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カオスの遺子   作者: 浜口耕平
序章 兵士への道
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悪口

 魔人の死体を兄さんの魔法で隠して近くの町にある軍の基地に運び込んだ。


 死体を受け取った軍の関係者は魔人だということにすごく驚いて褒めてくれたから、僕たちは誇らしかった。


 僕たちは受付した際に貰った紙を手渡すと、審査と所属先の町を決定するために一週間ほどかかると言われて基地を去った。


 宿を取った後、兄さんは食料を買い出しに、僕たちはこのマードの町で兵士に必要なものを買い揃えていた。


 必要なものは動きやすい服装と魔物に対抗するための魔道具だ。前者は自前で用意しなければならないけど、魔道具に関しては支給されるから各自の判断でいいらしい。


 メリナは元貴族とあってか普通の市民より多くのお金を持っていたので、最新の魔道具を見比べていた。

 

 「うーん、あの痛みはすごかったからできるだけ軽くて耐久性に優れて体を守ってくれるものが欲しいんだけどいいのがないわね」


 「お前は攻撃をくらってすぐに離脱してしまうから防御力が高いのを選ぶのは正解だな」


 持ち金が1ルーンもないアレスは皮肉たっぷりの言葉でメリナをからかった。


 「どうしたの? お金がないなら別についてこなくてもいいのよ、ロードと一緒に見て回るから」


 「あーあ、いけないのに~! 今度悪口いったら僕も許さないよ」


 この二人は出会った時から、会話さえ交わせば喧嘩ばかりしている。

 

 ほとんどはアレスのおちょくる発言が原因だけど、メリナの貴族出身ゆえの見下す言葉が大きな口論に発展することもある。


 「もう怒んなよ~! ただの軽い冗談だろムキになんなよ」


 このようにアレスは自身の言葉に無責任だ。その言葉が持つ意味やもたらす影響を考えることもない。


 魔人との戦闘で何の役に立たなかったことにメリナは傷つき、次の戦いでは戦果を残そうと躍起になっている。そんな中で、このような配慮が欠けている言葉は魔人の攻撃よりメリナを傷つけていた。


 「アナタ……今まで自分の言葉がどんなに他人を傷つけてきたのか分かってるの?」


 「は? 何言ってんだお前、冗談だって言ってるんだからいちいち考えてねぇよ。そんないつも冗談に過敏に反応してたらストレスで死んじまうぞ。かる~く流せばいいんだよ」


 「悪口を冗談って言って誤魔化したらダメだよ! そんなことが許されたらみんなおかしくなっちゃうよ!」


 僕はアレスの冗談だったら全て許されるという態度が気に食わなかった。たとえ、そこに悪意があろうがなかろうが、その言葉で人が傷ついてしまったら謝罪するべきだと思う。


 「ハハハハ、そんなんありえねぇよ! 悪口ってのはな、『お前十一のくせに何でそんなにチビなんだ? 貧乏すぎてろくに飯が食えなかったのか?』とか、『それを買ったらお前の功績は魔道具のおかげってことだ』とかだぜ」


 その言葉を聞いた瞬間、二人は激怒してアレスに殴りかかった。

 

 メリナは胸元に掴みかかって来るし、ロードなんかは赤面しながら腹を殴ってくる。思ってもみない二人の攻撃に辛うじて逃げ出したアレスは店を出てロード達と別れた。


 二人と別れたアレスは先に宿に戻ってベッドの上で夕食まで待つことにした。


 「ったく、何だよアイツら。例えで悪口を言ったまでなのにあんなに怒らなくてもいいだろ!」


 男三人部屋の中でアレスもまた怒っていた。どうしてロード達が怒ったのか理由を探しているが、一つも理由を見つけることができない。


 そもそもアレス自身、自分に非がないという前提で考えているので自然と二人から理由を探している。だから一生、考えを改めない限り自分に非があるとは気づかないだろう。


 「どうしたアレス、アイツらとまた喧嘩でもしたのか?」


 リードは食料の購入を終えると部屋で日記を書いていたところ、アレスが落ち着かない様子で帰ってきたのでまた喧嘩したのかと呆れていた。


 「俺は知らねぇよ! 勝手にアイツらがキレて殴って来たんだ! どんな教育してきたんだお前は!?」


 「落ち着けよ、一回何があったか話してみろ。まあ原因は火を見るよりも明らかだけどな」


 アレスはこれまでの経緯を話して、それを聞いてリードも予想通りだったと頭を悩ませた。


 「本当にお前は自分が原因だとは思ってないのか? そんなこと言われたら大抵の人間は怒るぞ」


 「例えなんだぜ。そこまで真剣に捉えなくていいだろ」


 「世の人間たちはプライドを傷つけられたら異常に反応するからな。お前もこれからは言葉に気をつけろよ」


 「……………じゃあ、リードは悪口言われたら怒るか?」


 「俺は大人だからな、アホの悪口なんて痛くも痒くもない」


 「そうか、なら言ってみるわ。俺はお前たち兄弟のことを陰でシルバーバックの親子と呼んでいる」


 リードはそれを聞いて爆笑した。


 よほどツボに入ったのか頭を抱えて笑っている。それを見たアレスもつられて笑い出した。


 反応が良くて調子に乗ったアレスは続けて悪口を繰り返し、それを聞くたびリードも笑い続ける。

 

