第22話 ヨフィーナ王国 辺境の街、ペルーナ -その8-
「どのような手段を用いようとも勝利者は勝利者。貴殿はなぜわからぬのか?」
私の背後『FIVE of SWORDS/剣のⅤ』は地面に剣を突きたてたようでザクッと音がするなか「敗者たちの背中に視線を投げかけようとも未来は見えぬ。手段を選ばぬことこそが勝者の絶対条件!」と、低い声で言い切った。
「フンッ、妾からすれば剣を振りかざすだけで未来が切り開けるとは、到底思えぬ。他者の感情に寄り添い、慈愛の心を育む行為こそが生きる糧となろうぞ」と、右斜め後ろの『QUEEN of CUPS./聖杯の女王』は優しい口調で言い、スパッと『/剣のⅤ』の意見を切り捨てた。
「ルチア、以前にも伝えたであろう? 現実を知らぬ者たちの声に耳を傾けても時間の無駄」と、左斜め後ろから『FOUR of PENTACLES./金貨のⅣ』の男性は呆れ声で告げ、さらに「夢物語を語れば懐が潤うとでも? 今、貴女が取るべき道はただ一つ。利益の追求そして、小生が考えるもっとも現実的な選択肢は金が金を生む職、つまり金融業」
街を見下ろす小高い丘に一人座る私。
背中を大きな木に預け、ぼんやり青い空を眺める。
小鳥たち、チュンチュン鳴きながら気持ちよさそうに飛んでいる。
なんとも微笑ましい。
もうすぐお昼。
で、背後の声に耳を傾けるも話し合いはずーーーっと平行線を辿り、出口の見えない迷路をさまよっているよう。
「ルチア殿にとってこの世界はかくも厳しい世情。女ゆえ研鑚を積まなくていい道理はないっ」
「ルチア、其方なら理解できるやろ? 女にとって一番重要なのは愛されること。そう、妾のように最愛のパートナーを見つけることこそが、この世界で生きてゆく唯一の方法」
「ルチア嬢、貴女にとって最も必要なのは『豊かな生活』への執着を掲げ進むほかならない。金貨四枚あれば生活はがらりと変わろうぞ」
――チュンチュン――
青い空を飛び回る小鳥さん、楽しそう。
楽しそう……。
うん、楽しいに決まっている。
自由っていいなぁ。
ふぅ。
……。
さて、どうしよう。
後ろ。
心機一転、どうやって食べていくか助言を求め引いたのが小一時間前。
なんとなくこうなると予想できたけど、ほかに相談相手がいないから彼らに頼るほか手立てはなくてこれでもし、『杖』の誰かを引き当てたなら小アルカナカード完全コンプリート。
――ササァ――
一陣の風が足元の草を揺らす。
草~って。
ふぅ。
できれば大アルカナカード群から引いて助言を求めるのがいいのはわかっている。
それが仮に逆位置カードを引き当てたとしても。
でも、極力対価の報酬を引き上げたくない実情が勝った結果がこれ。
しかたない。
少しでも節約しないと。
『貧乏暇無し』とは、よく言ったものだ。
「あ~大アルカナから誰か引っ張って来ようかなぁ」
「……」
「……」
「……」
静まり返る背後。
あっと……。
「ルチア殿、我等では役不足だといいたいのかね?」
「ルチア、其方からそのような言葉を聞くとは、なんとも嘆かわしい」
「ルチア嬢、やはり貴女は世間を知らぬ小娘」
ちょろっと言った言葉にカプリと噛み付く彼ら。
もう帰ってもらっていいかも。
相談料、銅貨一枚ずつ支払って。
「なにか――良からぬ考えをお持ちの様子」
「妾の顔も見たくないと」
「こんなにも真剣に相談相手をしているというのに」
うん、変なところで勘が鋭い。
やっぱり精霊は違う。
そう改めて認識させられる。
「皆さんが、私の将来が良き方向へ進むようにと考えてくれていること、ヒシヒシと伝わってきますし、できれば面と向かって顔を突き付け今以上に、真剣に相談をしてもらいたいと思っています。ですが、皆さんは自分の立場を主に『事』を進めようとしていると、捉えざる負えません」
「……」
「……」
「……」
「つまりこうですね。腰に剣を差し、いつも誰にでも笑顔と慈愛を振りまき、執拗に利益を求める――それでいいのですね?」
「……」
「……」
「……」
「ごっごめなさい、言い過ぎました……」
「いや、ルチア殿が謝る必要は微塵もないぞっ」
「その通りじゃ、妾たちに非が有りようて」
「つい、己の立場を加味し利益の追求ばかりを口にしてしまった」
気づいてくれた。
「なら、私はなにをして食べていくのがいいと思います?」
「そうだな……」
「むぅ……」
「ふぅむ……」
答え、サクッと出ないのね。
ふいにみんなの気配が遠のく気がした。
きっと私から少し距離を置き、会話をしているのだろう。
こちらの世界にやってきて『気配』というものに敏感になり第六感が研ぎ澄まされ、幾度かの危機をエイッて乗り切れた。
そう、賊たちとの死闘がそうであったように。
「みんな、少し横になるね。適当にカードに戻ってもいいし、メモ帳に書き置きを残してもらってもかまわないから」
そう伝えふんわりした草たちのベッドに身体を預ける。
睡魔に襲われるのに三秒とかからなかった。
◆◇◆
「つまりルチア、大道芸するのに許可証がどうこうって話だね?」
「そうです。どこに許可を申請するのか教えてほしいと」
「許可ねぇ。無いといえば無いし、あると言えばあるし……」
「つまり許可証は存在しないけど、場を取り仕切る組織!?にショバ代を支払うと?」
