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カオスの遺子   作者: 浜口耕平
第一部 エルマの町編 カオスの遺子
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トリオ

 グレンの接触爆弾(せっしょくばくだん)が直撃したはずだが、煙の中から現れたロイドに傷は見当たらない。


 「そうだよなーこんなもんでやれるわけないよな、もっと威力を上げていかないと」


 「何故あの子供を逃がした? お前たちだけでは僕に勝てないことは分かっているはずだ」


 「チート使えるからって自惚れるなよクソガキ、普通に戦えば俺たちが勝つに決まってんだろ」


 “平等”の力を目の当たりにしてもナルザスは一歩も引かない。グレンとナルザスはその強気な態度に苦笑して横一列に並んだ。


 「最後にまた三人で戦えるなんて思ってもみなかったぞ。ザック、ナルザス……いざとなったらカーラたちの面倒を見てあげてくれ」

 

 「……いいぜ、だがそれは最後の手段だ」


 「フフフ、お前はてっきり断るもんだと思っていたんだけどな」

 

 「いがみ合っていても友達の言うことは素直に聞くもんだろ? もう何十年の付き合いなんだからな」


 「二人とも話はそれくらいにしろ。俺たちに最後の言葉は要らねえだろ」


 そう言って前に踏み出したザクレイは、空中から見下ろしているロイドを睨み付けた。他の二人もザクレイが一歩踏み出したら一歩踏み出す、三人はここから一心同体となってロイドと戦うのだ。


 「遺言なんて全員死ぬんだから伝える意味はないのに、どうして人間はこうも無意味な行動をするんだ? 僕にはわからないよ」


 「うっせーぞ芋虫、お前たちの方こそ『カオスの意思だ!』とか変なこと言って人間界を滅茶苦茶にしてるじゃねえか! どっちが無意味でアホな行動してるんだ、お前らだろ!?」


 「怒んなよナルザス。とりあえず生命の樹(せいめいのき)で俺の右腕を作ってくれ、グレンは()()に専念しながら俺のサポートを頼む」


 「「ああ!」」


 体制を整えるとザクレイが先陣をきって六本の魔神の腕に挑む。


 強化された六本の魔神の腕を扱うロイドと荊の樹で作った義手を取り付けて平衡感覚を取り戻したザクレイの戦いは、ナルザスとグレンのサポートもあり互角以上の接戦を繰り広げた。


 手足が退化したロイド本体には攻撃する手段はない。代わりにスピード、攻撃力、耐久力が上昇した六本の魔神の腕が不便な体を支えている。


 生命の樹(せいめいのき)で作った樹の足場を伝って空を駆け上がっていくザクレイと強化された魔神の腕が交差した時、空間が歪むほどの衝撃が生じた。


 「うらぁああああああああ!!!」


 ギリギリの競り合いの中、力比べを制したのはザクレイだった。続けざまに追撃しようと足に力を入れるが、ロイドは残る五本の腕で体を覆うように守っていたので踏みとどまった。


 「どうしたザックッ、あんなキモイ腕ぶっ飛ばせよ!!」


 「馬鹿言うなよ! 一本でも厄介なんだから無理に決まってんだろ!」


 「お前ならイケるって! 俺が作った足場を信じろ!」


 次の瞬間、ロイドは荊の樹をへし折って、足場を失い地面に降りてきたザクレイがナルザスを黙って見つめた。


 「まあこんなこともあるさ」


 言った傍から破壊されるコントみたいな芝居を繰り広げ、三人は無性に笑いそうになったが、すぐに切り替えて再びロイドに向かって行く。


 ロイドは四本を攻撃用、二本を守備用と攻守に抜け目がなく三十年以上チームを組んでいるザクレイたちでも魔神の腕を攻略してロイドのもとへ辿り着くことは難しい。


 この野郎……俺たち人間を下等生物だと見下してるのに慢心が一瞬もねえ……ナルザスが足場を作ってくれたおかげでまだマシな戦いができてはいるが、“平等”の力で足場を全部持っていきやがる。このままじゃやられる一方だな。


 「おいグレン、爆弾のリミッターをはずせ。やれるなら俺ごとでいい、やれ」


 「わかった」


 グレンが魔力を高めると全身の血管が浮かび上がり、蜘蛛の巣を張ったような姿になった。


 これはグレンの超位魔法・崩壊した世界(ディザスター)を発動した姿であり、魂から起爆性の魔力が滝のように激しく流れ、魔力は摩擦で熱を帯び、火が付いた導火線のようにジリジリと音を立てている。

 

 「いくぞ!!」


 足元の地面を爆発させた爆風で推進力を得たグレンは、あっという間にロイドの間合いに入った。


 「真正面から飛び込んでくるなんて馬鹿の極みだな」

 

 四本の魔神の腕がグレンを囲み、握りつぶそうとした。

 

