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召喚魔王と新米術師  作者: 五味
一章 新米術師
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1 魔王様異世界に立つ

世界間の移動、それがどのような物かと魔王ステラモンドには期待があった。

目を放ち、世界の外側を見ることも、世界の外に行くこともできる彼ではあったが、他の世界そこへの移動だけはどうしてもできなかったのである。

己よりも遥かに年若いフィオレにできて、何故できぬのだとそんなことを考えて過去に一度だけ他の世界への突入を試みたことも有ったが、うっかり世界を破壊しかけたために彼はそれを止めた。

依頼、あれこれと小手先の技を試してみたのだが今日まで実を結ぶことは無かった。


「ふむ。転移と変わらぬな。」


さて、世界の外側、そちらを移動して運ばれるのかと思えば、景色が滲みまた元に戻ったと思えば移動が終わる。彼にも馴染みのある転移と全く変わらない、そんな程度の物であった。

改めて目を放ち周囲を確認すれば、今彼の立つ背後にはなじみのあるものに比べて非常に背の低い世界樹、そしてそれを取り囲む様に彼の国にやたらと侵入を繰り返そうとする人を名乗るものたちが集まっている。

一人だけ、まだ幼いといってもよい少年が彼の側に立ってはいるが、他の者は遠巻きにしているし、何やら耳目を集めている。

そうであるなら、彼の振る舞いは決まっている。


「ほう。出迎えご苦労。異界より渡ってきた余を、こうして揃って出迎えるとはなかなか殊勝であるな。」


そう彼が声を出すものの、それに応える物はいない。

周囲に集まる人は、目の前にいる者と同じく、幼い要望の物が多く、年嵩の物は極少数だ。

加えて半数ほど、綺麗に左右で別れてはいるが、何やら人以外の者、精霊であったり怪物であったり、そういった者を傍らに置いている。

おや、これは見たことが無い状況だと、彼は少しうれしくなる。

見知らぬ世界への旅、やはりこうでなくてはと。


「さて。生憎今どのような状況下余は分かりかねておる。誰ぞ説明するがよい。」


調べようと思えばそうすることもできる。そもそも世界樹が発生からすべての記録を保存しているのだ。

そこから引き出せばいい。しかし異なる世界のまだ小さな世界樹。彼が無造作にやれば痛めてしまうかもしれぬと、配慮と共にそう声をかける。


「えっと、お前は。」


それに応える様に、一人前に出ていた少年が声を上げる。


「ふむ。その方が余の案内役である小間使いか。

 何、呼ばれた故来てみたが用件が分からぬ。疾く説明するがよい。」

「俺は小間使いじゃない。お前は僕が召喚したんだ。」

「ほう。その方が余を呼んだか、であれば、その故を話せ。」


さて、彼がそうして少年から話を聞こうとすれば、何やら賑やかな笑い声が巻き起こる。

そして、一人年かさの物が進み出てきて、少年と彼に声をかける。


「生徒イロイ、召喚が終わったのであれば、その場を引きなさい。次を待つ者がいるのです。」

「はい。先生。お前もこっちにこい。」

「まぁ、説明があれば何でもよい。」


そうして小間使いの少年について歩けば、周囲から笑い声と共に少々耳障りな声も聞こえてくる。

あんなのを引き当てるなんて、やっぱり落ちこぼれ、召喚もまともにできない、命令もできていない等等。

どうにも好き放題に行っているようではあるがと、そんな声を聞きながら小間使いに先導させれば何やら俯き方を震わせている。

そうして少し歩き先ほど見たときに別れていた、人以外と共に並ぶ一団、そこからわずかに離れた場所、そんな場所で少年が足を止める。


「移動先はここでよいのか。余を呼びつけておきながら、部屋の用意もないのはどうかと思うが。」

「偉そうにすんなよ。お前は俺が召喚したんだ、だから言う事を聞けよ。」

「言葉の前後のつながりが分からぬな。ふむ。翻訳がうまくいっていないのか。」


何やら小間使いと認識している相手が何かを彼に行ってくるが、文法がおかしいのか、何を言っているのか理解できない。


「分からないわけがないだろ。」

「言葉は分かるのだが、さて、その方が何やらおかしな言葉遣いをしているのではないか。」


そう言うと、何やら怒りを顔に浮かべているが、この少年からまともな説明は得られそうにないと、彼が召喚された場所、そこで何やら次の物が魔法を起動しようとしているのを見て、そちらを観察する。

恐らくこの少年にあれこれと説明させるよりも、その方がいくらか情報が得られるだろう、そう判断して。


「ふむ。召喚と言ってはいたが、確かに見覚えのある稚拙な術式であるな。」


彼の見る先では、今度は少女が自身の能力ではなく、その魔法を使うために誂えた場に、起動の魔力だけを流し込んで魔法を行使している。

魔方式にしても、実に無駄が多く、あまりにも幼稚な物ではあるがどうやら召喚を行う対象を機動に使われた魔力の雑多な属性、一度に流し込まれる圧などで、多少は選択できるものであるらしい。

そんな無意味な工夫をするくらいであれば、もう少し魔方式の洗練に労力を割いてはどうだろうか、そんな事を彼は考えながら眺めるのだ。

何やら周囲の雑音もあるし、隣の少年が何か言い募ってはいるが、彼の求めた情報が開示される、そういった者ではないため、それらをすべて聞き流しながら。


「どうにも、余に特別何かの要件があって呼んだ、そういう訳ではなさそうであるな。」


そして、数人の召喚が終わり、その様子を観察した彼はそう結論付ける。

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