。それに革製のポーチを一つ。

 もちろん髪も整え、生え際の黒髪をささっと焦げ茶色に染め、軽く油を塗った。


「登録料は銀貨五枚になります」そう目の前を歩く職員さんは告げると、ツイッと立ち止まった。

「ここで少しお待ちください」


 それだけ告げると通路の先に一人で向かった。


「う~ん登録料、高いぞと」


 バリアムトの冒険者ギルドならたしか、大銅貨十枚くらい。

 銀貨五枚かぁ。

 払えない額ではないけど、報酬も高そうだから仕方ないといえばそうだけど、それにしてもちょっとお高い。

 一応に冒険者ギルドがどのような所なのか理解しているし、規則もそんなに変わらないと思うからすんなり登録できると思う。

 未成年は登録不可。

 経験の浅い冒険者は、それに見合った依頼しか受けられない。

 依頼は期日中に達成するように。

 依頼に失敗して怪我を負っても自己責任。

 依頼書に虚偽の申告が見つかった場合、上乗せ報酬を払うか、期間を設け出入り禁止。

 ざっくりこんなところだろう。

 てか、初めての登録、ちょっとうれしい。

 忌むべき存在の黒髪のおかげで、バーリアント聖国内のギルドに登録できなかった。

 審査が厳しく、身元保障が必要な商業ギルドはもちろんのこと、知識と魔力をフルに使う魔法ギルド、荒くれ者でも登録できる冒険者ギルドさえ。

 冒険者ギルド内の清掃の仕事をもらって何度か出入りはしたけど、新人登録カウンター前に立つ許可すらもらえなかった。

 たしか最後に冒険者ギルドの建屋に入ったのは大きな揉め事が起きた後で、床にへばりついた吐瀉物(としゃぶつ)や血しぶき、散乱したゴミなどの後片付けとして。

 拘束時間と仕事内容の割に報酬は安くたしか、大銅貨五~六枚と記憶している。

 魔法ギルドも何度か入った。

 そのときも同じく清掃依頼のときで、建屋内で働いていた職員さんがとてもまぶしく見え、私もあんな風に働きたいなーと思った。

 商業ギルドは、近づくことさえ許されなかった。


「準備が整いました、どうぞこちらへ――」

「はっはい!」


 よし、新しい人生の再スタート、がんばろっ!


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