10話
濃紺のレースが重なったふんわりとしたドレスが波打つ。
首も腕も全て同じ色のレース生地に覆われ、きっちりと結い上げられた桃色の髪には水色の花が飾られていて華やかだ。
鏡に映った姿を見たフロレンツィアは一瞬嬉しげに目を輝かせたが、じっと自分自身と見つめ合った後に眉を下げた。
「私なんて、こんな素敵なドレス似合わない」
「何を言いますの? わたくしより似合ってましてよ!」
「結婚式は社交の場ですよ! 頑張って素敵な王族を捕まえましょう!」
側に居たベルティーナとアメリは二人で全力で自己肯定感の低いフロレンツィアを盛り上げる。
今日はテオバルトとベルティーナの結婚式だ。
リーリエ王国に来てから約一か月。
様々な準備を経て、ようやくたどり着いた日。
そしてここは、花嫁の控え室。
本来はベルティーナが身支度を整える場だがそれはとっくに終わり、アメリと二人でフロレンツィアを飾り立てていた。
(絶対に殿方が放っておかない貴婦人ですのに!)
式典自体は厳かな雰囲気の中で神に誓いを捧げるものであるが、その後には華やかな披露宴が待っている。
世界各国から皇族王族、それに値する人々が集まってくるのだ。
ベルティーナの祖国のローザ帝国は国交が広い国だった。そのため、ベルティーナは来賓の中に未婚の王や王子がいることを知っている。
虐げられていたとはいえフロレンツィアは公爵家の娘。しかもアルファを産みやすいとされるオメガだ。
披露宴では魅了された人々に取り囲まれるだろう。
ベルティーナはオメガをアルファを産み出す道具とみなしているような上流階級の風習は気に食わなかったが、少なくとも他国ではこの国に居るよりはよっぽど大切に扱われる。
チャンスがあるに違いないと、フロレンツィアには社交で必要なことをアメリと二人で叩き込んだのだ。
しかし、そう簡単にフロレンツィアに自信がつくわけでもない。
「……オメガなんかと結婚してくれる人なんて……」
これである。
テオバルトといいフロレンツィアといい、すぐに「オメガなんか」と。
幼少期に戻って二人を愛し抜きたい気持ちで、ベルティーナは縮こまる細い身体を抱きしめた。柔らかい手つきで、ようやく艶の戻ってきた髪を撫でる。
「わたくしの国の皇太子妃はオメガでしてよ。貴女のように可憐で愛らしくて庇護欲をそそる」
「お前の花婿とは正反対だな」
「あらテオバルトさま」
甘い薔薇のような香水の匂いと共に、唸るような低い声が入ってくる。
フロレンツィアを離さないまま振り返れば、白い婚礼衣装に身を包んだテオバルトが扉から歩いてくるところだった。
いつも以上に眉間に皺を寄せ、不機嫌を隠さない表情。結婚という幸福を控えた者とは思えない雰囲気を纏っている。
(なんて分かりやすくかわいい人……)
本人の無意識の嫉妬心を感じとったベルティーナは、目尻を下げながらフロレンツィアから身体を離す。
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