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召喚魔王と新米術師  作者: 五味
一章 新米術師
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3 魔王様異世界に立つ

ぞろぞろと集団で連れ立って歩く。

そこに何か意図があっての行進だと、そうは思えない物を進めれば壁と堀に囲まれた狭苦しい町に着く。

低い壁に、碌に加工もされていない石壁は、それこそちょっとした怪物が突っ込んでくれば簡単に崩れるだろう。堀にしても小型の怪物、それも地面の上を行くもの、それしか防ぐことは出来ないだろうというのに、さてどういった意図があっての事だろうか。

彼は目にはいる物、その全てが意図を掴めぬ物珍しさに満ちている、そんな事が楽しくなってきてしまった。

道中、召喚生物はマナの扱いを行うため、そうであるなら召喚に成功したものは戦わせれば良いのでは、そんな事を思いながらも怪物としては定休にもほどがある、物質として存在する野生動物がマナで変質したもの、そんな物とどたばたとやり合っているのを、見世物として楽しむ。

目を放ち、情報を集めるときはそれにどんな意味があるのかと、そう考えながらの事であったが、成程こうして改めて休暇であると、ただ気を抜いてあるものを眺めるのであれば、なかなかに愉快であると、そんな事を考えながら。


「では皆さん、今日は解散です。各自召喚した生物の特性をきちんと調べておくように。」


年かさの者、町の中にある一つの施設。そこに全員がぞろぞろと入っていき、広場に着いたと思えばそう声をかけられる。

どうやら引率の立場であるらしい。

その引率していた相手の一部に劣るというのに、よくもまぁ。ともすれば著名な知恵者なのだろうか。そのような事を考えながらも、このせせこましい建造物、そこに併設された書物を集めた一室。後程そこで改めて情報を集めようとそう心に決めながらも、未だに何やら鬱屈とした様子を見せる少年についていく。

全く、そうしてあれこれとつまらぬことを考え、更に己の心に負荷を与え、自分の首をゆるゆると真綿で己の手で締め上げる、そのような在り方の何が楽しいのかと、そう思わぬでもないのだが。


「どこに行くのだ。」

「寮だよ。まずは俺の部屋に戻る。」

「まぁ、良かろう、案内せよ。」


元の世界にしてもそうだが、どうにもこの人というのは狭く囲われた場所で暮らすのを好む用で、それらしき施設はここに併設されている。

それにしても、彼の姿は珍しいのか、どうにも耳目を引くようである。


「全く。余に興味があるというのであれば、直接尋ねればよいというのに。」

「お前みたいな弱そうな召喚生物に、いちいち話しかけるかよ。」

「外観にしても余は相応に鍛えておるが。」

「魔法のために召喚した生物が、そこらの兵士と同じ体格だからって、何になるんだよ。」

「成程。そういう見方もあるか。だが先にもいったが余の角と羽はマナを操るための外部機関。無論その扱いには長けているとも。」


先ほどよりはまだ意味のある発言を少年がしたため、ようやく会話らしいものができると彼は一息つく。

どうにも市井の会話などを聞く限り、翻訳は問題なく行われているようであった。

つまりこの少年の言語が理屈として破綻しているのは、この者の思考によるものかと思っていたが、会話が全く成立しないという訳でも無いらしい。


「お前みたいな人型は、はずれなんだよ。」

「ほう。」

「くそ。なんで俺ばっかりこんな。」

「その方が周囲から侮られているのは分かるが、聞こえる話を考えるに、分相応、そうとしか見えぬが。」


彼がそう告げれば少年は何やら怒りをあらわに彼につかみかかる。


「生意気だぞ、俺が召喚したくせに。」

「ふむ。呼ばれたから来たのであって、そこに上下関係が発生するものではないが。」

「あるだろ。お前らは俺らの魔力が無きゃ、こっちに存在できないんだから。」

「分からぬ理屈であるな。まぁ、よい。歩きながらする話でも無かろう。

 其の方の部屋とやらに案内せよ。そこで話を聞こうではないか。」


彼はそのはねっかえりを眺めながら、さてここまでの手合いは初めて育てるなと、今後の方針を考える。

情報を集めるにしても、手っ取り早く済ませるならそこらを歩く人から丸ごと記憶を吸い出せば片が付くのだが、流石に犯罪者でもない者相手にそこまでの事をするのは気が引ける。

彼は法を作る側でもあるが、作った物は率先して守るのだから。

プライバシー、それを守ってあげようと、その程度のやさしさはあるのだ。


彼の服を掴んだ手を無造作に払って少年を促せば、何やら舌打ちをしながらも部屋に戻る事には異存がないらしい。

あちこちから聞こえる、この少年を軽んじる声を思えば、確かにわざわざそんな声に耳を傾けているのも無駄に心に疲れを与えるだけ。

それから逃げるように、足を急がせる少年の後を彼はついていく。

全く。

あの者たちの言に、一切の理がないというのであれば、まぁそのような事をする手合い、面と向かって反発したところで卑屈な下種らしい振る舞いを返すだけであろうから意味はないだろうが、羽虫の如き煩わしさ、それを耐えるだけでよいというのに。


いや、向こうの人も常にこのような煩わしさの中にいたから、他者へそれを向けたのだろうか。

これしかやりようを知らぬ、だからこそ他との接触において、彼の国に対してもそのようの真似をしたのかもしれぬ。そんな事を考える。

向こうにいる間も、他国だからと尊重せずに、目を放ち、情報を集めるべきであったかと。

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