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アイドルの墓場(末っ子5)  作者: 夏目 碧央
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突然の別れ

 訓練所へ入所する前に、実家に帰ったりしてゆっくり過ごしていた。この時は、どこへ行くのかを知らされていなかった。決まっていなかったのだろう。だが、入所の一週間前になって、知らされた。まさかの、四人が二手に分かれるという事になった。

 しかも!俺とテツヤが離れ離れになる事に!うそだー。俺は、テツヤと一緒ならどこへだって行くし、どんなにつらくてもへこたれない自信があったのに。だって、その二か所というのは北海道と兵庫県なのだ。遠いのだ!

「えーと、タケルとテツヤは兵庫の宝塚訓練所で、カズキとレイジは北海道の網走訓練所だ。」

イッセイさんにいきなりそう言われて、俺は心の中で叫んでいた。テツヤもショックを受けているだろうと思ったのだが、テツヤは案外けろりとしている。

「俺、誠会のメンバーと会う事になった。」

そう言って、一人で行ってしまった。俺を連れて行ってくれないのか……。誠会というのは、テツヤとかつてドラマで共演した数人の俳優仲間だ。テツヤよりも年上ばかりで、ああ、あの中には演劇訓練所出身の人もいたはずだ。

 訓練所に入所する時には、染髪・長髪は禁止で、坊主とは言わないまでも耳に髪が掛からないように短髪にして行かなければならない。俺たちアイドルは割と長めの髪型をしており、相当印象が変わるはずだ。俺が行くのは北海道の北部、網走。冬には周りから雪で遮断される。そう簡単には実家にさえ帰れないはずだ。

 だが、訓練の厳しさでは網走よりも宝塚の方が上らしい。休日でも外出が制限されるとか。まあ、兵庫辺りだと人も多くて有名人が外に出たら大変な事になりそうだから、どのみちテツヤが不用意に外に出る事は出来ないだろうが。


 そんな中、カズキ兄さんの様子がおかしかった。気が付いたらすごく痩せていた。そういえば、以前恋人と別れたと聞いた。あの時は冗談で俺に付き合うか、なんて言って笑っていたけれど、もしかして元彼を引きずっているのだろうか。

「レイジ、支度はできたか?」

出発まで二日という頃、カズキ兄さんが家を訪ねてきた。

「うーん、大体できたと思うけど。何か必要な物があったら買えばいいし。」

俺がそう言うと、

「甘いな。網走で満足に買い物ができると思うか?」

カズキ兄さんが真顔で言う。

「何言ってるんだよ。ネットでポチればいいでしょ。」

俺がすまして言うと、

「うっ……。若者めが。」

カズキ兄さんがそう言って笑った。笑ったが、ちょっと寂しそうな笑顔だった。

「どうしたの?最近元気ないね。体調でも悪いの?」

俺がそう言ってカズキ兄さんの前に座ると、カズキ兄さんはじっと俺の顔を見てきた。

「何?」

そう言うと、カズキ兄さんはポロっと涙を流した。

「えー!」

困った。ちょっとパニック。カズキ兄さんは真顔のまま、ちょっとうつむいて涙をポロポロ流している。俺は立ち上がって手をバタバタさせたが、その辺にあったティッシュを数枚引き抜いて、カズキ兄さんの頬に当てた。右の頬、左の頬。すると、座っていたカズキ兄さんは、立っている俺の胴体にガシッとしがみついてきた。何となく、カズキ兄さんの頭を撫でた。泣き止め、泣き止め、と心の中ではハラハラしながら。


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