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カオスの遺子   作者: 浜口耕平
第一部 エルマの町編 カオスの遺子
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 ザクレイの魔力が大気を歪ませ、轟轟と風が四方八方に散り散りに吹き荒れるのを、ロイドは顔を曇らせることなく、彼の超位魔法にワクワクと好奇心で魅入っていた。


 やがて体外に溢れ出た魔力がザクレイの体に戻って風が吹き止むと、ロイドはザクレイの超位魔法一撃絶死(デス)を目の当たりにした。


 「超位魔法か……魔物と人間の魂の融合体である混血しか使えない人の理を超えた魔法ではあるけれど、それでも所詮は母上が定めた理のなかの事象だ」


 ロイドは白銀の鎧にその隙間から赤い煙が立ち昇る異様な姿になったザクレイを見て、不敵な笑みを浮かべていた。遠くにいる僕たちでさえ、一撃絶死(デス)を発動している姿には、初めて魔物と遭遇した時の恐怖と無力感と似た感覚を受けたのに、ロイドは楽しんでいるように見えた。


 「俺たちの魔法がカオスの理だと?」


 「そうだよ。魔法に限らず、この世界の全ては母上の理さ、君も、僕も、母上が創った世界の要素に過ぎないんだ」


 「俺たちがここでお前と対峙しているのもか?」


 「そう。僕たちが出会ったのも、戦おうとしているのも母上の意思なんだ。まあ、そのおもちゃの着ぐるみじゃ僕には勝てないだろうけどね」


 魔力を吸い上げられて力を失い、前に会った時は四本の魔神の腕を召喚していたのに今は二本だけになっても、ロイドは余裕の表情を崩さない。


 だが、ロイドが話し終えた瞬間、ザクレイが残った左腕で全力の左ストレートを繰り出すと、喋りにかまけていたロイドは避ける暇もなく左顔面に直撃した。


 拳のインパクトは二人を中心に大きなクレーターを出現させ、聖授よ我らを守り給え(セイントガード)がなければ、発生した暴風が僕たちを粉切れの肉片に変えて吹き飛ばされていたと思う。戦いの影響を受けないよう完全な防御態勢に移行してから、外を見ることができなくなって、有利なのか、不利なのか、どうにもわからない状況になった。


 だけど、強大な力を持つ者同士がぶつかり合うことで、その度にインパクトが小さくない地震となって僕たちを揺らす。


 これでハッキリとしたことは超位魔法を使用すれば、同じ力を持っていないと戦闘に加わることもできないことだ。全く実力が足りてないと痛感した僕は地震で揺れる地面の上でバランスを取ることしかできない。


 地面が揺れる中でも、ナルザス、グレン、ウェイン、兄さんといった実力者は平然としている。アレスとメリナも互いに体を支え合って大丈夫そうだ。僕だけが猫のように混乱していた

 

 「揺れるぅ~外は一体どうなっているの!? こんなの外に出たら死んじゃうよ!」


 「おいおいお前が戦いたいって言うから来たんだろ、それとも今になって帰りたいとか、弱っちいことぬかすのか? 兵士なら根性見せろ!」


 「ち、違うよ! この揺れで心も少し揺れたからあんなこと言ったんだよ! なんなら今からでも外に出て見せようか?」 


 嘘だ。本当はまるであらゆる災害の中心地に向かって行くような真似はできないし、その勇気もなかった。それでも、口から強い言葉が出てくるのは、自身のプライドだけが外でロイドと戦っていたからだ。


 「やめとけ、お前がここから出れば数秒でひき肉になるぞ。それにしても外は物騒だなー、ウェインの言う通りに町で市民を守るべきだったか……」


 「そうだな~俺とグレンはそろそろ外に出てザックと共に戦うから、一緒にこない奴はリードの空間魔法で町まで帰ればいい。いずれにせよ俺が本気で戦えば聖授よ我らを守り給え(セイントガード)を維持することは無理だから、全員ここから出る羽目になるけどな」


 聖授よ我らを守り給え(セイントガード)を解除するまでの間に、ナルザスは町に戻るか、この場に残るのか、三分間考える時間を僕たちに与えた。


 「俺は町に戻って市民の救助を優先します。あとリードも俺についてこい、お前がいなきゃ全員を安全な場所へ移動できないからな」


 「ええー!! 兄さんも連れていくの!? それなら僕も町に戻りたいな」


 「お前はダメだロード。さっきのお前の攻撃はザックの拳より効いていた。お前の魔法が俺たちの魔法よりロイドには有効なんだから、町に戻すわけにはいかない。それに、これはお前が望んだ戦いでもあるだろ?」


