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カオスの遺子   作者: 浜口耕平
第一部 エルマの町編 カオスの遺子
42/43

恐るべき平等の力

 世界になり響く鐘の音はいつの間にか止んでいる。僕たちはそれさえ気づかないほどに、未熟な胎児の姿となって現れたロイドの変化に言葉を失っていた。


 「あれがロイドだって言うのか? そもそも何だあの姿は……まるで魔物のような」


 グレンは今目にしていることが信じられないようだ。全員が魔法を構えていたのに、自然と手を下にしていることに気づいた時には、ロイドがかなり低い距離まで降りてきていた。


 「どういうことなの!? カオスの遺子は人の姿をしているって言われてるのに、これじゃあただの魔物よ」


 「初めてだろうこの姿を見るのは。僕たちがいつも人間の姿をしているのは母上から授かった力を戒めるため、世界を神の意思に従い導くため。これが僕の本当の姿、神典昇羅(しんてんしょうら)した姿だ」


 「しんてんしょうら……?」


 「そう、神典昇羅(しんてんしょうら)は人が母上を貶し、冒涜の行く末に世界が荒廃する時、僕たちカオスの遺子が世界を正すために罰を下す時になる姿のことだ」


 「つまり俺たちがカオスに背きまくった罰を下すというのか、お前が?」

 

 「うん、以前の神罰は千五百年前だったそうだけどね……。さあ、神を畏れよ!! 今再び神の比類なき力が世界を覆うのだ!!」


 ロイドは体の左右に三本ずつ、魔神の腕を召喚した。人間時に召喚した魔神の腕より一回り大きく分厚くなったのを見たザクレイたちはすかさず攻撃を仕掛けた。


 「一撃絶死(デス)」、「生命の樹(せいめいのき)」、「地爆(ちばく)


 だが、神典昇羅し遥かに強くなったロイドの魔神の腕の前に、三人の攻撃は無造作に打ち破られた。


 すかさずロイドは近くにいるザクレイにとどめを刺そうと、空間を移動して背後に現れた。


 「ロイドの奴、空間を移動しやがった! ザック後ろだッ!!」


 グレンの呼びかけでザクレイは背後を振り向いたが、既にロイドは攻撃態勢に入っていて、不意を突かれたことで完全に避けることはできない。


 「今、生命は終わりを迎える!」

 

 巨大な魔神の腕が襲いかかるのを渾身の力で体をねじったおかげで、左腕を掠る程度ですんだ。しかし、掠ったとは言え、その威力はザクレイの大事な左腕の骨を一撃絶死(デス)の鎧の上から折るほどだった。


 コイツはやべぇ、掠っただけで骨が折れやがった……人の姿をしていた時とは大違いだ。短時間で終わらせようと考えていたがそれも難しいな、一度撤退して応援を呼んでからの方がいいな。


 「お前らちょっと話がある、、、どうしてお前たち左腕を抱えてるんだ?」


 ザクレイが見たのは、ロード達が左腕を抑えながら苦悶の表情を浮かべている光景だった。


 「何が起こってるんだ……?」


 

