第20話 ヨフィーナ王国 辺境の街、ペルーナ -その6-
「あんたで夕飯は最後だ。適当に食べておくれ」
宿屋のおかみさんはドンとテーブルにパンを盛ったカゴと、温かい野菜スープを置いた。
「ありがとうございます」
「ジャムはそこの棚にあるから好きな味で食べておくれ」
テーブルの横、小さな棚に十種類くらいの小瓶が並んでいて、ブルーベリーや野イチゴ、バジル系、?なジャムが棚の一角を彩っていた。
朝ならこれでいいんだけど夕食でこれはちょっとね……。
一食銅貨四枚の食事と言われれば値段相応で、文句は言えないけど……。
う~ん……どうしようかなぁ一人でチマチマやりたいけど、部屋に火は無いから頼るしかないし……。
「おかみさん、暖炉の火を少し貸してもらえますか?」
「いいけどなにか焼くのかい?」
「はい。もしよろしければ、つまみます?」
「つまむ?」
腰を屈み、床に置いた麻袋の中から茶色の紙に包まれたブツを取り出しテーブルに置いた。
「なんだいそれ?」
「漁港でもらった物になります」
「干からびた魚?」
「はい、私の国では干物といって食します」
「これを食べるの?」
「そうです。こちらの人は食べないのですね」
「食べるもなにも、犬や家畜の餌だよこれ?」
「本当は内臓を抜いて塩水に漬け、きちんとした下地処理が必要で、干からびた魚ではないのですが、タダでもらったものなので贅沢は言えませんね」
「本当に食べるの?」
「まぁ黙って見ていてください」
テーブルの上で転がる干からびた魚は四匹で、サイズは小アジくらい。
漁港の端で山と積まれた中から選んできた逸品で、頭と内臓周りが無くてカラッカラに乾燥したもの。
軽く汚れを拭き取り、塩を塗りつけ完了。
あとは焼くだけ。
暖炉の中、チロチロと炭に火が灯りいい感じの火加減。
まずは二匹を鉄製のトングの先に挟んで、鍋掛けの隣にちょいと置く。
――ジュジュゥ――
ちょっと火力が強いけど、多めに焼きをいれたほうが生臭さが飛び、焼き加減はカリカリのウエルダン。
その間にソースの準備。
床に置いた麻袋の中から小壺を取り出しテーブルに置く。
「それはマヨネーズだね」
「はい、香辛料屋さんで買いました」
「結構いい値段がするだろうに」
「自分で作れば安くできるのですが今回は」
「え、作り方を知っているのかい!?」
「材料がそろえば簡単ですよ」
「教えて頂戴な!!」
「えっと……教えるのはかまいませんが、いろいろと面倒事に巻き込まれると思いますよ……」
「あーたしかに、そうだよね……だよね……」
雑貨街の端でたまたま見かけ大銅貨九枚で購入。
見た目、薄味そうだけどちゃんとしたマヨネーズになっていた。
作り方は簡単、お酢と塩、たまごの黄身、植物油があれば誰にだって作れる。
ただ、一般に普及していないのを考えると一部の人たちが既得権益として独占しているのは明白で、そこに切り込むということは喧嘩を売るようなもの。
んで昼間、道を歩いているだけで背後からプスッて刺される可能性が大いにある。
「作り方、知らないほうが長生きできると思いますよ」
「そっそうなるよね……」
「一つ提案ですが、買ってきたマヨネーズがなかなか減らない――というのはどうでしょう?」
「減らない?」
「はい、使っているのになぜか補充されたように、減りが遅いと」
「!!」
「どうです?」
「ルチア、後で宿代の一部を返すね!」
「なにか良い話でもあったのですかぁ」
「まぁね」
「取り引き成立ですね。って言ってたら焦げてっ」
暖炉内からトングを使い二匹を救出しテーブルの上に置く。
「あら、けっこういい臭いじゃない」
「はい、極力生臭さが出ないよう厳選してきたので。あっと、レッドペッパーはあります?」
「あるけど、どのくらい必要?」
「一本で十分です。それと、みじん切りにしてもらっていいですか?」
「あいよ」
おかみさん、スキップで食品棚に向かうと小箱の中から一本取り出し、まな板の上に置いた。
――トントントン――
うん、手際がいい。
「これでいいかい?」
「ありがとうございます。そしたら――」
小壺からスプーン一杯分のマヨネーズを小皿に盛り付け、レッドペッパーを振りかけ混ぜ混ぜしてぇ~できたっ!
そしたら身を裂き裂きして~ちょいとマヨネーズを付けて齧り!
「ん~美味しいぃ」
酸味控えめのマヨネーズにピリ辛のレッドペッパーが絶妙に重なりかつ、生臭さも消しにかかっているから見た目より魚特有の臭いが激減。
若干身が固めなのが難点だけど十分美味しい。
これで醤油があれば最高なんだけどなぁ。
うん、いつか必ず作って醤油無双してみるっ。
「おかみさんもひとつまみどうぞ」
「なんだか涎が出てきたよ」
「そうでしょそうでしょ。固いので齧って味を楽しんでください」
「んじゃいただくとするか――」
おかみさん、一瞬戸惑うもマヨネーズを付けて口に運び齧り。
「ん~?、ん~!?、んん~!」
「じんわり味がしみ出てきません?」
「悪くないね!」
「これはあくまで拾ってきたものなので味はまあまあですが、きちんと下地処理するともっと美味しいですよ」
「本当かい?」
「はい。ただ、好き嫌いは残るでしょうね」
「たしかに、魚が苦手な人は口に入れないだろうね」
「これでお酒でもあれば最高なんですが」
「ちょっと待ってな!」
ダッシュで食品庫に向かったかと思うと一本の古びた瓶を手に持ち戻り「客が忘れていった代物で、癖が強くて飲みにくいけどあたしゃ好きな味だね」
そう言って陶器のカップに少量入れて私の前に置いた。
色は白濁。
クンクン。
カップから漂う匂いは――芋!?
度数、以外と高そう。
するりと口を付ける。
「!」
「どうだい?」
「おかみさん、もう一杯っ!!」




