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カオスの遺子   作者: 浜口耕平
第一部 エルマの町編 カオスの遺子
37/43

出立と到着

 ダンジョンを攻略してから、僕たちはまた自宅待機を言い渡され、暇な生活へと戻った。


 前と変わったのは、毎日外出して適度な運動をするようになったことと、ニトが宿舎に遊びに来るようになったことだ。


 ニトの目的は僕であることは明白だった。なぜなら、僕がシールたちと遊んでいる時には尋ねてきてもすぐに帰ってしまうからだ。


 そして今日も僕はニトの膝の上に乗せられて、赤ちゃんのような扱いを受けていた。それは膝の上から逃げ出そうと体を反らしたら、抱きかかえて甘い声で叱ったり、お菓子を口まで持ってきたり、十一歳の僕には納得できない扱いだ。


 そんな様子を見ていたメリナは僕の心情を察してくれて、ニトに苦情を入れた。


 「あまりロードを赤ちゃんみたいに扱わないであげて、ロードは十一歳なのよ」


 「こんな小さくてかわいい十一歳なんていないの!」


 メリナの忠言は逆効果だった。ニトは僕を決して離さないように抱きしめている腕の力を強くした。


 「いい加減ロードを離しなさいっ、ロードはニトの赤ちゃんじゃないわ! 年齢に適した扱いをしなさい!」


 「いやいやいや! ロードは私と一緒に暮らすの!」


 ニトはおもちゃを取り上げられたくない子供のように駄々をこねた。十九歳とは思えない言動に、年下であるメリナも動揺を隠せない。

 

 それから二人は僕を自身の手におさめようと争いを始めた。僕の体はボール遊びのボールのように、二人の間を絶えず繰り返し移動している。


 激しく体が動いてだんだん気持ち悪くなってきた。気分が落ち込み抵抗する力が無くなった僕もの扱いはまるで人形のようだった。


 声を出す気力もない僕が助けを願っていると、ドアの向こうから救世主ウェインがやって来た。


 「何してんだお前ら? それよりニト、お前たち外国兵士に帰国命令がでたぞ」


 「え? え、え嘘でしょっ!?」


 突然の帰国命令にニトは気が動転して膝から地面に崩れ落ちたと思えば、すぐに立ち上がってウェインにどういうわけかと詰め寄った。


 「この町にもうすぐしたら三人の地方隊長がやって来る。ここはロイド襲来の最前線の町となるから、他国の兵士であるお前たちは国に帰れとのお達しだ」


 「何勝手に決めてんのよ! 私とロードの絆は絶対守って見せるわ!」


 「熱くなんな、これは国の存亡を懸けた戦いだ。ローデイルの即戦力でもないお前たちが命を無駄にする必要はない。それでも命令に背くなら厳しい罰則が待っているぞ」


 千年前にヤマト、エレイス、ダグラス、ローデイルの四カ国で結ばれた軍事同盟の第三条には、『締約国は自国の兵士をそれぞれの締約国に派遣し、派遣された締約国はその兵士を自身の軍に組み込むことができる』とある。


 第三条には細かく条項が規定されているけど、特に重要なのは、『兵士は原則として、初めて兵士として認められた軍に所属する』だ。


 これでは第三条の、『派遣された兵士は締約国が自身の軍に組み込むことができる』という原則に無矛盾していると思うかもしれない。しかし、派遣された兵士というものは、お金を払ってその国に駐留させてもらっているのであって、自軍の兵士の命を守るために危ない仕事を派遣国の許可なく命令することはできない。


 ましてやカオスの遺子が相手ともなると、まともに戦える実力者は限られてくる。だから、基本的にカオスの遺子と戦う許可は絶対に下りない。


 したがって、ロイドの襲来が叫ばれているこの状況下では、ニトたちが国から呼び戻されるのは当たり前の事であり、ニトもそのことを認識している。


 それでも、僕の安全を思って町に残れるようウェインにお願いしている。


 「無理だ諦めろ。国が決めたことだ、俺にはどうすることもできないし、お前にもできない」

 

