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カオスの遺子   作者: 浜口耕平
第一部 エルマの町編 カオスの遺子
39/43

特異点再びッ

 町の外に出て見渡しのいい平原にやって来た僕たちは、準備運動をしてから互いにどんな魔法を使うのか共有し合った。


 グレンが扱う魔法は爆発魔法、火・土・風の元素を組み合わせて使う攻撃に特化した魔法であり、グレンの無くなった右腕も自身の魔法で吹っ飛ばしてしまったらしい。


 体で触れたものを何でも爆弾に変える接触爆弾(せっしょくばくだん)、辺り一帯を爆発させる地爆(ちばく)、自身の魔力を込めた爆弾を投げて遠くの敵を爆発させるボムスローなど……数ある魔法を僕たちの前で見せてくれた。


 「凄い威力だけど……近くにいたら僕たちも巻き添えで粉々になっちゃうね」


 グレンの魔法はここにいる人たちの中で最も破壊力のある魔法だ。これならロイドの魔神の腕を容易く吹き飛ばすことができるかもしれない。


 だけど、その破壊力とは裏腹に爆発範囲が広大で、とてもじゃないけどチームプレイで戦うことは難しいと思う。


 「ハハハっ、お前の魔法はみんなで戦うのには不向きだってよ~。やっぱ俺の魔法の方が強いし、協調性もあるな」


 「じゃあナルザスの魔法も見せてよ」


 「ああいいぜ、グレンのとは違って俺の魔法は子供でも楽しめる魔法だからよく見とけよ」


 ナルザスが両の掌を合わせると、地面からニョキニョキと大木が赤い人間ほどある大きな実を生らして現れた。


 でかい……巨大すぎて一瞬小さな山かと見間違うほどだ。ナルザスは自身の魔法がどれほど素晴らしいかを力説しているけれど、僕たちはその大きさに呆気に取られて彼の話を一言も聞いていなかった。


 ふと視線を目の高さまで落とすと、大きな幹からリンゴほどの青い実が生えているのを見つけたので、ナルザスにこれは何かと、食べらるのかと尋ねた。もし食べられるのなら、手に取って食べてみたい。なぜなら、白い光沢でツヤツヤしていてとても美味しそうだから。


 「無理無理、この木に生えている実は体を溶かすほどの酸や全身が針で刺されたような激痛が走る毒とかが含まれているからな。解毒方法は俺しか知らないから、迂闊に近づくなよ」


 それを聞いて瞬時に手を引っ込めた。あと少し遅れていたら死んでいたことを考えると、見た目以上に凶悪な魔法だという事がわかる。


 それに加えてナルザスは猛毒の果実以外にも、僕たちと瓜二つな人形が実る“人形の果実”、食べるとたちどころに傷が癒える“治癒の果実”、果てはパンの実など思いつく限りの果実を実らせて、そのレパートリーの多さにとても興奮した。


 僕たちの反応の方が良かったことをナルザスはグレンに、自身の魔法がより優れていると嫌なほど自慢している。


 これでザクレイは一対一、グレンは範囲攻撃、ナルザスは超サポートと、三人の隊長たちの魔法の特徴が分かった。


 続いてみんなで魔法を合わせる練習と行きたい……ところだけど、ザクレイたち三人は、誰が僕たちを指揮するチームの隊長に相応しいかを巡って口論しだした。


 ロイドと戦うためには全員がいつも以上に協力して戦わなければいけないので、チームの隊長を決めるのは大事なことだ。でも、三人は切磋琢磨しあった経験からお互いの実力は十二分に知っていて、誰が一番偉いとか、一番強いとか決めることはできない。


 議論では結論に至ることができないと悟った三人は、決闘ではなくじゃんけんの勝者でチームの隊長を決めることにした。


 じゃんけんの結果、ザクレイが僕たちのチームの隊長になることが決まった。


 「しゃ―ッ!! 俺が隊長だ!」


 「クソー何で俺じゃねえんだ……」


 「グチグチ言ってんじゃねえよグレン、今からお前らは俺の部下なんだから、俺の言うことはちゃんと聞けよ」


 ザクレイが隊長になって早くチーム練習ができることに安堵している僕たちとは対照的に、じゃんけんに負けた二人は反抗的な態度をしている。


 「もう二人ともー! 今からロイドを倒すための練習をしなくちゃいけないんだから言う事聞いてよ」


 「子供に言われるなんて恥ずかしくないのかよお前ら、もう三十六だろ?」


 「「チッ! しゃーねえ……やってやるか」」


 打合せしたかのように二人の言葉とタイミングはピッタリだった。


 基地にいた時はすぐ喧嘩をしていたのに。もしかしたら、結婚以外の部分ではとても仲良しなのかも……。


 ともかく全員がザクレイを隊長と認めて、次のチーム練習へと進むようザクレイが命令を出した。だけど、その前に僕はザクレイたちに超位魔法とは改めて何なのかをこの場で見せて欲しいと頼み込んだ。


 「前にも言ったように超位魔法は命を削る魔法だ。戦い以外で何度も使う魔法じゃないんだよ」


 ザクレイはあっさり断った。他の二人も同様、「実践じゃないのに、本気でやるなんて馬鹿みたいだ」と言って見せてくれそうにない。そればかりか、ウェインは僕が我儘でチームの輪を乱していると非難してきたので、これ以上ザクレイたちに頼むことはできなくなった。


 世界最高位の魔法を見たかったのになぁ……。見てみたい思いを胸に秘めて僕たちはチーム練習へと向かう。


 どう戦うかの打合せや、人員配置、用意周到な準備を終えた瞬間、僕たちがいる遥か上空で、ピキッ!と空間が割れる音がした。


 何度も聞いたことがある空間が割れる音……全員がその音が特異点によるものだと確信し上を見上げた。


 あれだけ高い特異点は初めて見る。そして、その向こう側にいる()からはあの時覚えた衝撃と恐ろしさが垣間見えた。

 

