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カオスの遺子   作者: 浜口耕平
序章 兵士への道
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入隊試験③ 激戦と勝利

 二人が欠けた状態では防御力も半減になる。その上、敵の位置を認識できていない僕たちにできる選択肢は少ない。

 

 だから、まずは魔人の位置を把握することが肝要なこの場面で、メリナが襲われた時の状況から相手の出方を探る。


 「さっきの攻撃、事前に何か気づいたか?」


 「ううん全然。でも、相手の魔法がなんなのかわかった気がする……。たぶん魔人は姿を見えなくする魔法を使ってるんだ」


 「はぁ? そんなエロい魔法聞いたことも見たこともねえぞ、もっと真面目に考えろよ」


 何を言いだすかと思えばそんなことか…、子供の発想はぶっ飛んでて現実性がないな。


 追い詰められた人間は正常な判断ができなくなるというが、こうも顕著に表れるとこれから先が思いやられる。


 「それ以外は考えられないよ! なんだってありなのが魔法でしょ!? だったら、


 ……いや待てよ、俺は魔法を使用する戦いで基本の考えである、“あり得ないということはあり得ない”の原則を忘れていた。この原則は“魔法の全能性”が基となっていて、魔法のあらゆる可能性を考慮して戦わなければならない。


 「大事なことなのにすっかり忘れてたぜ。お前の言う通り、奴の魔法は透明化だと仮定して話すぞ。たとえ姿や気配は消すことができても、足跡は必ず残るはずだ」


 そう言って、アレスは周囲一帯に魔法を放った。


 視界の邪魔になっていた草が氷解して、草木一本生えていない黒い土のサークルが僕たちの周りにできた。


 「うわぁ! これなら足跡がくっきり分かるよ!」


 「よしっロード、奴の足跡を探せ!! 必ず近くにあるはずだ!」


 血眼になって足跡を探す。すると、メリナが見ていた方向からメリナに向かって伸びる足跡を発見した。


 「あったよアレスっ!」


 僕の声に呼応してアレスがその足跡があった方へ駆け寄ると、足跡の痕跡がこの場所一体にしか散らばっていないという事実を突き止めた。


 「どけっ! 場所はわかった、ここら一体を俺の魔法で粉々にする! オメガブラストッ!!」


 またもやオメガブラストを放って、今度こそ仕留めたかと思って足跡があった場所を見る。


 しかし、そこにあるはずの残骸は見当たらなかった。これは非常に奇妙な出来事だ。周りにある足跡は確認した以外の場所からは見つけられなかったし、アレスも避けられないようにサークルを描くように魔法を放った。


 「どういうことだ!? 足跡はそこにしかないし、逃げれねえように辺り一帯を粉々にしたはずだ!! 一体どこにいるんだ!!?」


 アレスは起きている状況が理解できずに叫んだ。

  

 事態はカオスが取り巻く状況で有力な手掛かりを失い、奈落への穴がすぐそばにあるのを感じる。


 だが、それでもアレスはまだ生にしがみついて、魔人の魔法と居場所をこれまでの経験則から鍵となる情報を洗い出している。

 

 「クソッ、こんなにもあてが外れるなんて初めてだ。見えない敵、攻撃の回避、今までの強敵との戦い……ああダメだ、疑問点が多すぎてまともに考えらんねぇー」


 頭が情報でパンクしそうになって髪をぐしゃぐしゃにかき回したところ、天啓が雷のごとく体を突き抜けた。

 

 「避けれない攻撃だったはずだ。……というか、そもそも奴は避けていたのか? 避ける必要がない場所ならそんなこと起こりえない…。ああっそうか!! 奴は最初からいなかったんだ!」


 そう考えるとこれまでの出来事に全て納得できる。


 なら、奴はどこに……? 


 俺の必殺命中の攻撃を避け、手掛かりを少ない範囲にしか残さず、臨機応変の攻撃も躱された。


 「それは奴が地上にいないということだ。わかったぞ! 気をつけろ!! 敵は空中にいるぞっ!!」


 「今更気づいたって遅いぞ人間。お前はここで終わりだ」


 魔人のカラクリに気がついたアレスが叫んで周りに知らせたが、その時すでに魔物は背後を取って剣をアレスに突き刺した。


 「く、クソがー!!」


 腹に走る激痛に苦悶の表情を浮かべながらも、肘で魔人を突いて引き離した。


 「大丈夫!? 僕見たよ! 攻撃する時に魔人が背後に現れたのを!! すぐに風のように見えなくなったけど」


 「ああ……。おい聞こえてんだろ!! 隠れてないで出てこい!」


 攻撃された痛みが怒りの声をあげさせる。当たり前ではあるが、魔人はアレスの要求に答えるはずもない。

 

 上を睨んで警戒している二人に高笑いした魔人の声が聞こえてきた。


 「よく見破った褒めてやるぞ、ほとんどの人間は気づく間もなく殺されるからな。だが、俺の魔法が気づかれたとて何の問題もない。何も変わらない、お前たちは一人ずつじわじわとなぶり殺しだ」


