第八話 親切設計
使い物にならない僕を身体検査と称して真っ裸にし、肝試しと称してバンジーで吊るされたり……ガクガクぶるぶる。
お姉さん?
「つまりですね、一時的な契約ということになります。
人付き合いが苦手な方も安心してご利用できるシステムとなっています。小さな契約ですと一週間ほどが過ぎますと、「さようなら。またのご利用を」という感じでクランメンバーから自動的に外してくださいますし。恨みっこはありませんの」
オドオドと挙動不審の僕のことを見透かしたように安心システムの紹介をしてくれましたが、僕にはまだ信じられなくて。
『ダイノ、どうやら天に帰るときが来たようだな……』なんて声は、今回に限ってどこからも聞こえないけど。
心配性の僕は、いつもこんな悪しき回想を脳内の【ぼっちGPU】に挿入してしまうくせがあるんだ。
当然フレンドにしたって、その枠を【埋めて安心、見て安心】の領域から這いでた経験もなくて。
まして冒険者団体の聖地である【クラン】なんて。
自己紹介ひとつ、まともに口にできない僕だ。
「おまえさMMOに向いてないんじゃね?」
心がその人だかりの視線に晒されそうでずっと怖かったんだ。
でも僕だって冒険がしたい。
『パーストアトラクション』地図を広げたら世界の中心にいる。
閉じて人前にでた瞬間、世界の片隅にいるように感じてくるんだ。
ここは──常にお試し設定みたいな感じかな。
初心者も恥ずかしがり屋さんも、人見知りさんも安心してご利用できるわけか。
これはずいぶんと親切設計ではないか。
「挨拶を強要される事もありませんよ」
「そんなことってあるの?」
「はい! ございます」
あたり前田の夏休み、みたいなエレガントな顔で僕を見つめるお姉さん。
まるで幼少時代の遠足で出会った「あったかバスガイドさん」みたいだよ。
「今からお渡しするギルドカード、これは別名「銀証」と呼ばれるものですが、そこに定形文の挨拶が複数個あります。それをひとりひとりに向けてあらかじめ設定しておくことができます。あなたがお取り込み中で返事ができなくても自動で返事を返してくれるのです、自動だからそこもおまかせでいいのよ!」
いいのよ!
かぐやのような黒髪美人に自信をもって力強く推されると、なんともうれしいものだ。