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カオスの遺子   作者: 浜口耕平
第一部 エルマの町編 カオスの遺子
38/43

作戦会議

 兄さんの既婚話、ナルザスとグレンの喧嘩と散々に振り回された僕は、宿舎に帰ってきた頃には心身ともに疲れ切っていた。

 

 足が棒のようになってこれ以上歩けない僕を尻目に、他のみんなはスタスタと歩いてソファに腰かける。


 「何やってんだロード、今からロイドの対処について考えるから早く来いよ」


 兄さんがぶっきらぼうに僕を呼ぶ。こうなってしまった原因は誰のせいかと鋭い目で睨み返すけれど、有無を言わさずに抱きかかえられて、僕は兄さんの膝の上に座らされた。


 「僕はまだ許してないんだからね!」


 「ごめんごめん、次から隠し事はしないと誓うよ」


 「……じゃあ嘘ついたら僕の言う事を一つ聞くと約束して」


 「ん、あ~わかったよ……約束する」


 「えへへ~やったぁ」


 ふふふ、兄さんのことだから約束は必ず守るだろうな。守らなくても僕にとても有利なこの条件を呑ませたのは勝利と言ってもいい!


 取引が上々に終わったので、気分よくこれから始まる作戦会議に参加できそうだ。


 すると、僕と兄さんの決着が着いたのを見計らって、ザクレイが“ロイド討伐作戦”の話をきりだした。


 「ここから先は命を懸ける覚悟がいる。少しでも命が惜しいと思うなら、遠慮なく申し出てくれ! 何一つ咎めねえから」


 ザクレイは話す前にみんなの覚悟を確かめたかった。しかし、僕たちの中で逃げ出そうとしている人は誰もいない。

 

 同町圧力などではない。口には出さないけれど、僕たち一人一人が決意に満ちた覚悟を持っており、みんなが真剣な眼差しでザクレイの方を一点に見つめている。


 「そうか……全員覚悟を決めたか。ならまずはロイドの基本情報について話そうか」


 そう言うと、ザクレイは自分で用意した一枚の紙をテーブル上に広げた。


 広げられた紙をみんなが身を乗り出して見てみると、そこにはまるで幼子がペンで殴り書きしたような、得体の知れない、悍ましい絵が描かれていた。


 「隊長……まさかこれがロイドを描いたものとは言いませんよね?」


 「何言ってんだよウェイン。左右上下、目を開けても瞑っても、どう見てもロイド以外ないだろ」


 「ッッッッ!?」


 それを聞いてみんな顔をしかめた。書いてあるのは人の形はしているけど、絵は灰色、緑、黒と上から三色に分けて塗られているだけであり、一度見たことがある人でも絵のモチーフがロイドであることには気がつかなかった。


 「そういやお前は絵を描くのがクソ下手だったな……しょうがねえ、俺がロイドを作るから特徴を言え」


 絵から何一つロイドの特徴を見つけられないと、ナルザスがザクレイの描いた絵の代わりに、樹木魔法木偶の棒(ガーディアンズ)でロイドの人形を作ることにした。


 「せっかく二時間もかけたのに役立たずかよ……」


 「そんなゴミに二時間もかけんなよ! それで、どんな奴だったんだ?」


 ロイドと相対した僕たちの言葉に従って、ナルザスは作業を進めた。徐々に形作られるロイドの精巧さに目を見張りながら支持を続けて、ついにロイドの等身大の木像が完成した。


 「ガキじゃねえか……」


 グレンは木像を見てそう吐き捨てた。


 「子供だからって油断するなよ。コイツは俺の多次元魔装(ダークアーマー)を一撃で破壊したんだ」

 

 「やっべえな……だけど、奥の手は使わなかったんだろ? それならまだ戦えるな」


 初めてロイドの力を目の当たりにした時、あれだけ戦いたがっていた僕の戦意が一瞬で崩壊したのに対して、グレンとナルザスの二人は少し驚きながらも、想定内の出来事のように振る舞っている。


 「しっかし、()()()()しか有効打がないって話は本当だったんだな」

 

 「それならまともに戦えるのはアナタたち隊長だけですね。俺たちは市民の安全のために町にいようと思います」


 「勝手に決めんなよウェイン、俺たちは戦う意思全開だぞ! 町の安全は町内兵士がいるんだから問題ないだろ」


 つい先ほど覚悟を決めたばかりなのに、戦意ではなく役に立たないと言われたことにアレスは腹を立てた。


 「おいおい戦うことだけが兵士の仕事じゃないぞ。俺たちの一番の任務は市民の命を守ることだ。町内兵士だけでは戦力が心もとないだろ? それに隊長たちの攻撃が町まで飛んでくる可能性だってあるんだぞ」