 決定を覆せないと知ると、ニトは僕の体に泣きついた。ニトは僕にカオスの遺子と戦ってほしくないことは言葉じゃなくてもひしひしと伝わって来る。


 その昼、国に帰るコルカスたちを見送りに町の西門へと赴いた。


 今生の別れになるかもしれないと誰しもが思ったことだろう。僕たちはローデイルの兵士たちと最後の時間を忘れないように、心にずっと留められるように噛みしめる。

 

 「うぅ……死なないでねロード」


 ニトは帰ることが決定した時からずっと僕にしがみついて泣いている。


 いつもの僕なら隙をついて逃げ出そうとするけど、今は僕のことを心の底から思ってくれる人が抱きついているので気分がいい。


 そう言えば、大抵の場合は僕が誰かに抱きついたり、体を乗せたりしていたなぁ。僕のことを抱きしめる人のほとんどはニトやメリナのような女性だ、例外的に酔っぱらって興奮したアレスもいるけど……。 そのような人たちは、「可愛い!」や「赤ちゃんみたーい!」とあからさまな子供扱いをしてくる。


 ニトも最初はそうだったけれど、今は僕のことを本当に思ってくれている。そのお返しをしようと、僕は目線を合わせるようにニトに言った。


 「こう? 一体何をしてくれるのかしら」


 僕はニトと目が合った瞬間、彼女の顔に抱きついて顔を自分の顔でスリスリした。


 「よかったなニト、ロードは気に入った物やお気に入りの人に対して顔を擦り付けるんだ」


 兄さんの言う通り、この行為は兄さんやおもちゃ以外には滅多に行わない。メリナにもアレスにもしたことがなかった好意マーキングをニトは、照れているような、喜んでいるような、変な顔をしていた。


 「ったく、アイツら……最後の別れみたいに泣きやがって。俺は簡単に死なねぇぞ」


 離れた所で傍観しているアレスには、ロイドとの戦いで負ける気などさらさらなかった。むしろ心は闘気と勝利の気持ちで溢れていた。

 

 そんなアレスの元へ犬猿の仲であるガロンが別れの言葉を言いに来た。


 「大変だなこれから……絶対に死ぬなよ」


 「お前の口からそんな言葉が聞けるなんて思ってもみなかったぜ。安心しろよ、俺は少なくとも死ぬ気はねぇから」


 「勘違いすんなよ。お前と引き分けている状態でお前が死んだら、勝負がつかなくなるだろ。お前みたいな奴と対等な存在とみられたくないんだ」


 「チッ、やっぱりローデイルの兵士はムカつく奴ばっかりだな。お前こそ後悔するなよ、俺が強くなってお前の前に現れた時、その時がお前と俺の最後の勝負だ!」


 「ああ」


 二人はお互い手を伸ばして、握手した。それは仲直りの握手でも、戦いを了承したという握手でもなく、生きて再び会うという男同士の決意に満ち溢れた握手であった。


 「あの二人も仲良くなったな~。よし! それじゃあお前ら帰るぞっ、馬車に乗れ!」


 コルカスの言葉で、ローデイルの兵士たちは帰りの馬車へと乗り込んだ。


 乗り込む際、「絶対生きてまた私に元気な姿を見せてね!とニトに言われたので、僕は必ず約束を守ると彼女に言った。それを聞いて安心したのか、ニトは馬車に乗ってもう二度と顔を見せなかった。


 馬車が動きだすと、僕たちは門の外に出てその姿が見えなくなるまで手を振って見送った。


 見送りから宿舎に帰る道中、僕の目には涙が溢れていた。隣にいた人たちがいなくなるのはとても悲しいことだ。


 別れの悲しさを思い出した僕は、ロイドとの戦いで誰も死なせないとコリンの墓を思い浮かべながら誓った。



 コルカスたちの別れが済んだ後の町は一変してしまった。


 エルマの町周辺の他国の兵士が一斉にいなくなったことに市民は動揺を隠せない。市民権を捨てて町から去る人、なにがあっても町に残ると決めた人、多くの市民がこれから先の大乱を予感して行動していた。


