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黒髪の魔女は優雅に魔術を詠む  作者: 緑乃ぴぃ
黒髪の少女は時(ものがたり)を紡ぐ(つむぐ)
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第12話 静寂が包む森の中に響く声 -その3-


「主様、左奥の谷間に潜伏しましょう」

「谷間って、もし見つかったら終わりよ」

「斜め後方から二つの組みが追ってきて選択肢はありません……」

「……わかった」


 いまから小一時間前、太陽が昇ると同時に逃避行をはじめ、街道に続く獣道を歩いている途中で小アルカナカード群から三枚同時に引いた。


 この場にふさわしいカードをお願いしますとつぶやきながらカードを引くと『QUEEN of CUPS./聖杯のクィーン』を引き当て、事の顛末を伝えたら「(わらわ)は争いごとは苦手じゃ。それでも良いのか?」と口にし、「無理に呼び出してすみません」と告げカードに戻ってもらった。


 フゥ……と、ひと息ついて二枚目をめくると『NINE of PENTACLES./金貨のⅨ』を引き当て状況を説明すると「私が横に立つと、さらに状況を悪化させてしまいますよ?」

 きらびやかな衣装をまとい立つ姿はまさに、賊からしたら『鴨がネギとダシ、鍋とカセットコンロ』を背負っている状態で、これまたすぐにお帰り。


 三枚目はかろうじて『SEVEN of WANDS/杖のⅦ』の男性で、手に杖を持ち、さらに六本の杖が描かれたカード。

『/杖のⅦ』の男性に賊から逃れる算段を相談すると「数人でしたら余裕ですが数十人は……」と言われいま現在、私の背後に立ち、仲良く逃避行の真っ最中。


 小アルカナカードではなく、大アルカナカードを引こうと考えるも歩いている途中で大アルカナカードの入った小袋を落としてしまった。

 金融商品の分散投資ならぬ、分散所持をしたら片方を落としてしまい、まったく意味がないものになってしまった。

 私って昔からいつもそう。

 ここ一番大切なときに運がない。

 小学校、中学、高校、社会人、いつもそう。

 第一志望の高校受験は交通事故に遭い試験を受けれず、希望していた会社へも今一歩のところで入社できず――ってなに考えているんだ、こんな危機迫るときに……。


「しょーもない性格、直さないとなぁ」とぽつりと独り言。


 おっと、それよりもいまやるべき優先順位は落としてしまった小袋の回収。なんでもカードとカードは惹かれ合う性質をもっていて、おおよその場所を特定でき付近に近づくとキラリと光るそうだ。


「主様、やつらが来ます。岩影に隠れましょう」

「はぃ」


――ガサガサ――


 後方から草木を掻き分ける音と、数人分の足音が聞こえてくる。


「あと少しすると隣に来ます――」

「ぅん」


 小さく返事をする私。

 私たちは岩のくぼみに身体を沈めた。

 幸いにも草木生い茂る深い森のせいか、賊たちは私の行動をいまだしっかり捉えられずにいた。

 さらに幸いにも苛立っているせいか、ブツブツ文句を口にしながら近づいて来るからどの付近にいるのか容易にわかった。


「――で、たかが女一人なんだろ?」

「――だ。街から――らしい」

「女一人――――可愛がって――」


 声からして若い男が二人。

 時折、キンキンッと金属の擦れる音がするから剣を持って歩いているよう。

 あと少しで左側付近を通過する。


「そういや、最初に見つけた者に大銀貨三枚出すって――――しないとな!」

「大銀貨三枚、ずいぶん景気がいいじゃねぇか」

「まったくだ」


 二人――いや、三人だ。

 足音の数からして一人無言の奴がいる。

 しかも少し離れた辺りを歩いている。

 前を歩く二人は囮と推測。で、この班のまとめ役は最後尾を歩く男と見ていい。

 賊は基本、頭が悪い。

 けどこいつらは、いままで出会ってきた輩とは一線を画す者たち。

 慎重&慎重に行動しないと鴨鍋の具材になってしまう。

 どちらにせよ、賊たちが歩き去っても少しの間は動かないほうがいい。


「……でよ、俺は言ってやっ――」

「――そうな――」

「――で――」

「ほほう――」


 少しずつ遠ざかっていく。

 安全圏まであとちょっと。

 いけそう。


「主様――」

「はぃ」

「大丈夫でしたね」

「助かったぁ」


 ガバッと身体を起こし、賊たちが歩いて行った方角に視線を送る。

 真っ黒なマントを羽織った男たちは辺りを警戒しつつ、のそのそと足を進めていた。


――!!――


 ふいに最後尾の男が振り向く。

 バッと身を隠す。

 バレた!?

