第1話『ファンタジーログイン』
「あー……何にもやる気が出ない」
1人の青年が休日の真っ昼間にリビングのソファーでグタッとしている。彼の名は黒神優真と言い。18歳の現役高校生である。生粋のゲーマーであり、『シューティング レジェンド』と言う、チーム対抗バトルロイヤルのフルダイブ型VRシューティングゲームを休日なら楽しんでいたのだが……
「何でサ終しちまったんだよぉ……」
そのサービスが終了してしまったのだ。10年続いたゲームで、同ジャンルのゲームが多く出され、管理していたスーパーコンピュータも契約が切れるなど、様々な理由で終わったのだが彼はゲームに参加したのが後期だったのでどハマりしている最中の終了となってしまい、意気消沈しているのだ。
「こんなゲーム日和に、いつまでへこんでいるんだ?」
そこに高身長のメガネをかけた男が入ってきた。
「まさ兄……俺がS.Lの沼に浸かり切ってたの知ってるだろ……と言うか沼に突き落とした本人じゃん」
涙目の弟を見ながらまさ兄こと黒神 正徳は冷蔵庫からお茶を出して飲む。ちなみにS.Lとはシューティングレジェンドの略称である。知らない人からは機関車のゲームと思わられている。
「こんなにハマるとは思っていなかったからな」
そう言って笑う正徳は飲んだコップを洗ってしまうと、懐から1本のゲームソフトを取り出して、優真に近づく。
「じゃあ、このゲームをしてみないか?今日からサービスが始まるゲームだ。先行体験をプレイさせてもらったが、なかなか面白いぞ」
そう言って正徳は1つのゲームのパッケージを優真に渡す。
「『ファンタジア・オンライン』?」
「俺たちは異世界の人間になって、異世界を好きに冒険するってだけのゲームだ。ちなみに銃系統の武器もでるらしいぞ。かなり自由度が高いから、優真のプレイスタイルで楽しめると思う」
「銃もあるのか……まさ兄が薦めるんだし、やってみるよ」
優真がそう言うと正徳は、さらにもう1本の『ファンタジア・オンライン』を取り出し、
「ほら、これをあいつに届けてきたらどうだ?どうせお前と同じで手持ち無沙汰でだらけているだろう」
「あー……たしかにそうかも。サンキュー、まさ兄。ちょっといってくる」
「おう、行ってこい」
そして優真は家を飛び出すと、道路を挟んで正面の家に行く。
ピンポンピンポンピンポン
この時間は目的の人物のみの家の呼び鈴を連続で鳴らす優真。こうしないと居留守をされる可能性があるのだ。
「うるさーい!何よ、優真。くまごろうともう会えない悲しみにくれていたのに……」
涙目の女の子が出てきた。くまごろうとはS.Lのサポートキャラでありテディベアのような可愛らしさがあった。呼び方はこの少女が勝手に呼んでいるだけである。
「まぁまぁ、落ち着けよ紗也。実は俺たちをS.Lの沼に叩き落とした、まさ兄からの贈り物だ」
そう言って優真は『ファンタジア・オンライン』を見せる。紗也こと赤水 紗也はパッケージを受け取るとぐるっとみて
「これは普通のファンタジー系のゲーム?」
「俺もファンタジー世界を冒険できるとしか聞いてない。でも最新のVRゲームエンジンに管理コンピュータで、まさ兄の先行体験の感想だとかなり自由度が高そうだって」
「ふむ……やってみる。オンラインって書いてるけど、サービスはいつから?」
彼女はパッケージの1点を見ながら聞く。
「今日の夜からサービスが始まるらしい」
「分かった……ログインしたら合流しよ」
パッケージを見たまま、紗也は家に入ってしまう。
「食いつき凄かったな……」
紗也が見ていた部分にはテイマーであろう、女の子がクマぽいモンスターに跨っていた。
「さて、さっそくインストールしないとな」
自分の部屋に戻った優真は、さっそく自分のVR用ヘルメットを被り操作していく。そして『ファンタジア・オンライン』のパッケージに入っていた、
ダウンロード用キーコードをゲーム用のストアに入力し、ゲームのダウンロードを開始する。
「まさ兄、配信してるじゃん」
ふと見た動画配信サービス『ストリーマーchannel』、略してストチャンの通知が来ており、それは兄正徳のアカウントの配信だった。
「『ファンタジア・オンラインについて語ろう』……相変わらず雑談系配信のタイトルのセンスのなさ」
そう言って笑う優真は、兄の配信を開くと
『チームとかは組むのか?まだ迷ってるかな。やるとしたら自分で作るかなぁ。弟たちともやるから、やりながら相談していくと思う』
“弟くんたちもやるんだ!"