 町の混乱は日に日に大きくなっていき、一部では基地に文句を言う市民までもが現れて混迷を極めていった。


 しかし、そんな混乱を一言で沈める情報が町に舞い込んできた。


 ダンタリオン地方の隊長ザクレイ、アンタレス地方の隊長グレン、アンドロメダ地方の隊長ナルザスが町にやって来るという情報を知った市民は、より頼もしい守り手が来ることにあちこちで饗宴が開かれて、町は普段の日常を取り戻していった。


 三人の隊長がエルマの町に到着したのは、市民が知った日の丁度二日後だった。


 馬車が進めないほどの熱烈な市民の歓迎を受けた三人の隊長と、町の中心地にある基地の中で合流した。


 一度会っているとはいえ、王国の最高戦力である地方隊長が、それも三人目の前にいるという非日常さに、僕たちは委縮して声が出なかった。


 「四、五人か……えらく若い奴が多いチームだ。挨拶する前に一つ、とても大事な質問をお前たちにする」


 アンドロメダ地方の隊長ナルザスの力強い声が、気持ちの落ち着かない僕たちの心をただ一つの思い、“何が飛び出すか知れない質問の内容を、一言違えず聞く”という行動へと導いた。


 緊張の中、ナルザスが口にした言葉は、「お前たちは将来、または現在結婚を視野に入れている奴はいるか?」という何故そんなことを聞くのか理解できない質問だった。


 「そ、それって大事なことなの?」


 「とても大事なことだ。お前たちの命に関わる話だ」


 どういう因果関係で結婚が僕たちの命に関わってくるかは甚だ疑問ではあるけれど……ナルザスのあの目は嘘偽りのないマジの目だ。


 「俺は兵士の道をただ突き進むだけです」


 「流石だウェインっ、ザクレイの部下だけのことはある。お前はセーフだ」


 「はあ~よかった」


 ウェインはそう言ってもらえて、ホッと胸を撫でおろした。


 それからメリナ、アレス、僕とセーフが続いて、最後に兄さんの番が回ってきた。


 「最後にお前だ……この中じゃ一番齢を食ってそうだが、どうなんだ?」


 「……昔、愛している人がいた。ずっと傍にいると誓いあったが、些細なことで喧嘩した俺は誰にも見つからないように家を出た。泣いて彷徨いながら、自分の人生(しめい)を考えている時にロードと出会った」


 兄さんは過去を語らない。それは仲間であるウェインたちにはもちろん、十年以上片時も離れたことのない僕でさえ、一緒に暮らす前は人生に迷い旅をしていたという事しか知らない。


 そんな神秘のベールに包まれている兄さんの過去が、このような形で暴露されたことは驚きだった。そして同時に、“愛している人”の存在を弟である僕が許せるわけなかった。


 「僕が一番大事だって言ってたじゃん! それなのに僕以外に大事な人がいるなんて裏切られた気分だよ!」


 「おいおい勘弁してやれよロード。お前とリードが出会ったのはその女と別れた後の話なんだから、お前は関係ないだろ?」


 「ウェインは黙ってて!」


 「お、おぅ……」


 横槍を入れるウェインを血走った目で牽制して黙らせた。


 二人で暮らしていた日々をよくよく振り返ってみれば、兄さんはよく僕を留守番にしてどこかへ行っていた……。まさかっ、その間に女の人と会っていたんじゃないのか!? 兄さんの空間魔法を使えばどこにいようと一瞬でたどり着ける。


 僕の不信感は大きくなって怒りへと変わっていく。


 「もう十年以上も会ってないんだぞ。向こうも俺に愛想が尽きているだろうし、今は何もやましいことはないぞ」


 「じゃあ何で僕が最初に聞いた時はうやむやに誤魔化したの? やましいことがないなら正直に話すはずだよね」


 二人が揉めているのをアレスとメリナは少し離れたところから楽しそうに見ていた。二人に聞こえないように、コソコソと何かを話し合っている。


 「ロードの奴、メンヘラモードになっているぞ」


 「イヤイヤ期の子供みたいね。大人の狂気じみたメンヘラよりずっとマシだけど」

 

