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召喚魔王と新米術師  作者: 五味
序章 魔王様はお疲れである
2/9

2 政務の一コマ

「何故こうも毎日余の執務室に書類が届くのだ。」


今日も彼は目の前に積まれた書類に軽くため息をつきながら、少し離れた位置で書類を仕分けているフィオレに話しかける。


「陛下の決裁を待っているからです。」

「この中のどれほどが、余しか決められぬというのだ。」


そう言いながらも一先ず一番上の物を手に取り眺めれば、そこに書かれていたのは王都防衛隊南西第6小隊の一人が備品である装備を破損した、そのような内容であった。


「備品の報告、それも剣一本であれば、小隊長の決裁で十分であろう。」


一先ず彼はそう愚痴りながらも、討伐対象の魔物、鉄を腐食させる毒、それがその身に流れる爬虫類型の怪物への対処だというのに、剣への防護魔法を使わなかった叱責と共に4年前の出現例、それが正しく共有されなかった防衛隊への知識共有、新人への指導に対する質問状を作り、それを脇に置く。


「そう思われるのでしたら、そのまま突っ返せば宜しいではありませんか。」


自身の手元の書類から顔も上げずにそう返され、彼は次の書類を手に取りながら、それに反論する。


「余の愛する国民が、余を頼っているのだぞ。」

「そうやっていつもご自身で抱え込むから、仕事が減らないんですよ。」


次の書類に目を通せば、王都の東部農業区画、王城にも納める麦畑を代々管理している夜歩き物の一家、そこの跡取りから生まれた子供の名前を考えてほしいと、そんな事が書かれている。


「そうは言うがな。わが愛に応える国民たちに、我が応えずして何とする。」


そう言いながらもまずは妻とよく話し合うことが重要である、そう書きながらも彼の一家、その中でも麦の品種改良に心血を注ぎ、魔王ですら唸るほどに優しい甘さを持つ麦を作り上げた、その人物の名前にあやかる形で一つ、隣国ではあるが土地への加護、それについては右に出るものがいないそんな精霊の一人の名前から一つと案を挙げ、四つほどになったところで次の書類を手に取る。


「甘やかしすぎではありませんか。」

「余に甘えることに何の遠慮があるというのか。我が国民たちは須らく我が子である故。」


そして次の書類、次の書類と、話している合間にも次から次へと処理を行っていく。


「では、今後も休暇はお預けかと。」

「それとこれとは話が違うのではないか。余が最後に一人で寛いだのは、既に1000年は昔の事だぞ。」

「あの頃はまだ国も小さかったですから。」

「しかし、余の優秀な配下達もいるではないか。」


そうして、先ほどの名前を考える、それと同じ速度で突如新規開拓中の農村に発生した怪物、それによって発生した被害への補償に関する案への改善案を作り、それも処理済みの箱に放り投げる。

投げられた紙は、そのまま宙を滑り、それが当たり前であると、いくつかに分けられた書類入れの中へと納まる。


「その配下達も陛下の取り立てた者ですから。」

「余としても後進の進歩はみたくある。どうだ、余がここらで一度長期の休暇を取って、全てを任せてみるというのは。」

「悪くはないと思いますが、他国へ行ってくださいね。」

「何故だ。」

「自国にいるなら、当然陛下へ仕事を頼むに決まっているではありませんか。」

「余は休暇中と、そうなるはずだが。」


互いに次々と書類を捌きながら、彼と彼女は話を続ける。


「どうせ城下町や、あちこちで遊んでいるんでしょう。」

「それが我の心の潤いである故な。」

「私たちに仕事を押し付けて、そんなのんきに遊んでる姿を見たら腹が立つじゃないですか。」

「何と、狭量な事だ。」


仕事の手は止めず、そもそも手を使う必要もなく書類とペンを宙に浮かべて芝居がかった様子で魔王が嘆いて見せる。


「ああ。こうして日々我が国民たちのために骨を折っている、そんな余への慈しみはないものか。」

「馬鹿なこと言わないでください。国民はともかく、この冗談みたいな仕事量を日々こなしている私たちに、そんな物があるわけがないでしょう。」

「だがその方らはこなせるではないか。」

「私たちだって休みが欲しいんですよ。」


そういって彼女は机を叩いて立ち上がる。


「休めばよいではないか。」

「陛下が働いてるのに、私たちが休めるわけないでしょう。私だってここ1000年は一日、丸一日休んだ記憶がありませんよ。」

「何と、うら若い乙女がそれでは干物のそしりを免れぬであろう。ふむ、数日しっかり休み、着飾り、その種族に相応しく町の通りに華を添えるがよい。」

「誰が干物だ。」


どうにもそれは禁句であったらしく、少々過激な威力、それこそ何もしなければ王都が灰燼に帰すような、そんな威力の魔法が放たれるが、それはあくまで何もしなければ。

魔王が作った結界の中でだけそれは炸裂し、実際には何が起こったと誰かが気が付くこともない。


「危ないではないか。書類が、我が配下達が作った書類が焦げたらどうするつもりだ。」


彼も特にそれをどうという訳でも無く、当たり前のようにそう告げる。


「まったく。じゃ、良いですよ。私、一週間休みますからね。知りませんよ。忙しくなっても。」

「何、構わぬ。休みたいときに休めぬ、そのような国にするつもりはない故な。」


そもそもこの国は彼一人、それで全て事足りるのだから。

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