 「でも、私たちはこの時のために頑張って来たのだから、少しは役に立てるはずだと思うけど……」


 「俺の部下はこう言ってますけど……どうします?」


 自分の言葉では納得させることができないと思ったウェインは、面倒くさくなって僕たちの参戦の有無をザクレイたちに投げた。


 「う~ん……お前たちは純血だしなぁ~、戦うつっても限界があるから難しいな」


 「なんだよ、お前も混血がどうとか言うつもりか?」


 「そうじゃないそうじゃない。俺たち純血しか使えない魔法があるんだ、それが超位魔法だ」


 ローデイルの兵士との一件以来、僕たちの中では混血と純血の優劣を決めるような話をすることはタブーになっていたので、グレンに対してアレスが怒るのも当然である。


 しかし、さっきもチラッと出てきた超位魔法と言う、聞いたことのない、未知の魔法への興味で湧いてきた怒りはさっぱり消え去った。


 「超位魔法って? 僕たちはローズのもとで魔法について一生懸命勉強したけれど、超位魔法なんて教えてもらってないよ」


 僕たちは魔法の基本である六大元素以外にも、会得する難易度や危険度によって魔法に順位があるということを習った。


 ・下位魔法……町の本屋で買える魔導書を勉強して習得できる魔法。会得することが非常に容易で、一般市民が魔法と触れ合える機会を与えてくれる。町の学校では七歳から教えることが義務となっている。


 ・中位魔法……上位魔法より会得難易度は簡単だが、それでも習得するには非常に時間がかかる。一般市民が会得できる最高位の魔法であり、通常は大学で魔法学を専攻しないと会得することは難しいが、町の外で暮らしている村人のほとんどは命を守るために、子供の頃から魔法を教えられるので、彼らにとっては会得することは簡単である。


 ・上位魔法……才能があればすぐに会得できるが、才能がなければ一生掛かっても会得することはできない。兵士以外が上位魔法と会得することは法律によって違法であり、もし隠れて習得しようとしていたら問答無用で死刑になるほど厳しく管理されている。なぜなら、上位魔法は人に向ければ大量殺人を道具なしにいとも簡単に実行できるうえに、魔法犯罪は証拠がほとんど残らないために犯人を特定することが困難であるからである。ただし例外として、村人たちは先祖から代々受け継がれる魔法には上位魔法クラスの魔法があるが、軍の力が及ばない範囲であるため罰せられることはない。しかし、村人が市民権を購入した時には、軍から魔法が一切使えなくなるブレスバンドのような魔法具の装着を義務付けられる。


 「一般的に下位、中位、上位しか教えられていないのには訳があるんだ。超位魔法は人間と魔物の魂を持つ混血にしか使えないことと、超位魔法は使えば使うほど使用者の寿命が縮んでいく、言わば諸刃の剣のような魔法だからな」


 「グレンの言葉を聞いて分かったと思うが、超位魔法はとても危険なんだよ。それこそまともに扱える兵士はこの国じゃフォースと俺たち地方の隊長しかいないんだ」


 「使えば命が削られてしまうが、その力は絶大だ。俺の多次元魔装(ダークアーマー)が霞むほどにな」


 三人の説明を聞いて、希望と落胆が同時に僕たちに降りかかった。それはもしかしたらロイドに一矢報いることができるかもしれない希望と、僕たち純血にはどう足掻いてもカオスの遺子に対抗できうる超位魔法を会得することができないという落胆だった。


 つまり、僕たちがこれまで必死になって魔法を特訓してきた時間は無駄だったことを意味する。


 その事実は一瞬にして希望が激しい絶望に変え、虚しさのあまり僕の目からは涙がこぼれた。


 「じゃあ僕たちはどんなに頑張ってもカオスの遺子と戦っていけないってこと?」


 僕の言葉は誰にも反応されず、空気のようにどこかへ飛んで行ってしまった。そして、しばらく沈黙が続いた後、口が開いたのはなんと兄さんだった。


 「それは違うぞロード。お前には誰も真似できない魔法があるだろ? メリナとアレスも一緒だ、今は全然届かなくても、何かのきっかけでアイツらと戦っていけるようになると俺は思う」


 兄さんの言葉で実力が変わるわけでも、超位魔法を会得できるわけでもないけれど、僕たちに自分たちの唯一の魔法がどれだけ誇らしく、自分の強さになっているかを認識させた。


 僕の贈り物(ラッキーパンチ)、メリナの風斬撃(クラリス)幻影を追う亡者(リアルミスト)

、アレスのオメガブラストとメルヴィングなど……全部僕たちだけのオリジナルの魔法だ。


 そして、それらの魔法は時が経つにつれ力も精度も増していき、今では入隊試験では強敵だった魔人にも一人で勝てるほどのものとなった。


 不可能が可能に変わる。それは兵士として半年以上生活してきて、魔法が格段に強くなったことで実感した言葉だ。


 「そうさ! 俺たちには超位魔法がなくても、オリジナルの最高の魔法があるんだ! カオスの遺子如きに通用しないわけないもんな、なんたって俺たちだけの魔法なんだから!」


 「ええ、半年でここまで強くなれたのだから、私たちはもっと高みを目指せるわ。だからザクレイ! 私たちもアナタたちと一緒に前に出てロイドと戦ってもいいわよね!?」


 アレスとメリナはさっきまでと打って変わって、自信に満ちあふれた顔つきになっていた。


 僕も兄さんと一緒に戦えることを猛烈にアピールした結果、ザクレイたち隊長は全員僕たちの参戦を許可した。


 「全員が戦うことを決めたんだ。早速町の外でこの木偶の棒(ガーディアンズ)を本物のロイドに見立ててどう戦うか対策を練るぞ!」


 「了解ッ!」


 全員がロイドと戦うことが決まった僕たちは、木偶の棒(ガーディアンズ)でできたロイドを持って町の外へと向かった。

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