 「そうだな……お前がもし俺の傍にいることになれば、やましい話を言わないことは夫婦の罪となるのか?」


 「何を言ってるのよ、そんなの当たり前でしょ。しっかりと謝ってくれたら許してあげないこともないけどね」


 「へぇ~それはいいな」


 「なあにアレス~、私のことをお嫁さんにしたいの?」


 「ああ。話も合うといえば合うし、なにより俺がついてきてと頼んだらいつも来てくれるだろ……」


 それは正真正銘、告白の言葉だった。初めての異性からの告白……思いもよらない告白によろけるばかりだった。


 「ほ、本気で言ってるの? 私はまだ……」


 「いつだって俺は本気さ。それに、今決めろとかどうかの話じゃないからな、俺たちにはそれぞれ大切な目的があるから気が向いたらでいい」


 「わかったわ……」


 二人とも大義を持って兵士となったのだから、今こうした話をするのは目的から乖離してしまう恐れがある。そのため、アレスは自分自身の目的と向き合うことを促して、時が来れば返事を返すように仕向けたのだ。


 しかし、コソコソと浮いた話をしていた二人をナルザスは見逃さなかった。


 「お前ら今、気に入らねえ話してたよな!? さっきは興味ねえとか言ってたのにあれは嘘か? 俺を陰で笑うために嘘をついたのか?」


 すごい剣幕で詰め寄って来るナルザスに対して二人は矢継ぎ早に否定することしかできない。下手な言葉を返せば、ナルザスは魔法で二人を殺してしまうだろう……“結婚”などにまつわる言葉や行動は死へのトリガーなのである。


 「やめろ馬鹿っ、これから一緒に戦おうって言うのに殺そうとするな」


 見かねたアンタレス地方の隊長グレンが仲裁しようと間に入った。


 「うるせえ! そもそも俺がこうなってしまったのもお前のせいじゃねえか!」


 「まだそんなこと言ってるのかお前は……」


 「まだってお前……俺は、俺はなーッ!!」

 


 これは今から二十年以上前の話……


 ザクレイ、ナルザス、グレンの三人が孤児院を卒業し、軍に入隊した後の話である。


 孤児院からの間柄であった三人は幸運にも同じチームになることができた。年頃の若い男友達が集まれば、やることは騒がしくすることしかない。仕事が終わればどんちゃん騒ぎの日々を過ごしている中、将来のことを夜な夜な語り合うこともあった。


 今から語るのはその時の話の一端である。 


 「なあ、俺たちもう十八じゃん。そろそろ身を落ち着かせる場所が欲しいとは思わないか?」


 「「ない」」


 「どうしてだよ!? 子供とか、美人な妻とか持ちたくないのかよ?」


 「ナルザス……お前は全く分かってないな。たとえ美人な奥さんと添い遂げようとしても、齢を取ればお互い相手への感情が冷めていくんだぞ。それで離婚の話になったら、財産分与、親権、養育費とかいろいろ面倒くさいことになるんだ」


 ザクレイは結婚に付きまとうリスクをこれでもかと列挙していく。ナルザスにとって結婚とは安らぎを与えてくれるものではなく、常に身を覆う負の鎧なのだ。


 「そんなもん離婚しなきゃいい話じゃん。俺は大切な人のためにずっと愛し続ける覚悟があるんだ」


 「ハハハハハッ! お前はおとぎ話の勇者かよっ、結婚なんて理想と現実の乖離が激しすぎてお前には無理だよ」


 「やかましい! そういうお前はどうなんだよグレン!」


 「俺は絶対嫌だね。金も時間も取られるし、子供なんかできたら仕事なんかできねえよ」


 「それによく考えてもみろ。美人な妻と結婚したとする、夜になってお互いベッドで愛し合った後、お前はこう思うんだ。『なんでこの女は同じベッドにいるんだ? もう俺はとっとと寝たいのに……』ってな」


