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アイドルの墓場(末っ子5)  作者: 夏目 碧央
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甘々な旅

 そうだ、旅行に行こう!

 ソロ活動が一段落したところで、俺の恋人であるテツヤ兄さん、もとい“テツヤ”が言った。もちろん俺に異存はない。

「レイジ、どこ行きたい?」

ベッドにうつ伏せになって顔を横に向け、キラキラした目でテツヤが俺に問う。

「兄さん、いや、テツヤと一緒なら、どこでもいい。」

最近テツヤから、“テツヤ兄さん”ではなく“テツヤ”と呼んで欲しいと言われ、俺もその方がいいと思ったものの、まだちょっと慣れていない。

「じゃあ、国内と海外だったらどっちがいい?」

またテツヤが問う。

「あ、俺ローマに行ってみたい。コロッセオに行ってみたいんだ。あと、ポンペイとか。」

テツヤの隣で横になっている俺。まだ二人とも汗びっしょりで、思いっきりけだるいところなのだが、どうしてそんなにキラキラしているんだ、テツヤは。

「いいね、イタリアに行こう!」

テツヤは嬉しそうにそう言った。でも、本当にそんな遠くに行けるとは、本気では思っていなかった。コンサートツアーでも、なかなかヨーロッパまで行くのは大変で、前々からスケジュールを組んでやっと一度行ったくらい。それなのに、今時間が出来たからって、すぐにヨーロッパへ行けるなんて思えない。


 俺たちは、七人組の男性アイドルグループのメンバーである。デビューしてからそろそろ十年になろうとしていた。少し前までは休みもなく働いていたが、メンバーのユウキ兄さんが事故に遭って怪我をしてしまい、この機にシン兄さんが語学留学に、マサト兄さんがダンス留学にそれぞれアメリカへ行き、俺たちのグループは一年間活動を休止することになったのである。俺もテツヤも個人活動をしていたが、最初に予定していた活動が終了し、これから少し休みがとれるはずであった。それで、旅行に行こう!という話になったのである。とはいえ、いくらなんでも急にイタリアに行かれるとは思えない。行きたいのは山々だが。


 ところが、翌日会社に行ってマネージャー頭のイッセイさんに旅行の話をしてみると、すんなりOKが出た。俺とテツヤは二日後にはイタリアに向けて飛び立ったのである。ソロ活で、会社全体のフットワークが軽くなったな。

 プライベートとはいえ、ボディーガードが必要だそうで、マネージャーさんが三人同行する事になった。それでも、ホテルの部屋はマネージャーさんとは別々で、俺とテツヤは二人部屋。外を歩く時には五人でくっついて歩かなければならないが、レストランでは二人と三人に分かれて座れたし、買い物中はマネージャーさんたちが店の外で待っていてくれて、俺たちは二人だけでショッピングを楽しめた。

「レイジ、お互いに服を選んで着せっこしようぜ。」

テツヤがそんな事を言って、ブランドの店ではなく、古着屋に入った。なんだか楽しそうに、服だけでなくバンダナまで選んでいるテツヤ。

「ふーん。そうだな。テツヤは何だって着こなすからな……うん、これだ。」

普段見た事もないような帽子を選んでやった。でも、実際に被ったテツヤを見て、俺は唖然とした。これでも似合ってしまうのかと。こんな時だけマネージャーさんを頼って、二人で並んで写真を撮ってもらった。いつも二人で自撮りするのだが、服全体が映るようにちゃんと離れて撮ってもらったのだ。

「あははは、これはすごいな。ファッションショーでしか着られないよ。」

と、テツヤは写真を見て笑ったが、割といつでもそんな服装をしているのでは?と突っ込みたくなった。

 結局二人でその服のまま、夜の街を練り歩いた。ちょっと派手な色合いだが、ローマにいれば何のことはい、ちっとも目立つ感じではなかったのだった。

「次、あっちへ行ってみよう!」

テツヤが俺と腕を組んで走り出す。彼はボディーガードさん(マネージャーさん)たちを振り回す天才だな。でも、やっぱり国内にいるよりも断然目立たないし、何よりテツヤが楽しそうで、俺もすごく嬉しい。こんな幸せが俺の上に訪れるなんて……これまで二十五年、生きてきて良かった。


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