"チーム作ってもらえたら入りたかったな"
"ソロで暴れるのが好きなクロマサさんには、チーム運営は苦手そう"
『入るか作るか無所属か……どれにするにしても、チームの詳しい情報が出てからでも良いかな。ところで、参加する人はどんなビルドで…………』
兄の配信はただの雑談でも、そこそこ盛況なようだ。少し見た後は少し情報収集をすることにした優真はネットの掲示板サイトを見る。
「銃はβテストではなかったのか」
掲示板の情報によると、βテストで使えた武器は『片手剣』『両手剣』『槍』『ハンマー』『杖』『弓』の6種類。防具は最高でも鉄製の防具までしかなかったと書いてある。
「結構、テストでは絞られていたんだな。確認できたボスは『キングボア』『ゴブリンファミリー』の2種類か」
最初の街である『ログスの街』周辺しか遊べなかったopenβテストで確認できたボスは、その2種類だけとのこと。
「ゴブリンファミリーはダンジョンボスで、キングボアはフィールド徘徊ボスと……」
そうして情報などを見たり、たまに兄の配信を覗いたりしているとキャラメイク解禁の時間となった。
「さて、どうしようかな。あんまりキャラメイクにはこだわりはないんだけどな……名前は『ユーマ』で……」
そして優真はサクサクとキャラメイクをしていく。黒髪の短髪に青い眼、背丈は設定できる最大値と中間値の真ん中くらい。
「お、初期武器とかも選べるのか」
あっさりとキャラメイクを終えた優真が次の画面に進むと、1番最初に持てる武器が表示された。
『片手剣・両手剣・槍・ハンマー・杖・弓』の6種とさらに『刀・短剣・鞭・籠手・銃』の5種が追加されていた。
「さっそく、銃にしてと……初期武器は『ノーヴィスライフル』か。防具はクリティカル補正がついているノーヴィスハンター1式。」
自分のしたいプレイスタイルが決まっている優真はどんどんキャラメイクを進めていき、
「自分で割り振れるステータスポイントか……DEX全振りで……初期スキルを3つ貰えるのか……『武器術』『チャージ』『ロングスコープ』にするか」
初期スキルは戦闘スキル、生活スキル、補助スキルの3つのカテゴリの中から合計3つ選んで貰えるようだった。
優真が選んだのは、
武器のダメージが上がる『武器術』
MPを消費して、次の攻撃の威力を上げる『チャージ』
発動後3分間意識して、遠くを鮮明に見れる『ロングスコープ』
の3つである。
「これで終わりか」
最終確認の画面を終了すると、ログインまでお待ちくださいの文字が出る。
優真が軽くネットを調べると、ファンタジア・オンラインの話題で持ちきりだった。有名ストリーマーの多くも始めるようだった。
そんなことでお祭りを眺めていると時間はあっという間に過ぎて
『ようこそ、幻想と冒険の世界へ!皆様の旅路に幸多からんことを』
ファンタジア・オンライン
キャラクリ時に貰えるスキル一覧
戦闘技能
武器術(武器ダメージが上がる)
おたけび(ヘイトを自分に向けることができる)
テイム(モンスターをテイムできるようになる)
集中(使用後1分間魔法ダメージがあがる/クールタイム3分)
祈り(使用後1分間回復魔法の効果が上昇する/クールタイム3分)
ガード(発動後3秒間ダメージを3割カットする/クールタイム30秒)
チャージ(MPを消費して、次の攻撃のダメージを上げる)
投擲(投擲用のアイテムを使えるようになる)
基礎魔術(初期スキル枠を2つ消費して『アイス』『サンダー』『ロック』の3つを取得できる
基礎信仰術(初期スキル枠を2つ消費して、『キュア』『ミニバリア』『シャイン』の3つを取得できる)
生活技能
料理(料理スキルを取得可能になる)
探査(使用後、半径10m以内の採取アイテムの位置が視界に強調表示される)
採掘(採掘した時の鉱石ドロップが増える)
採取(採取した時のドロップが増える)
遊泳(泳ぎが早くなる)
釣り(釣りをした時のくいつきが良くなる)
錬金術(初級錬金アイテムの作成が行える)
鍛治術(初級鍛治のクラフトが行える)
裁縫術(初級裁縫のクラフトが行える)
木工術(初級木工のクラフトが行える)
補助スキル
ダッシュ(使用後3秒間素早く動ける/クールタイム3分)
ジャンプ(使用後1度だけ大きく跳躍できる/クールタイム3分)
ブラックスコープ(使用中は魔力を消費して、暗闇の中の視界が広がる)
ロングスコープ(使用中は魔力を消費して、意識すると遠くのものが鮮明に見える)
逆境(体力が10%以下の時に物理ダメージが上がる)
力持ち(常時STR値+3)
頑丈(常時DEF値+3)
聡明(常時魔法ダメージ+1%)
信仰(常時回復魔法の効果+1%)
クリティカルヒット(弱点に攻撃した時のダメージとクリティカルヒット率が上昇する)