 やっぱり前の二人は囮で、後ろを歩くあいつが本命だ。

 心臓の鼓動を感じつつ、そーっと草木の隙間から覗く。

 最後尾の男、立ち止まり辺りを見回している。


――カラン――


 右側の斜面のほうでなにかが落ちる音。

 三人の視線は音のするほうに向かいジッと一点を見つめ無言でうなずくと、音のした斜面のほうに歩きはじめた。


――カララン――


 またも音。

 賊たちの歩行は歩きから一気に小走りに変わり、さらに左右に広がり探す範囲を広めた。


――カ……ン……――


 またしても音。


「急げっ」


 最後尾の男が指示。

 一斉に走り出す三人。

 斜面を駆け上がっていく。

 よし、もう安心だ。

 もし見つかっても追いつかれる距離じゃない。


「なんとか撒けましたが残り三本です」

「三本?」

「はい、杖を使いました」

「あーなるほど」


『/杖のⅦ』の手に持つ杖以外に六本の杖が描かれていて、杖で音を発生させて囮にしてくれたんだ。


「杖は引き戻せないの?」

「距離があるので難しいですね」

「杖を森の中に置きっぱなしでいいの?」

「それにつきましては心配ありません。小生(しょうせい)が戻るとき、杖も一緒に帰りますから」

「それは良かった」


『/杖のⅦ』は七本の杖を所有しているけど、杖が減ってしまうと数札の並びが崩れてしまう。


「主様、残り三本ありますが、同じ手は通じないでしょう」

「だよね」

「大アルカナカードの落ちている場所までもう少しです」

「あとどのくらい?」

「あと……十分も歩けばたどり着けます。それと――」

「うん、わかっている。ケチらず呼び出せと」

「はい」


 手元には銅貨数枚と大銅貨三枚、銀貨三枚、金貨一枚。

 金貨一枚あれば平民なら十年は余裕で暮らせる額で、貧民街にいたっては金貨を目にした者はいないレベル。


「主様、斜め後方より別の組みが近づいてきます」

「動かないほうがいいよね?」

「相手の人数からして――捜索範囲が広く、発見されるやもしれません……」


 選択肢、ないね……。

 岩影から身体を起こし静かに歩き出す。

 極力音を立てずに歩く私の背後「先程の、三人による囲い込み策を目の当たりにすると、ただの賊ではないでしょう」と『/杖のⅦ』は言い、さらになにか得体の知れない魔法を使っているとも口にした。


「生活魔法以外の可能性があると?」

「その可能性が高いかと……」

「スラム街にいる賊じゃないと――」

「近衛兵崩れか、それに近い者たちかと……」


 この世界は基本、魔法が日々の暮らしを支え、元いた世界でいうところの科学の位置に魔法が鎮座し、文明を育てている。

 そのため、才能を必要とする魔法は王侯貴族、騎士、文官たちが独占していて、平民や貧民街で暮らす人々が扱える魔法は生活魔法が中心となっている。

 もちろん例外はあるけど、ただの平民が数十メートル高くジャンプできる飛翔魔法を使えるなんて聞いた話はなく、パッサリアさんの推測によると、血筋と経験が関係していると言っていた。


「どれだけカードがほしいのやら……」

「仕方ありません。小生が言うのもなんですが、タロットカードの力を手に入れたなら、この国の王にもなれましょうぞ」

「それって――もっと有意義にカードを使えと言いたいの?」

「有意義と言いますか、貴女様(あなたさま)小生(しょうせい)たちを――いささか過小評価しているように見受けられます」

「過小評価?」


 私の背中越し「そうです」と『/杖のⅦ』は断言すると、こうも口にした。


――この世界の(ことわり)を壊し、主様と小生たちが天上人となる世を創造しては――。


「面白い夢物語ね……」


 あぁ思い出した。

『杖』のスート(記号)のエレメント(基本的要素)は【火】で、キーワードは活力、情熱、直感をあらわす。

『金貨』は【地】で、物質と継続。

『剣』は【風】で、理性、社会性。

『聖杯』は【水】で、感情、受容性。


「主様、いかがいたしましたか?」

「んと、少し会話が多すぎて意識が散漫になっただけ」

「そっそうですね、失礼しました。逃げることに集中しましょう」


 私は嘘をついた。

 会話が多すぎて――じゃない。

『/杖のⅦ』が口にした「世界の(ことわり)を壊し――」

 たしかにカードを過小評価している。

 理由、難しくない。

 そう思わないといけない気がして、心に規制みたいなものが入る――。

 って変だよね。

 自分の心なのにうまくコントロールできないなんて。


「主様、別れた班ごとであれば確実に撲殺できますゆえ、いつでもご命令を」


 私は――この世界に――害のあるモノを持ち込んでしまったのかもしれない。

なぜそう言えるのか理屈抜きで私は知っている。


大アルカナカードの最後のナンバーカード21『THE WORLD./世界』

次のステージへの前触れ、次元上昇、すべてのありとあらゆる物事が終焉を迎え無に帰し、世界は一つに融合――。

 ……。

 もしかしたらカードの主たる私の命は、この世界からすると、たいへん有害なモノで、弾かれなくてはいけない存在――。

 そう、私が命を落としこの世界から消え去ると、タロットカードの力は永遠に封印される。

 この世界から見ればカードの力は、未曾有の厄災にほかならない。

なら、賊たちは命をかけてこの世界を救おうとする騎士様、はたまた英雄――。


 私はつと、ズレたまん丸メガネをクイッとかけ直す。


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