 特異点の扉が出来上がるにつれ()の力の奔流が人間界に溢れ出てくるのを、全員が沈黙して、いや動けずに見ることしかできなかった。


 全員が()の正体に感づくと、体の内側から迸る闘志で動けぬ体を鼓舞した。


 いつかはやって来ると思ってたけど、まさかこんな時に来るなんて……まだみんなで合わせる練習もしていないのに……。それに、どうやって僕たちのいる場所がわかったのかも疑問だ。


 額から顔を伝う冷たい汗が僕が焦っている事を実感させる。戦闘での焦りは命にかかわるから、右手で汗を拭って気持ちを落ち着かせる。


 そして、ついに出来上がった特異点の扉が開いて、中からロイドが僕たちの前に降りてきた。


 ロイドを目の当たりにしたみんなが魔法を構えた。動けば全員の魔法が炸裂する中、ロイドはそんなことなど気にも留めていないのか、悠々と僕の方へと歩み寄って来る。


 「約束通り迎えに来てあげたよ。さあ一緒に僕と学ぼう。そして、君は知る。世界の始まりと終わりに訪れる王の偉大さを」


 「し、知らないよそんなの! 僕はお前たちを倒してみんなを外敵から守るんだ!」


 僕はロイドがさし伸ばした腕を叩いて自身の思いをぶつけた。


 「本気で言っているのかい? だとしたらあまりにも愚かだよ。人が僕たちに勝つことは神の意思に反する出来事だよ」


 千年間戦い続けてカオスの遺子に勝てた事例は数例しかないことからも、ロイドの言っていることは正しいのかもしれない。


 でも、その数例がロイドの言う神の意思に反するのなら、僕たち人間は神の怒りに触れて全滅していてもおかしくないはずだ!


 「じゃあ僕たちが今ここにいるのも神の意思ってことになるよね? それなら僕たちが今お前を倒すことも神の意思になる!!」


 僕は贈り物(ラッキーパンチ)でロイドの体を掴んで猛烈な速度で魔力を吸い始めた。


 さすがのロイドも、「何だこれは!?」と無限の魔力を持つにもかかわらず、自身の魔力が急激に減っていっていることに焦りを感じて、すぐに僕を突き放した。

 

 「僕の魔力は無限なのにどうして力が湧いてこないんだ!?」


 相手の魔力を吸収する魔法はずっと昔から存在している。魔力を持っている人間や魔物に対してとても強力な魔法ではあるが、カオスの遺子相手では無限の魔力を持つ遺子には意味をなさない。だから、ロイドは自身の力が明らかに弱まっていることが理解できなかった。


 戸惑っているロイドには悪いけど、僕が攻撃した以上もう戦いのベルは鳴っているので、多次元魔装(ダークアーマー)を身に纏ったザクレイが油断しているロイドの体に強烈な拳を浴びせた。


 飛んで行くロイドの後ろに回り込んだザクレイが肘打ち、蹴り、指を組んだ両手で脳天を叩くなどして追撃する。


 地面に仰向けに叩きつけられたロイドの目の前にザクレイが仁王立ちして、強烈な一撃を浴びせようと拳に力を入れるのを、ロイドは顔を変えずに見ていた。


 「いつぶりだ? 僕がここまで一方的にやられるのは……思い出せるのは姉上と人形の取り合いで喧嘩した時だったかな? いずれにせよ人間にやられるのは初めての経験だ」


 「そうかよ。なら人生の終わりに存分と人の強さってのを思い知れ!!」


 そう言って、ザクレイが拳を叩きつけたかのように見えた次の瞬間、ザクレイの右腕がロイドの魔神の腕によってもがれたのを目撃した。

 

 「もういいかな、全員消しても……」


 右腕を失い、体のバランスが取れないザクレイは地面に膝をついて、今度はロイドがザクレイを見下ろす番になった。


 「「ザッッックー!!」」


 ナルザスとグレンが声を荒げて助けに走った。


 「来るんじゃねえ!! 腕一本ぐらいで俺が負けるもんか」


 まだバランス感覚が分からないながらもザクレイは立ち上がりロイドを睨んだ。


 「凄いぞ君、ほとんどの人間は片腕を失った瞬間は立ち上がってバランスを取れないんだよ」


 「俺をそこら辺の有象無象と一緒にするんじゃねえ。しょうがねえ……これは最後の方に取っておきたかったんだが、そうも言ってられねえな」


 すると、ザクレイはこちらの方へと振り向いて、「ナルザス! ガキどもをちゃんと守れよ! 巻き添え食らって死んでも俺は責任とらないからな!」と叫んだ。


 「おいマジかよ! クソ聖授よ我らを守り給え(セイントガード)!」


 ナルザスが扱う魔法の中で最高の耐久性を誇る聖授よ我らを守り給え(セイントガード)で僕たちの安全を確保したのを見届けたザクレイは再びロイドの方へと振り返った。


 「ようやくだ……ようやく久しぶりに本気で暴れられるぜ」

 

 重傷を負っている身なのに、ザクレイの口からは笑みがこぼれている。遠くから見ている僕たちからも、ザクレイの魔力が急激に上昇しているのが見て取れた。


 溢れ出る魔力がリング状になって二人を取り囲む光景は、かつてないほど強力な魔法が見れる前触れのようである。


 次第にリング状の魔力が小さくなっていって、ザクレイの全ての魔力が体の周りを渦を描くように周って、それはやがて白い鎧へと姿を変えた。


 「一撃絶死(デス)

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