 そう言い終えると、また辺りは静寂に包まれた。


 魔人の言う通り、透明化と空中浮遊の魔法の組み合わせは知っていても対処が難しい。唯一目で追える足跡も残らない上に、空中は地面と違って立体上に広がっているため魔法を当てることが困難だ。


 「どうしようアレス、このままじゃ僕たち殺されちゃうよ!」


 僕の魔法は接触して相手にダメージを与える魔法だから、空中にいては何の役にも立たない。だから、蛇に狙われている蛙のようにどうしようもなく固まって動けない。


 そんな突っ立って怯えているだけの僕に近寄って、アレスは僕にできることを魔人に聞こえないように教えてくれた。

 

 「いいか、今アイツは慢心している。今まで失敗したことがないんだろうな、人間の魔法を下に見ている。俺の手の内はアイツにバレてしまったが、お前の魔法はまだ生きている。俺が動きを止めるから、お前はその隙に魔法を叩きこめ!!」


 「わかったけどどうやって魔人を止めるの? 見えないし空に浮いているんだよ」


 「大丈夫、戦いの間は俺の知力は学者並みだぜ。いいから俺に任せておけって」


 そう言うと、アレスは刃がない柄をズボンのポケットから取り出して、氷の刃を作り出した。そして、剣を構えて雄叫びと共に空に剣をふると、刃から氷の斬撃が放たれた。


 魔人は幾重にも重なる氷の斬撃をよけながら、「俺を近づけまいと牽制のつもりか? あれほど強く突き刺したのに動けることは驚異だが、こんなトロい攻撃避けるなんて造作もないことだ」


 アレスが活発に動ける原因は、傷口を魔法で止血し痛覚をその冷気で麻痺させることで負っている傷を感じさせないことであった。


 だが、魔人には動いていようが動けまいが、攻撃が遅いのだから近づくのは容易だ。それゆえ、アレスには見えてないが、着実に二人の距離は狭まっている。


 とうとう魔人の剣の射程がアレスを捉えた。


 「哀れな人間よ死体となって俺の糧になれ!」


 確実にアレスを仕留めるように右肩から袈裟懸けするように剣を振りおろした。


 剣から肉と骨を断つ感触が伝わってくる。だが、勝利を確信したはずの剣がこれ以上アレスの体を切り裂けない。それどころか、自分自身の体も動かすことができなくなっていた。


 「クソッタレようやく捕まえたぜ」


 「な、なんだと!? 貴様ッ、自分ごと魔法をかけやがったな!!」


 姿が見えない敵を捕まえるのは不可能であることは、ロードに話した時に既に感じていた。だから、確実に捕まえられて、ロードの攻撃が当たる地上で捕らえるために自分丸ごと氷漬けにしたのだ。


 しかし、これは一歩間違えば自分自身が凍死してしまう危険がある諸刃の攻撃だ。


 普通の精神を持った人間にはできない芸当をやってのけたアレスを見て、感化されたロードは魔法陣を展開して魔人に向かって走りだした。


 「クソッ離せ人間! これ以上凍っていればお前も死ぬぞ!」


 「俺は世界一覚悟がある人間だぜ。このくらいで怖気づく人間じゃない。来いロードッ! お前の魔法でコイツにとどめをさせ!!」


 「うん! くらえええええ!!!」


 右腕を魔人にぶつけると、右手の魔法陣が縄のように変形して魔人の周りをグルグルと回り始めた。


 「何だこの魔法は……。ッ!? 力が抜けていく……これは俺の命を吸い取っているのか!?」


 魔法陣から優しい白い光が帯状となって魔人の体を巻き付けて、そこから魔力をだんだん吸い上げていく。


 「やめろぉ! やめてくれぇー!!」と絶叫をあげながら最後の抵抗をしようとするが、ガチガチに凍らされ魔力を吸い取られ続けている魔人に抵抗する力はない。


 そして、全ての魔力を吸い取られた魔人は全身の力が抜け落ちて絶命した。


 「か、勝った勝った勝ったー!! やったやった!」


 手足を躍らせて勝利に酔いしれてメリナと兄さんのことをすっかり忘れていた。

 

 ふとそのことを思い出して僕は兄さんが治療している元へと向かった。


 「メリナは大丈夫なの?」


 「ええこの通り無事よ。アナタもけがはない? ごめんなさいね力になれなくて」


 「いいのいいの! みんな無事だったからオッケー!」


 それでもメリナは無力感に苛まれて元気がない。


 「厄介な相手だったな。魔人に勝つなんてすごいぞロード!」


 「ううん僕一人だけの力じゃないよ。アレスが捕まえてくれたから……。あっ、アレスのことすっかり忘れてた!」

 

 時間が経ってアレスはカチンコチンに凍ってしまっていた。慌てて兄さんが対処したことで、アレスは死なずに済んだ。


 勝利の余韻に悲劇はいらない。


 苦労したけど僕はついに兵士になることができた。これからたくさんの悲劇と喜びが待ち受けてると思うけど、戦い続ければ夢が叶うと信じている。


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