 同時刻 エルマの町


 リードとウェインは、ザクレイたちの戦いの余波で町が破壊されないように町壁の上に立って、飛んでくる衝撃を迎え撃っていた。


 「インパクトが飛んでくる回数が減ったな。あの鐘の音といい、一体あっちで何が起こってるんだ? まさか隊長たちが全滅したってことはないよな……」


 「さあな、俺たちは与えられた仕事をやるだけだ。まあ、あの鐘の音を聞けば俺でも畏れちまうよ」


 「ハハ、お前がビビることなんてあるのかよ。攻撃も止んだし、少し隊長たちの様子を見に行くか?」


 「ああ、アイツらの怪我を、、、痛ツッ!!」


 リードは突然、自身の左上に猛烈な痛みが走った。視線をやり袖をめくると、左腕が赤黒く変色しているのが見えた。


 顔を再びウェインの方へ向けるとウェインも左腕が痛い様子で、「すぐに診てくれ」と頼んできた。


 自分とウェインの腕を治してから、何が起こったのか状況を把握するため周囲を見渡す。すると、周囲の足元に左羽が折れて、地面でのたうち回る鳥の姿が見えた。


 「おいおいどういうことだよ、コイツら左の羽が全部見事に折れてやがる」


 「まるで全ての生き物の左腕の骨が折れたみたいだな」


 「「ッ!?」」


 二人はその時、今起きた現象に気がついた。しかし、それは人間の理を遥かに凌駕した現象であり、簡単にその現実を受け入れることができない二人は町の方へと目をやった。


 二人の目に飛び込んできたのは、痛みで狼狽える大人、泣き叫ぶ子供、制御を失い暴走して家に激突した馬車など、信じられない光景だった。


 「おいおい俺たちは夢でも見ているのか? あり得ねえだろこんなこと。ロイドは、カオスの遺子は、俺たちはカオスの怒りを買ってしまったのか……?」


 町は阿鼻叫喚の地獄の様相を呈して、あちこちで騒ぎが起きて死者も時間と共に増えている。二人はこれ以上の混乱を防ぐため市民への救援へと向かった。



 場面は戻り、ザクレイは痛みに耐えているナルザスの元へと駆け寄った。


 「ザックよ、信じられねえけどロイドが与えたダメージが俺らとリンクしているぞ」


 「何だと!? おいロイド! てめえ一体何をしやがった!?」


 「最初に言っただろう、僕はロイド。母上から“平等”力を授かったカオスの第十遺子だと。僕の“平等”は絶対的な平等、そこに上も下もなく、苦痛も、幸福も、悩みも、快楽も、全ての生命が平等に享受する。それこそが真に平等な世界だ! 今日、全ての生命に平等な死を以って不均衡な世を正す!」


 そう言うと、ロイドはこの中で一番の脅威かつ一番弱い存在である僕めがけて突進してきた。


 ダメージが全員とリンクする上に、六本の魔神の腕の威力は今や掠った程度でザクレイの骨を折るなど、人間時とは比べられない強さだ。


 だから、絶対ロイドの攻撃はノーダメージで躱さなクチャだめだ。……ダメだ、自分の行動一つで他の全員の命が無くなると考えて足が震える。


 もうすぐそこまでやって来ているのに! 僕の足はどうして動かない!? 動け! 動け! 動け!!


 「生命の樹(せいめいのき)冠樹(かんじゅ)


 冠樹は相手を円状に取り囲む樹の檻。荊の樹が大地の生命力を吸い取って出来上がる樹の監獄は、囚人を絶対に閉じ込めて大地が枯れるまで拘束し続ける。


 それがロイドを取り囲んだことで僕はからくも生き延びることができた。地面に尻もちをついてへこたれている僕の元にアレスとメリナがやって来て、「ザクレイからの命令よ、私たちと一緒にできるだけ遠くで隠れろって」と言った。


 「でも、ロイドの能力じゃ隠れても意味がなくない? それより僕の魔法じゃないとロイドは倒せないんだから、僕はここに残った方が良いと思うんだけど」


 「動けない奴がここにいても無駄だ。俺たちの力じゃロイドとやっても勝てない、それに俺たち三人の誰かが下手をこいたらそこで全滅だ。わかったらとっとと立って逃げるぞ!」


 アレスは有無を言わさず僕の腕を掴んで立ち上がらせると、三人で戦場からできるだけ離れようと走り出した。


 その頃、冠樹の中でロイドは襲い来る荊の枝を避けてじっくり観察していた。


 「なるほど、これは僕を倒すための魔法じゃなくて閉じ込めるための魔法か。大地の生命を奪ってこの樹は成長しているから、魔法を解かない限りはここから出られないと……」


 冠樹の性質を見破ったロイドは、大地から生命力を吸い上げるこの魔法に怒りがこみ上げてきた。


 「大地は母上からお前たち人間が賜った至高の財産だろう。それを私利私欲で貪り、命を吸い上げるなんて罪深いぞ、人間ッ!!」


 魔神の腕が冠樹の樹の一本をへし折り、“平等”の力でそれ以外の樹を全てへし折って冠樹から脱出したロイドは、怒りそのままでナルザスに向かって行く。


 だが、ロイドは折れて地面に転がった荊の樹が赤く発行していることに目を奪われた。


 頭に次々とあの光がなんなのか疑問に思っていると、赤い光が一瞬周囲を照らして大爆発を起こした。


 「接触爆弾(せっしょくばくだん)、そこは地雷原だぜ」


 グレンの爆弾は魔法には安全と威力のトレードオフが存在し、自分より弱い存在が近くにいる場合には巻き添えを恐れて威力を最小限にするが、本来の威力を発揮すれば一撃絶死(デス)の単体火力より上だ。

 

 ロード達をこの場から逃がしたことで、鎖から解き放たれたグレンはようやく思う存分爆発させることができるのである!

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