 「それはそうだけど、外に出たら僕を守ってくれる人がいないんだからどうしようもないよ」


 僕が使える魔法は贈り物(ラッキーパンチ)だけだから、攻撃を避ける術は身体能力に依存したもののになってしまう。一つの対象を見極めて回避することはこれまでの戦いで何度もやって来たことだけれど、今は四方八方から一撃で死ねる衝撃波が飛んでくる環境なので、僕の実力では一分も経たないうちに肉片になってしまう。


 だから、ずっと前からの課題であった僕が対象物に近づくまでのサポートを、誰かが引き受けなければならない。


 地形が変わるほどの戦いのなか、それを実行するのは“赤ん坊が一人で町から町まで安全に這って移動する”ことと同じぐらい難しい。つまり、ほぼ不可能ということだ。


 鮮明な死の光景が頭によぎり、恐怖で体が打った水面のように頭からつま先まで震える。戦う気など今となっては消え失せて、不安と恐怖といった負の感情が全身を蝕んでいた。


 「……しゃーねえな、俺の究極の魔法、生命の樹(せいめいのき)でお前を守ってるやるよ」


 そう言うと、ナルザスは自身の体を覆っている棘のついた枝を僕の体にも纏わせた。


 見た目以上に重たく、鋭い棘が生き物のように動いて体に突き刺さる。最初は痛いと感じたけど、少ししてそれは僕の思い込みだったようで、今は痛みを感じないどころか、清々しい気分と力が体の中から湧いてくる。


 「どうなってるの? 棘が刺さってるのに痛みを全く感じないんだけど!!」


 「俺の超位魔法、生命の樹(せいめいのき)はこの荊の樹が宿った対象物の生命力を吸い取って成長する。宿れる対象物は人や動物といった生き物から、地面や森など生命を持ったものなら何でも宿れる」


 さらにナルザスはこう続けた。


 「宿った者は傷がついても地面から生命力を奪うことで自身の傷を治すことができるし、死後間もなくなら死んだものでさえ生命力を与えて蘇らせることができる」


 「えらく都合のいい魔法だな。超位魔法なんだから何か代償があるんだろ?」


 静かに聞いていたアレスが尋ねた。


 「ああ、生命の樹(せいめいのき)は俺自身を回復させることができない。むしろ俺の生命力を奪うから下手な扱いをすると俺自身が死んじまう」


 『それならお前の体を覆っているそれは何だよ、ドМなのか?』と思ったアレスだが、口には出さずに軽い返事を返した。


 「そういやお前たち二人は戦うのか? 仲良く支え合いやがって、仕事じゃなければ今すぐぶっ飛ばしてやるのに」


 アレスとメリナは互いの顔を見た。アレスは戦うことに関しては消極的な一方で、メリナの方は戦って戦功をあげようとやる気に満ちていた。


 「私は戦うわ! 少しでも戦功をあげれば家に帰ることができるもの」


 「俺自身は生きて帰りたいが、相方というかなんというか……メリナが戦うなら俺も戦うぞ」


 本心を絶対に打ち明けないアレスと、その言葉を聞いて嬉しそうに微笑むメリナにイラつきながらも、ナルザスは二人に荊の樹を纏わせた。


 「お前らにもしょうがねえから宿らせてやる。途中で外れても俺のせいにするなよ」


 「キツイ冗談はやめてくれよ」


 「ハハハハ!! 安心しろ、仕事じゃ俺は誰よりも真面目だから心配は無用だ」


 毎日、領主のちょっとした用でも聞いているのだから、ナルザスが真面目だという事には嘘が無いから、二人は安心して戦う心構えを持てた。


 ウェインと兄さんの二人がエルマの町に戻り、いよいよ外に出る時間がやって来た。ナルザスの生命の樹(せいめいのき)を信じて、僕たちは目をつぶったり、瞑想したりして心を落ち着かせる。


 「解除するぞ!!」


 ナルザスの声と同時に、聖授よ我らを守り給え(セイントガード)の守りが解除されて、僕たちは危険な外へと放り出された。


 「行くぞお前ら!! ザックと一緒にロイドを倒すんだッ!!」


 僕たちは荒れ狂う衝撃波の中、ナルザスとグレンを見失わないように後ろをついて行った。

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