 「ッらぁあああ!!」


 空中でも足から爆発を起こして勢いを増したまま、魔神の腕に蹴りを食らわすと同時に爆弾魔法を合わせて、堅牢を誇っていた四本の魔神の腕を粉々に吹き飛ばした。


 「な、なんだこの威力は!? 人間が出せるレベルじゃない! 僕と匹敵するパワーをこの人間は持っているのか」


 驚いているロイドに、グレンはまたもや魔法で推力を得て遠く頭上まで飛びあがって、本体を防御している残りの腕丸ごと地面に叩き落とした。


 ドーン!!とロイドがぶつかった衝撃で地面に大穴が姿を見せる。穴の下で半身を吹き飛ばされたロイドが体を再生しているのを見て、残りの半身を破壊しようと右足に魔力を集中させて魔法で推力を得ようとした。


 だが、グレンは足のつま先まで魔力が行き届いてないどころか、右足の膝から足にかけての感覚が全くなかった。


 「深追いするなグレン! それ以上攻撃すると、先にお前の体が無くなるぞ!」


 異変に気がついたナルザスは追撃さずにこっちに来て回復するように呼び掛ける。


 目を足にやると、右足の膝から先が失われていた。先ほど見せた五回の魔法だけで足の一本が使えなくなっていたのは予想外だった。


 早すぎるぞ。まだたった五回しか使ってないじゃないか。ガキの頃、右腕を失った時は十回以上連続で使ってやっと崩れたのに……。


 ともかく、右足がなければ立つこともままならないから、地上でナルザスの治療を受けた。


 「早く作ってくれよ、さもないとロイドが再生しきっちまう」


 「待て待て慌てるな。ガキの頃とはえらい違いだな。見てみろ、お前の今にも爆発しそうな魔力が右足に集まった結果がこれだよ」


 グレンは自分の右足の様子をそこではっきりと視認した。空中では分からなかったが、消失面は肉が完全に炭化して黒焦げになっており、嫌な臭いにおいで二人は顔をしかめた。


 「立派に炭化してるな。おかげで血管が塞がれて出血はなしだ」


 「なに笑ってんだよ。体が欠損していくのは面白いか?」


 「いやいや俺の魔法が想像以上に強くなっていたことが分かったから嬉しくってな」


 「魔法は威力だけが全てじゃないのに、お前は昔から本当に火力馬鹿だな」


 「そうかもな……だが今は俺の火力がないとロイドには勝てない。それもこんなんじゃなく、もっと辺りを砂漠に変えるほどの火力が必要だ」


 この時点でナルザスはグレンの心情を読み取って、何も言わずに治療と義足を施してあげていると、ロイドの再生を遅らせていたザクレイが血を吐きながらやって来た。

 

 「早くしてくれ! ロイドはほとんど完全に再生しちまっている。すぐにでもこっちへ来るぞ!」


 ザクレイも既に活動限界は五分を切り、焦りが体と言葉に出ていた。ナルザスが急いで義足を作り上げた瞬間、地鳴りのような音が聞こえてくると思ったら突然地面から巨大な漆黒の魔法弾が飛び出して空へと消えていった。


 間一髪のところで避けることができた三人は、その魔法弾の威力がグレンの崩壊した世界(ディザスター)よりも強大であった事実を、弾道に残る魔力の残滓を見て悟った。


 「なんて煩わしい。神典昇羅(しんてんしょうら)を使い、母上の力を見せたというのにいささかにも気力が衰えていないなんて煩わしいにもほどがある」


 姿は前と変わっていないが、怒っていることは周囲に漂うロイドの焼きつくような枯れた魔力から肌で伝わって来る。

 

 ロイドは義足をつけてもらったグレンの顔を指さした。


 「お前の魔法の威力は凄まじかったと認めよう。だが! お前のその魔法は魂がこの世から消えてしまう愚かな行為だ! 魂は必ず母上の元へと帰らなければならない、今すぐその魔法をやめろ!」


 「はっはっはっ! 何を言いだすかと思えば、俺の命の心配をしてくれるなんて気でも狂ったか? あいにく俺の魂は市民を守るために使う! お前の言うことなんか知ったことじゃねえよ!!」


 「……そうか。愚かな行為をやめないと言うなら、僕がとめてあげるよ」


 ロイドは六本の魔神の腕を円を描くように自分の胸の前に掲げると、魔力をその円の中心に集めるよう力を込め始め、周囲が暗くなり黒い稲妻を発生させるほどの高密度な魔力玉を生み出した。


 そして――


 「混沌の波動(カオスブレイク)


 凝縮された神の遺子の魔力が四方八方に炸裂しそうに膨張し始め、混沌の波動(カオスブレイク)の声と共にそれは眩い光を発して一気に爆発した。

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