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召喚魔王と新米術師  作者: 五味
序章 魔王様はお疲れである
3/9

3 休暇へ向けて

そんな騒動から一月ほど。

魔王は全ての部下に順次1週間ほどの休みを与えつつ、欠員の仕事は全て彼が処理すると、そんな力技を示して見せた。

そして一通りの休みが得られなかった古くからの配下達が、しっかり休日を満喫したその時に、彼はすっかり口癖になった言葉を今日もこぼす。


「余も3年程休暇が欲しい。」

「私たちの変わりは陛下が出来ても、陛下の変わりは私たちは出来ませんから。」

「どうした、何を拗ねておる。」


フィオレ、世界樹の花から発生した精霊であり、その始まりから今まで1500年以上も一緒に行動している相手。

いつのころからか彼の秘書のような役どころにうっかり落ち着いた彼女が、1週の休みから戻ってくれば、何処か不貞腐れた様な、そんな表情で定位置で書類をめくっている。


「いえ、別に。」

「休暇はどうであった。」

「ええ、のんびりできましたよ。本当に、まったく、何もやることが無くって。」


どうにも語気が少々刺々しくはあるが、何もやることが無い、それは素晴らしいと彼は喝采を上げる。


「良いことではないか。余も3年程そのような日々を過ごしてみたくはあるな。」

「ええ、ええ。陛下はそうでしょうとも。」


彼女にしてみれば、そもそも長い事、それこそ発生から今までの間、当たり前のように魔王の隣で過ごしてきたのだ。そこには多少の自負もあったのだ。少なからず助けることができているのだと。

それがどうだ、彼女が1週離れた、他の長い間使える配下も、一部が代わる代わる、だというのに王国の運営に何一つ支障がない。

つまり、お前の能力はその程度だと、そう示されてしまった様で、彼女は少々自尊心が気づ付けられたのだ。

部屋で寝ている時、だらだらしているとそんな体裁は取ったが、いつ呼ばれてもいいようにと、日々準備をしながら。


「どうした。休み明けというのに。」


そんな彼女の思いは彼には伝わらない。

何故なら彼はその全てを鼻歌交じりにこなせるのだから。

今は、仕事量が減り、街歩きの時間まで余裕があるからと、いちいち目を通しているが、本気で急いでいる時、忙しい時、彼が城下町を散策できなくなりそうな、そんな時には書類を全て宙に浮かべ、その全てを把握し、同時に処理することもできるのだから。

彼の愛する国民が労を割いた、だから彼もそれを慈しむ、今彼が行っているのはそれだけなのだ。


「いえ。失礼しました。そもそも休暇とおっしゃいますが、その間何をされるのですか。」


これは彼女がたびたび彼に、それこそ彼が口癖となっている言葉を呟くとき、数回に一回は聞いている事でもある。


「ふむ。城下だけでなく、我が国の隅々までを回るつもりだが。」

「それだけなら、それこそ分身体でも作ってしまえばよいではないですか。」


そもそも今だって、本体こそこうして王城の執務室にあるが、主要な部署にはそれぞれ魔王の分身が存在し、それぞれがそこで執務を行っているのだから。無論数こそ劣るが、フィオレもそれぞれの場所で同様に仕事を行っている。

そして、それは王都に限った話ではない。


「今もそうしているが。」

「ですよね。なら、休暇、別に不要じゃありませんか。」

「確かにそうではあるのだがな。」

「だったら、良いじゃないですか。別に。」

「しかし余も久方ぶりに休みが欲しいのだ。」

「えっと、普段通りですけど、休暇中と、そういう事にだけしておきますか。」


彼女の提案に彼は頭を悩ませる。確かに何度となくそんな話はしてきたし、そもそも休みの間であっても彼の目が届く、その範囲であれば執務を行うだろう。

彼は国も、国民も愛しているのだから。


「それなのだ。おそらく、今となってはこの世界の何処にいても、我の目は届くであろうからな。」

「一先ず休暇中として、分身体を出すのを止めてみては。」

「それもそうか。しかし我が身一つで足りぬと身に付けたものであるしな。」

「ですが、そうしていれば休暇もままなりませんよ。本体だけでなく、他は執務をされるでしょうから。」

「しかし、この世界において、そうであると難しそうだな。」

「他国に行かれれば、少しは休まるのでは。」

「他国とてみようと思えば見れるのだ、己に縛めているだけでな。」


そう、少なくともこの世界、広がる大地、そのうえで彼が認識できぬものは無い。

それこそ草の一本、その根、広がる海、そこから特定の一滴を取り上げよ、そう言われてもできるほどに。


「そうなると、他の世界ですか。」

「流石に我は異なる世界にまで手を伸ばしておらぬからな。そなたは出来るのであったか。」

「ええ、世界樹は数多の世界に根を下ろしていますから。その結実たる私は、勿論行えますよ。」


そう、この国で彼女が彼に並び立つ、そう見られているのは彼女にだけしかできない、そんな事が有るからだ。今は。


「そうであるなら、何処か適当なところに送ってもらって休むというのもいいが、時間の流れも異なるのだったか。」


そう、問題はそこだ。彼が三年とそう望んでいる休みが、違う世界で一日流れただけで終わる可能性もあるのだ。


「そのあたりは、調整次第でしょうか。」

「ほう。」


彼女の言葉を聞いて、彼は少し乗り気になる。正しく三年、特に意味もなく何となく口にした期間ではあるが、かれこれ5百年は言っていたため、今となってはその数字にもこだわりがある。

それが叶うのなら、確かにそういった休みも悪くない。

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