 そして、さらなる悪口を言おうとした時、リードに顔を掴まれて喋れなくなった。


 「ふがっ? っんんド!?」


 「お前の番は終わったから次は俺な」

 

 


 時間が過ぎて夕方になった。


 ロードとメリナは買い物を終えて帰ってきた。


 「おお帰ってきたのかお前ら、夕食はもうすぐできるから。くつろいでいてくれ」


 「ねえリード、あのサイコパスは帰ってきた? それと私たちのこと何か言ってた?」


 「ああ帰って来てるぞ。今は部屋にいる、お前たちの文句を言っていた」


 「兄さん聞いてよ! アレスが僕たちの悪口を言って謝らなかったんだよ!」


 僕は鍋を見ている兄さんに近づいてアレスが喧嘩の原因ってことを何度も伝えた。


 「聞いた聞いた。でも、今は俺が教育してやったから静かにしているはずだ。二人で見に行ったらどうだ?」


 兄さんに言われて僕たちはアレスがいる部屋に向かった。


 あのアレスを教育して従わせるなんてすごいなと感心しながらドアの前にやって来た。

 

 「どうなっているのか楽しみね!」


 「うん! 兄さんのことだからこっぴどく怒ってくれたはずだよ」


 ワクワクしながら僕はドアノブに手をまわした。


 「ヒィイイイイッ!! 頼む! 俺の悪口を言わないでくれー!!」


 ドアを開けた瞬間、毛布に絡まって僕たちに慄いているアレスの姿が目に入ってきた。

 

 これはすごい効果だ。あのアレスが小心者の哀れな人柄に見えてくる。


 僕たちは笑みを浮かべてこの状況を楽しむことにした。今までの仕返しのように溜めていた悪口が流水のように口から溢れ出てくる。

 

 その度にアレスは覇気のない悲鳴をあげながら徐々に部屋の隅まで逃げていく。


 どんな酷いことを兄さんにされたのか想像して怖くなったけど、アレスの反応が面白すぎてそんなこと気にすることはだんだん無くなっていった。


 「あはははは! なんて無様な姿なのアレス!! こんな姿を見れるなんて私は今すごく幸せよ!!」


 メリナは見たことないほど上機嫌になっていた。

 

 「おいっ、これ以上俺に近づくな!」


 「いーやー」


 メリナが追い詰めすぎたせいなのか、逃げ場所を失ったアレスは窓に飛び込んで二階から勢いよく落ちてしまった。


 その後、急いで兄さんを呼んで治療を行い命に別状はなかった。


 しかし、頭を強く打った影響で先ほどまでの性格は見る影もなくなり、かえってより攻撃的になった。


 それからみんなで、配属先の決定までに普段の性格に戻した。


 そうして今、僕たちは基地で兵士の証である銀のカラスが描かれたバッジを受け取った。


 「わーいわーい! これで僕も立派な兵士だー!」


 「ったく、まだ立派な兵士じゃねえだろ。それより、コイツはどこにつければいいんだ?」


 「目につきやすい所に決まってるじゃない、馬鹿なの?」


 「おい、馬鹿って言う方が馬鹿なんだぜ」


 僕たち三人でソファで喋っていると、配属先を聞きに行っていた兄さんが帰ってきた。


 「そこまでお前たち、ほら配属先が決まったぞ。ダンタリオン地方のエルマという町だ」


 「ダンタリオンっていやぁ、王国の最南端の地方じゃないか! そんな遠くに配属って狂ってんのか?」


 「そんなことで不満だったら、これから先やってらんないぞ。なんたってエルマはダンタリオンでも下の下、世界最南端の町だかなら」


 兄さんが言った配属先は王国の南の南、世界最南端の町であるエルマだった。


 この事を聞いてアレスとメリナは気分が落ち込んで下を向いていたが、僕は兵士としてエルマの人たちを守れることに喜んでいた。


 「そうと決まったら行くぞお前ら、馬車に乗れ!」


 ソファにもたれ掛かって動かないアレスを兄さんが引きずって軍が手配した馬車に乗せると、僕たちは長い長い道のりの旅に出た。


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