「そんなところだ」
「そうですか」
「ただ、あんたの話を聞く限り、芸の内容がまったくわからないよ」
宿に帰宅して夕食後、おかみさんに相談した。
紙芝居で食っていきたいと。
『紙芝居とはなんぞや?』を丁寧に説明するもまったく理解してもらえず、国や領主を批判するようなビラを撒くのはやめろと忠告される始末。
こちらの世界には子供に読み聞かせる童話すらほとんどなくて、さらに創造物自体が乏しい上に、街の片隅で演じられる路上劇もシンプルかつ平々凡々なストーリーと内容。
以前、バリアムトで見た路上劇は、敵国に勝利した近衛兵たちが王様に勝利の吉報を届け褒美をもらう――ただそれだけ。
ほかにも、宮廷貴族の娘に恋の詩を捧げる吟遊詩人の語り劇は、あくびが出るほど退屈な内容だったけど周囲の女性陣は目をキラキラ輝かせ見ていた。
っ――私なら、とある貴族の家、小馬鹿にされ続けられた長女がパーティー中に婚約破棄を告げられそのまま辺境送りとなるも実は第一王子が恋い焦がれていた人物で、婚約解消を吉報と捉え身分を隠し執事として仕える。が、実は第二王子と第三王子も長女に好意を持っていて二人も辺境に向かい――なんやかんやあって、婚約者を奪った妹&両親にザマァ展開をしつつ三人の王子の妃となり夜伽はそれはもう過酷なものとなり毎夜毎夜王子たちに求められ――。
――じゅるり……――
仮にもし、この世界で本なり劇にしたら確実に空前絶後の大ヒット間違いなし――だけど、ギラついたお貴族様に目を付けられ長女と同じ運命(閨房哲学)を辿りそう。そう、「この淫乱女めっ」と罵られながら――。
「ルチア、どうしたのさニヤニヤして?」
「あっあぁなんでもありませんっ」
「そうかい?」
「そうですっ」
「口元によだれみたいなものが見えるよ?」
「汗ですっ」
苦し紛れの言い訳、汗なんですっ。
って、つい入る妄想スイッチ、早く治さないと……。
「紙芝居ねぇ……」
「はい、紙絵をパラパラと~」
んで紙芝居、おそらくこの世界で初の試みと推測。
なので、私が最初の紙芝居をおこなう者となる。
提案者は『./金貨のⅣ』の男で、惰眠から目覚めた私に向かって、比較的裕福な子供たちに的を絞り紙芝居を作ってはどうかと進言してきた。
それに対し『/剣のⅤ』と『./聖杯のクィーン』は自分の立場から意見を申し、戦記物と恋愛ドラマなら注目されやすく話題性もあり、なんと言っても物語を作りやすいと言い切った。
たしかにそう。
冒険活劇や王子とお姫様の色恋話はいくらでもある。
グリム童話なりアンデルセン、ギリシャ神話、日本の昔話、数えきれないほどあって題材に困らない。
「ルチアの話を聞く限り、あんまり儲かりそうにもない話だねぇ」
「まぁそうなりますね」
「安いお菓子を売り付け物語を語る。お菓子を買わなくても物語は楽しめる。それであってるのね?」
「簡潔に言うとそうなります。ただ、お菓子を買ってくれた子たちは前のほうで楽しめて、買わない子たちは後ろのほうで眺めると」
「う~ん、聞けば聞くほど理解に苦しむよ」
「そうでしょうか?」
「そりゃそうさ、お菓子を買わなくてもタダで楽しめちゃ誰も買わんて」
おかみさんの言っていることは正しい。
お菓子を買えば前列で見れる。
買わなければ後ろで眺める。
違いはそれだけ。
路上でやるからタダで見ようと思えばいくらでも見れるし、『紙に描いた絵』を見ながら私の『語り』を聞くだけでお菓子代金が発生する。
『そんなビジネスモデルが成り立つわけがない』と考えるのが常識でありまっとうであり第一、発想自体を思い付くわけがない。
けど、誰か一人でもお菓子を買ってくれれば物語の幕は上がる。
「インクと紙類を売ってる店を教えてほしいと」
「ですです」
「両方とも安くないよ」
「もちろんわかっています」
「ちんけなこの宿に泊まっているあんたに用立てできるのかい?」
「大丈夫です。使わない魔導具を売って工面しますから」
「あーこの前の、売れなかったブツをもう一度捌きに行くと」
「はい、安くてもいいので買い取ってもらおうと思いまして」
「目処が立つなら、あたしゃ止めないよ」
「はいっ」
おかみさん、私の気迫に押されたのかそれ以上はなにも言わなかった。
おっと忘れるところだった。
ローブの内側に手を入れ革製の小袋を取り出しテーブルに一枚の銀貨を置き、宿泊料+食事代を含め泊まれる分をお願いした。
おかみさんは言った。
釣りは出せないよと。
もちろんそのつもりで置いたと告げた。
私が勝手に思っているだけかもしれないけど、親しい仲にも礼儀あり。
頼る人がいないこの世界で、私に優しい視線をくれる人たちになら、銀貨といわず金貨を渡してもいいしなんなら大金貨すら惜しくない。
それだけの価値がおかみさんたちにはある。
そんな私の事情、みんな気付かない。
ちょっぴり悲しいけどこれも現実。
おっと、大切なことを聞きそびれた。
「ショバ代を払うのは地区を取り仕切る連中でいいのでしょうか?」
「取り仕切る連中!?」
「はい、影の組織といいますか、賊崩れといいますか」
「なに言ってるんだい、その地区を任されてる衛兵にだよ」
目を丸くして驚く私を見つつおかみさんは言った。
そんなの普通のことだと。
なんとも世知辛い世の中だ。




