幸せになってほしい
部屋が狭くたって、自由に遊びに行かれなくたって、昔を思えばどうという事はない。そう、タケル兄さんとテツヤは話していた。厳しい訓練も、下積み期間の俺たちの練習に比べたら、大したことはないと。そう、あの頃は成功するのか、デビューできるのか、売れるのか、全く分からなかった。どんなに努力をしても報われないかもしれない、この厳しい練習も無駄になるかもしれない、そう思いながらも歯を食いしばってやってきた。当初望んでいた以上の成功をおさめた俺たちは、どう転んでも大丈夫。心強い仲間がいて、たくさんのファンがいて、ぶっちゃけ過去の栄光がある。不安がないと言えばうそになるが、それでも、何も掴めないかもしれなかった昔と比べたら、遥かに気が楽なのだ。
二人とお別れし、そそくさと北海道へ戻って来た俺。何とか朝の訓練の前には寮に戻る事が出来た。
自分の部屋のドアを開けて入って行くと、一瞬ドキリとした。カズキ兄さんがベッドにうつ伏せに横たわっていたのだが、こちらをじっと見ていたのだ。その憂いを含んだ目を見たら、俺の心臓はギューッと締め付けられた。
「テツヤに会えたの?」
泣いていたのか、カズキ兄さんの声はかすれていた。
「あ、うん。」
「そっか。良かったね。」
無理にちょっと微笑もうとするカズキ兄さん。ああ、この人にも幸せになって欲しい。心からそう思う。でも、幸せにするのは俺じゃない。俺が幸せにできるのは、一人だけだから。




