第23話 ラプンツェルと私 -その1-
魔女は高い塔にむかっていいました。
「ラプンツェル、ラプンツェル、私の足元までその金色の髪をおろしておくれな」
高い塔の一角、窓は左右にひらき、ふさぁっと金色の髪がたれてきました――。
魔女はなんのためらいもなく金色の髪をつかむと、するりするりと登っていき、窓のわくに手をかけるといいました。
「ありがとう。ラプンツェル――」
ごくりと息を飲む音が聞こえる――そんな例え話が聞こえてきそうなほど、辺りは静寂に包まれていた。
私はゆっくりと木製の枠に次の紙絵を差し込みながら明るく澄んだ声を意識して「きのう食べたパン、とても美味しかったわ。いつもありがとう、おばあさん――」
「ハチミツがたくさん採れてね、パンに練り込んでみたんだよ」と、低い声でゆったりと告げ、私を取り囲む子供五人をギョロリと睨み付けると、ビクッ!となる子供たち。
その一瞬を見逃さない。
続けざまにギョロリギョロリと何度も子供たちを睨み付け「ラプンツェル、テーブルに置かれた花束はなんだい?」
「あっあれはぐうぜん、リスさんたちが持ってきてくれたのよ、おばあさん」
「ふーんそうかい。ならあれは――」
私のセリフ一つ一つに敏感に反応する子供たち、同じ驚きは二つとない。
ある子供は口をぽかんと開け、言葉を発することなくジッと凝視。
またある子供は目を爛々と輝かせ、次から次へと変わる紙絵に視線は釘付け。
またまたある子供は、鼻から鼻水が垂れて口にかかるも気付かないくらい集中。
なんとなく勢いで見せているけど、初の試み&本日三度目の上演にしては上出来だと思う。
一度目は午前中で、二人の子供を目の前に無料で上演。
二度目は午後一番で、これまた無料でお客さんは三人。
三度目は今現在で、利益は銅貨二枚確保。
見物料としてのお菓子は、小麦粉を練って焼いて表面にハチミツを塗って甘みを付けたクッキーもどき。
私的に「よしっ」と感じた部分は、今回の三度目には一度目と二度目を見てくれた子供が一人ずついて、誰よりも真剣な眼差しで紙芝居を見てくれた事実。
この流れ、切らすわけにはいかない。
ラプンツェルといえばグリム童話でおなじみの物語で、なぜこの物語を最初に選んだのか?
理由は、ただなんとなく。
そう、なんとなく。
ラプンツェル物語は、子供に恵まれない夫婦がひょんなことから子供を授かるも、
妖精と契約→
生まれてきた子供を差し出せ→
妖精は大切に育てる→
この世で最も美しい娘に成長→
王子がやってきて生娘の娘をナンパから~の妊娠→
二人で駆け落ちの算段→
妖精激怒→
ラプンツェルを砂漠にポイ→
王子、妖精に言われる「二度とあの娘に会うことはない」→
王子、塔から身投げ、茨薔薇が目に突き刺さり盲目→
王子、何年か惨めにふらふら→
男の子と女の子の双子を産んでいたラプンツェルにばったり→
君の名は?→
ラプンツェルの涙、王子の目に点眼→
視界回復し良好→
王子の国へ向かい幸せゲットだぜ。
うん、なんとも考えさせられるお話。
妖精は花よ蝶よと大切に育てていた。
けど、子供にとって善かれと思っていた行動も実のところ、空回りになってしまうかもしれない――
というか、見た目&運さえあればなんとかなる物語で『小説家にな○う』や『カク○ム』に投稿しても「ありきたりな話」と評されるだろう。
で、元があまりに微妙過ぎる&私独特の創作も入れてかな~り改変。
両親、子供を虐待放置→
偶然魔女が助け、平和な暮らしゲット→
ある日、国の第一王子にナンパされる→
が、徐々に地の性格が現れストーカー→
ストーカーvs魔女→
魔女、なんとか苦勝し二人で隣国に逃れる→
平和な暮らしが戻る→
隣国の優しい王子に見初められ結婚→
魔女、隣国で最高位の宮廷魔導師になる。
とまぁ元ネタがわかるのは高い塔から金色の長い髪を垂らす場面くらい。
セリフは紙の裏に書いてあるから間違えないけど、宿で何度も練習してきたからばっちり暗記。
おかげで、いまこうして別の考え事をしていてもなんなく芝居をこなせる。
すごいぞ自分。
おっと、そうこうするうちに物語も最終局面。
「魔女様、私の国へ来て宮廷魔導師の地位に就いてもらえないでしょうか?」と若き王子は膝を床につきながらいいました。
「わたしを大切に育ててくれたおばあさん、いえ、お母さまがいるとたいへんうれしいです」と、隣にいたラプンツェルも膝をつき、目元に涙を浮かべながらいいました。
涙ぐむラプンツェルにむかって魔女はいいました。
私は、別の世界から流れてきた者。
若いときは家族もいたけど長寿の私だけ取り残された。
でも、いまは違うよ。
新しい家族ができたのだもの。
「さぁ祝福の時だね!」
魔女はそういうとゴニョゴニョと呪文を唱え、お空いっぱいに大きな魔法陣を描きました。
みんなが空を見上げるなか、魔法陣はゆっくり回転をはじめ淡い光とともに祝福のファンファーレが鳴り響きました。
数日後、国を挙げて盛大な婚礼とお祭りが開催され、その日は国の大切な記念日となりました。
「おわり……」
――シーン――
静寂が包む。
――パチパチ……――
立ち尽くす女の子、小さな拍手。
――パチパチパチ……――
隣の男の子二人からもかわいい拍手。
――パチパチパチパチ……――
そのまた後ろの大人?
――パチパチパチパチパチパチ!!――
女の子のくれた小さな拍手はやがて大きなうねりとなり、いつの間にか私を取り囲む観客は二十人くらいに膨れ上がっていた。
「うぇ~おチビちゃん、よかったぞ!」
酔っぱらったおっちゃんからの声援、なんて返答しようか迷う。
「魔女さん、幸せになって良かった」
涙ぐむ老婆。
「芝居料はいくらだい?」
商人らしき人物。
「今度はいつやるんだい?」
荷物を地面に置き拍手をする青年。
「みんな……」
売り上げは銅貨二枚だけど、三度の上演にて手応えを掴むと同時に、これで食っていけそうな将来性を見出した気がした。
まずは、単発話を作って日々食べていけるだけのお金を稼ごう。
そして、安定したら数話程度の連続物語を上演してガッチリ囲い込み。
もし版権とかが存在するなら物語の販売も悪くない。
うん、夢が膨らむ。
宝くじに当たった気分。
この流れ、絶対に切らすわけにはいかないっ!
「お姉ちゃんお姉ちゃん。あのね、教えて」
「ん? なぁに?」
「んとね……」
一番前にいる女の子「この国の王子さまはわるい人なの?」
「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」
その言葉に凍りつく大人たち。
慌てて即座に訂正する私。
この国の王子様じゃなくて、王子様に扮した悪い男。
その訂正にブンブンと首を立てに降り続ける大人の観客。
物語一つで物理的に首が飛ぶ可能性だってある現実を、肌でヒシヒシと感じた。
ああそうか。
そういうことだったんだ。
なぜこちらの世界には絵空事、語り話、童話、物語などが少ないのかようやく謎が解けた。




