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第八話 ロナとユメリア


 アンナの酒場でアンナが絶叫を上げながら、『もう絶対宰相閣下の仕事は受けない!!』と強く――出来るかどうかはともかく、強く誓った翌日、アンナの酒場に二人の女性が訪れていた。


「……アンナさん、何の用でしょうか……?」


「さあ? でもアンナさんの呼び出しなら来ないわけにもいかないじゃん? 無視して仕事振って貰えないと困るしさ? ったく……あのオバサン、人使い荒いくせに細かいんだから」


 つばの大きなとんがり帽子に、黒いローブと杖を持った少女が不安そうな声を出すと、隣に立っていたプレートメイル姿の少女がため息を吐きつつ答える。面倒くさいを体現するようなその姿に、魔女っ娘少女が少しだけ慌てた様に口を開いた。


「ろ、ロナさん! そんな事言っちゃだめですよ!! アンナさんに叱られちゃいます!!」


「いい子ぶって。アンタだって思ってるでしょ? 人使い荒いって。違うの、ユメリア?」


「ひ、人使いが荒いとは……そ、その、もうちょっと配慮した日程で依頼を振って下さればいいのにな~とは思いますけど……」


「それを人使いが荒いって言うの。ま、それじゃさっさとアンナさんに会って用件聞こうか? もしかしたら物凄く良い話かもしれないしね」


 そんな可能性は低いけどね、と吐き捨てロナと呼ばれた少女はアンナの酒場のドアを押し開け、その背にユメリアと呼ばれた少女が続いて建物の中に消えていった。


◆◇◆


 ロナ・テイラーは剣士である。剣士、といっても何々流とか何処何処派みたいなかちっとした剣術を学んだわけではない。自衛の為、そして人よりちょっとばっかり強いその力を買われて護衛の真似事みたいなことで糊口をしのいでいる、まあ言ってみれば武器が『剣』というだけの話だ。それでも正式に流派を学んだ人間とも互角以上に渡り合えることから、若手の有望株とも言われている。実際、年齢の割には沢山の依頼を受けてきて、その中には死にそうな程に厳しい護衛任務もあったりしたのだが……まあ、それでも生き残っているあたり、やっぱり腕はそこそこ良い。戦闘職としては師範代クラスともいえる中級まであと一息、といった剣士である。


「よく来てくれたわね~、ロナちゃん、ユメリアちゃん。待ってたわ~」


 そんな世界で生きて来たロナの嗅覚はまあまあ優れている。そして、その優れた嗅覚でみるに今日のアンナはちょっと――だいぶおかしい。そもそもこの目の前の行き遅れのババア、自分の事をロナ『ちゃん』なんて呼ばない。せいぜい『ロナ』だし、酷いときは『おい』とか『お前』呼ばわりだ。百歩譲って自分の立場を自覚し、呼び方を改心したとしても――目の前に置かれた高級そうなお菓子と、いい香りのする紅茶など出すはずがない。守銭奴だし、このババア。


「う、うわ~。アンナさん、このお菓子、食べていいんですか!?」


「ええ、どうぞユメリアちゃん? 若手のホープの貴方達ですもの。いつもお世話になっているから、たまにはご馳走しようと思って! ほら、王城の側に高級菓子店、あるでしょう? そこで買って来たの! 二人に食べて貰おうと思って!」


 ニコニコと怪しい笑顔を浮かべる年増に、ロナの視線の険が増す。隣のユメリアが『わーい!』なんて嬉しそうに高級菓子に手を伸ばしたのをすかさず止める。


「ユメリア、食うな」


「え、ええ~。なんでですか、ロナさん! 折角、アンナさんが用意してくれているんですよ? 食べないなんて選択肢、ないじゃないですか! 私、こんな高級なお菓子食べるの久しぶりですよ!!」


 不満そうに頬を膨らますユメリアにロナが呆れた様にため息を吐く。コイツだって魔法使いとしては優秀な部類に入る。腕こそ戦闘級だが、何かのきっかけがあれば戦術級も使えるだろうし、なにより一緒に修羅場を潜ってきた経験もある。


「……お前、何かおかしいと思わないのかよ? いいか? アンナさんだぞ? 行き遅れの守銭奴の人使いの荒いクソババアだぞ? そんなアンナさんが、私たちの為に高級菓子に紅茶だ? んな殊勝な性格じゃねーだろう? 目、覚ませよ?」


 ロナの言い分に、アンナの眉がピクリと動く。キャリアウーマン、独身女性として働いてきたアンナに取って『行き遅れ』は禁句である。守銭奴と人使いの荒さは……まあまあ自覚しているので別に良いが。


「……やだな~ロナちゃん? そんなわけ無いでしょう? 後、行き遅れは訂正してくれるかしら? 別に行き『遅れ』ている訳じゃないのよ? 行かないだけで」


「は! 四十手前で何言ってんだか! 今更アンナさん貰ってくれるような奇特な人間が居るわけねーだろうが! それよりさっさと吐け! この高級菓子と紅茶でどんな無理難題を聞かせるつもりだ? 内容次第ではこの菓子にも紅茶にも手をつけねーぞ! ユメリア、お前も――って、ユメリア! 何食ってんだよ、お前!」


「ふぇ?」


「『ふぇ』じゃねーよ! お前、私の話聞いてなかったのか!? 良いか? これ絶対、このクソババアが私たちに無茶な仕事を振ろうとしてんの!! この菓子と紅茶と気味の悪い喋り方はその前兆だ! 確定だろうが、こんなもん!! なんでわかんねーんだよ!!」


「えー。そんなこと無いですよ、ロナさん」


「そんな事あるの!! っていうかお前、危機察知は早い方だろうが!! なんで気付かないんだよ!!」


「だって、アンナさんですよ?」


「だから――」



「どんなにこのお菓子を私たちが『食べない』選択しても……どうせ無理矢理言う事聞かせられるに決まってるじゃないですか。だったら、折角のお菓子、食べた方が得ですよ~」



「――あー、うん。そっか。そりゃ、そうかも知れねーな」


「はい。私、危機察知は早い方なんです。もうね? この呼び出し食らった瞬間から『ああ、どうせ碌な事じゃないんだろうな~』って思ってたんですよ。だから、むしろ高級お菓子まで食べられるならラッキー、みたいな?」


「……無茶ぶりしようとしてたのは認めるけどね? アンタたち、流石に私の評価が低すぎないかしら?」


 昨日から無茶ぶりされ続けた上に、こうやって言葉の刃で傷つけられたアンナはきっと、泣いていい。



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