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プロローグ 

新作、始めました。


 アレックス大陸には四季がある。


 冬の凍てつく氷の季節は体を寄せ合い寒さを防ぎ。


 春の季節には芽吹く命を言祝ぐ様に歌い合い。


 夏の太陽の下では汗を流して労働を喜び。


 そして。



『緊急速報! 緊急速報!! アレックス近海で発生した『魔王六号』は大型で強い勢力を保ったまま非常にゆっくりした速度で北上中。予想進路はスモロア皇国ロビア、ランドル、ブリッスト、サルバドール王国ランデルギア方面! 周辺地域にお住いの皆様は身の安全を確保して速やかに指定の避難場所へ避難してください!!』



 そう。


 魔法放送無線石話から流れる通り、このアレックス大陸の秋の風物詩は。



『繰り返します! アレックス近海で発生した大型で強力な『魔王六号』は、強い勢力を保ったまま――』



 ――天災、『魔王』が居ることだ。


◆◇◆


「エリオ、いる?」


「此処に」


 サルバドール王城。豪奢な建物の三階の一角に誂えられた『魔王六号緊急対策本部』に、若干二十二歳のサルバドール王国国王、クリス・サルバドールはのんびりした仕草で入って来た。書類を抱えてあちらこちらを走り回っている王城勤めの官僚たちとは反比例するその仕草に反感を抱くものは少なく、むしろ『流石、陛下……! 不測の事態でも落ち着いておられる……!』と頼もしそうな視線を向け――女性官僚は『ああ……今日もお美しい』といううっとりした視線を向ける。ハニーブロンドで、猫みたいな癖っ毛を持つ件の国王陛下はそのまま『エリオ』と呼んだ男の上座に座る。


「状況は?」


「教皇庁からの魔法無線石話通りです、非常に強い勢力を保った魔王六号はスモロアの西方を掠める様に北上して、我が国のランデルギアに直撃の予想です」


 黒髪の青年はそう言って掛けていた眼鏡に手を当てると、鋭利な視線をクリスに向ける。童顔気味であるクリスとは正反対、鋭利な視線に充分『イケメン』と例えられるその容貌を持つこの青年はサルバドール王国公爵にして王国宰相エリオット・サルバドール。名前が示す通り、数代前の国王の子息が臣籍降下して作られた王別公家だ。ただし、名前と格式だけの王別公家とはまさに別、クリスと同い年の二十二歳で王国行政の全てを統べる宰相についていることで能力は分かるというものだろう。


「教皇庁の魔法ラジオ予想は当たるからね~。それで? スモロアはなんか言ってる?」


 クリスの声に、少しだけエリオット――『エリオ』の頬が引くつく。


「マリア・スモロア摂政姫宮からは『今回のサルバドール王国の今回の被害に対して深い追悼の念と支援を惜しまないことをお約束します』との事です」


「わお! 余裕だね、マリアちゃん」


「『あらあら~。大変ですね~、サルバドール王国も。どうです? 『お願いします、美しいマリア様。どうかお助け下さい!』ってエリオット様が私の前で傅いて手の甲にキスしてくれたら、少しくらいは融通して差し上げますが?』との事です」


「相変わらず、煽るね~。ま、マリアちゃん的には必死なんだろうけどね~」


「スモロアは今回の六号の進路からほぼほぼ外れています。被害といえども軽微でしょう。対してランデルギアの被害は……まあ、想像もしたくないです」


 曇るエリオの顔につられる様、クリスの顔も曇る。


「……収穫時期ってのも痛いよね~。特にランデルギアは穀倉地帯だし……飢饉の備えは?」


「備蓄はあります。ありますが……まあ、あまり芳しくありません。特に、今後の魔王災害を考えると……あまり此処で放出はしたくなかったですが、民を飢えさせる訳には行きません。特別予算を組みました。裁可を」


 そう言って手元の書類を差し出すエリオに、ひゅーっと口笛を吹くクリス。


「流石、名宰相閣下は仕事が早いね~。それに民の事もしっかり考えてるし……ねえ?」


 渡された書類に目を通しながら、クリスは視線を官僚に向ける。視線を向けられた女性官僚はびくっとなりながら、それでもびしっと姿勢を正した。


「はっ!」


「こんなに民の事を考えて優秀な我が国の宰相閣下がさ? 他所の国から――」



 ――悪辣宰相、なんて言われてるの、どう思う? と。



「……エリオット宰相閣下は、公明正大にして敵には容赦ないお方ですので……」


「一遍、懐に入れた人間にはとことん甘いけどね」


「……そのギャップが宰相閣下の魅力かと」


「そだね……良し、裁可。それじゃこれを基本路線で……それでも足りない分はスモロアから買い入れしよう。交渉頼むよ、エリオ?」


「……仕方ありません」


「マリアちゃんはエリオにご執心だし? ぜひとも良い条件でお願いね?」


 ニヤリと笑うクリスに面倒くさそうな表情を浮かべて手をひらひらと振って見せるエリオ。


「善処はしましょう。それでは付近の住民の避難指示書を作成した後、私は帰宅しますので」


「あれ? もう帰るの?」


「我が国の優秀な王城スタッフなら基本路線さえ決まれば後は問題なく処理してくれます……そうだろう?」


「「「はい!!」」」


「と、言う事で陛下、失礼します。元々私は非番ですので」


 席を立つエリオをきょとんと見つめた後、クリスは何かを思い出したかの様に手をポンっと打った。


「ああ、そっか。ごめん、ごめん、魔王発生で頭から抜けてた。今日だったもんね。それじゃ早く帰ってあげて。後でボクの方からもお祝いの品を持たせるから」


「ありがとうございます、陛下。それでは」


 そそくさと一礼をした後、いそいそとその場を後にするエリオ。そんなエリオを微笑ましく見送った後、クリスはぽそっと。



「――まあ、今日は可愛い可愛い『義妹』の誕生日だもんね。シスコンのエリオに取っちゃ一大事か」



 ――この物語は、優れた内政手腕と冷静で時に非道な外交手段と――その整いすぎてインテリヤ〇ザみたいな風貌を持って、他国から『悪辣宰相』と呼ばれた宰相エリオット・サルバドールが義妹の幸せの為にその持てる力を全力で使うお話である。



 ……たぶん。


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