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アイドルの墓場(末っ子5)  作者: 夏目 碧央
6/18

出発

 最後のライブ配信をした。訓練所に入所すると、一切の芸能活動は禁止される。だからこれから一年半の間、ライブ配信はできないのだ。そしてライブ配信後、散髪をした。

「案外短髪も似合うじゃん。」

テツヤがそう言って、俺の後ろ髪を下から上へ撫でた。すごく気持ちいい。そのままテツヤの腰をギュッと抱く。テツヤもさっぱり短髪にしてきた。なんだか若返って、これはこれで可愛い。大きな目を隠すものが無くなって、このダイヤモンドは高そうだなーなんて、考えたりして。

 それにしても、明日からしばらく会えないというのに、テツヤは機嫌が良い。俺は、本当は泣きたくて仕方がないのに。でも、そんな事を言っても、実際に泣いても、困らせるだけだ。だから、話を逸らす。

「なんかさ、カズキ兄さんの元気がないんだよね。」

「そうなのか?北海道に行くのが嫌なのかな。」

テツヤが言った。

「シゲル兄さんと別れたんだって。何ヶ月か前に知ったんだけど、まだ立ち直れてないのかもね。」

俺がそう言うと、

「そっか。後で電話してみるよ。」

テツヤはそう言った。そんな事じゃない。俺が今、言いたい事はそれじゃない。聞きたい事も違う。ああ、この思いはどうしたらいい。

「レイジ、浮気するなよ。」

テツヤがいたずらっ子の顔をして言った。

「それはこっちのセリフだよ。」

これは本当に言いたい事だ。

「浮気するなよ、テツヤ。」

俺が耳元で囁くと、テツヤはビクッと肩を震わせた。

「ん?」

顔を覗き込むと、頬を赤らめている。

「どうしたの?テツヤ……」

また耳元で囁いた。もう、力が抜けて押し倒すのも簡単。テツヤは耳元で名前を囁かれるのに弱い。俺に「テツヤ」と呼ばれるのが好きなのだ。

 最後だと思うと、何もかもが名残惜しく、テツヤの全てを味わいつくそうと、じっくりと時間をかけて愛した。


 テツヤは元気に兵庫へ旅立った。彼はお芝居が好きだし、ミュージカルも好きなのだ。自分がその世界に飛び込む事に、ワクワクしている。俺と離れ離れになる寂しさよりも、そっちのワクワクが勝っているらしい。俺はそんなテツヤを恨めし気に見送り、こちらは北海道へ向かった。元気のないカズキ兄さんと一緒に。


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