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アイドルの墓場(末っ子5)  作者: 夏目 碧央
7/18

恋愛感情?

 演劇訓練所に入所した。カズキ兄さんと二人部屋で寝泊まりし、毎日朝から晩まで訓練にいそしむ。

 知った顔もちらほら見かけた。この間までアイドルだった人たち。グループとしては後輩だった人達ばかりだ。ちなみに、この訓練所に卒業はない。自分でもう充分学んだと思ったら出ていくのだ。実際は、俳優としての仕事を見つけたり、所属会社から帰ってきていいと許可が出たりして、出ていくのだが。俺たちはユウキ兄さんの復帰まで、一年半と終わりが決まっているからまだ気が楽だ。いつまでいるか分からない、元アイドルの人も多いだろう。

 「カズキ兄さん、おはよう。大丈夫?」

元気のない、痩せてしまって食欲もイマイチなカズキ兄さんを、俺はついつい気遣った。

「ご飯食べに行こうよ。」

「いい。朝は食欲ない。」

「ダメだよ、スープだけでもお腹に入れないと。元気出ないよ。」

そんな風にして、無理やり食堂に連れて行く。甲斐甲斐しく、スープを取ってきて目の前に置いてあげたり。あまりに頑固に食べないと、スプーンですくって口に入れてやったりして。そんな風にすると、カズキ兄さんはちょっと笑って食べてくれる。スープだけだけど。

 発声練習にランニング、腹筋背筋運動、歌の練習にピアノやギターの練習、ダンスの練習と、毎日ハードな訓練だった。だが、ダンスは余裕だし、一応歌手だったのだから歌の方も難しくはない。うん、なかなかに楽しい毎日であった。ランニングはちょっと苦しいけれど、筋トレの方はいつもやっていた事だし。

「レイジ、余裕だな。」

カズキ兄さんは筋トレがあまり得意ではない。その代わり、ダンスは俺以上に得意だ。そして、二人とも楽器の腕前は散々なもの。ま、実際俳優になるのにピアノやギターが弾けなくてもそれほど困らないのだが。

「ピアニストやバイオリニストの役が来たらどうするの?その時にどうせ特訓するんだから、今特訓するべきよ!」

舐めていたら、先生に怒られた。


 テツヤには三日にいっぺんくらい電話した。テツヤの低めなハスキーヴォイスが耳をくすぐると、胸がドキドキしてくる。声を聞けるだけでもありがたい。けど、やっぱり寂しい。電話を切った後、部屋の窓から外を眺めていると、カズキ兄さんがそっと俺の背中に寄りかかってきた。

「ん?何?」

慰めてくれているのかな。いつも俺の方が面倒を見ているけれど、やっぱり兄さんだな。なんて、思っていたのだが。

「レイジ、テツヤが恋しい?」

上目遣いで聞いてきたカズキ兄さん。振り返ると、その目はウルウルしていた。

「え?そりゃ、まあ。」

なんだ、この状況は。カズキ兄さんが抱き着いてきて、どうしたらいいものか手が迷っている。背中に手を回すか、頭を撫でるか……突き放すか。

 弱っているカズキ兄さんが可哀そう。だからって、あまりベタベタするのも違うような……。でも、相手が嫌がらなければ構わないのかな?

「ごめん、俺レイジを困らせてるよね。」

カズキ兄さんが言った。

「え?どういう……。」

どういう意味だろう。するとカズキ兄さんは、

「でも、ごめん。俺、レイジの事、好きになっちゃったみたいだ。」

と言った。う、うそ。それってやっぱり、恋愛感情って事?いかん、これは突き放すのが正解だ。

「待って。」

だが、突き放す前にカズキ兄さんが声を上げた。

「大丈夫。ちゃんと分かってるから。レイジはテツヤの事が好き。それは、分かってるから。だから……。」

カズキ兄さんはそう言って、腕にギュッと力を込めた。分かってるから、突き放さないでという意味なのだろう。うーん、確かに困った。


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