 「俺の嫁さんを売春婦と同じにするな!」


 グレンとナルザスが熱くなって互いに大声をあげるようになると、隣の部屋で寝ていたチームの隊長がやって来て拳で三人を黙らせた。


 頭がかち割れそうな衝撃を受けて意識が薄れていく最中、グレンとナルザスの両社はこう思った。


 「絶対に結婚する(しない)ぞ!!」と……


 そこから三人は、海外派遣、町の隊長、地方の副隊長と離れ離れになりながらも順調に兵士としてのキャリアを歩んでいった。


 出世するにつれて三人が一堂に会することはなくなっていったが、それでも会う度に近況報告をしあった。


 ザクレイは魔物を殺すことに快感を覚えるようになり、町の兵士に混ざって魔物を討伐することを日課にしている。


 ナルザスは結婚することを一番の目標としていたので、地方隊長の地位を利用して一般市民の女性と付き合ったりしていた。だが、地方の隊長と言うものは、その土地を治める領主に仕える唯一の兵士である。


 そのため、領主によって隊長の仕事量が変わり、一日中暇を持て余す隊長もいれば、仕事詰めの毎日を送っている隊長もいる。運が悪いことにナルザスは後者の方であった。仕事にかまけてばかりでは、どんなに愛しあっていても時が経てば必ず離れていってしまう。仕事のせいでナルザスは、一人の女性ともそれ以上の関係を深めることができなかった。

 

 そしてそのまま齢を重ね三十に差し掛かった頃、数年ぶりに三人が集まる機会があった。王都リベリオンで久しぶりに出会った三人は、すっかりオッサンとなった様子を見て笑い合った。


 三人は再会を祝って近くの酒屋に入って一日中飲み明かすことにした。


 「久しぶりに会ってみたら二人ともちゃんとしたオッサンになってるじゃねえか!」


 「二十九はオッサンじゃねえよ馬鹿。お前の疲れ切った顔を見ればとても二十九には見えないけどな~」


 「黙れよザック、お前に俺の忙しさが分かってたまるか。あ~あついに結婚しないで三十を迎えるのか~。二十五までに結婚したかったな~」


 酒も多少入ってるナルザスの目には、結婚できなかった悔し涙を浮かべている。


 「残念だったなそれは……。あ! そう言えばお前らに言っとかないけない大事な用があったんだ」


 普段は滅多なことしか言わないグレンが大事な用があると言ってきたので、二人は驚いてそれがなんなのか尋ねた。


 「俺、結婚するんだ。来月町で結婚パレードするからお前らを招待しようと思ってな」


 「おいおいマジかよ! それは楽しみだなっ、祝い金持って絶対駆けつけるわ! ナルザスも一緒に行こうぜ」


 「……んでだよ、何でお前が俺より先に結婚してんだよ! お前昔は結婚なんて興味ないって言ってだろ!?」


 ナルザスは思わず声を荒げた。子供の頃から兄弟のように過ごしてきた三人にとって、裏切りは最低の行為だ。だから、今までずっと結婚を軽蔑していたグレンが、結婚するなんて戯言を言ってきたのが許せなかった。


 「昔は思ってたけどよ、今になって考えてみたらガキっぽいなぁ~って思って去年から結婚を考え始めたんだ」 

 

 「思い立つなよ! ザックを見ろ、アイツは女遊びもほとんどしないし、仕事も真面目にやってんだぞ」


 「そんなに言うならお前も結婚したらいいじゃん」


 その言葉を聞いて、ナルザスの頭の中でプチンッと何かが切れた。そして、次の瞬間にナルザスがグレンの頬を殴り、グレンがやり返したことで大喧嘩が始まった。


 魔法は使わなかったにせよ、隊長同士の殴り合いは酒屋はもちろんのこと、周辺の家々を破壊する大惨事を引き起こした。王のゼインフォースがブチ切れたのは言うまでもなく、二人は一か月の謹慎を言い渡された。


 一緒に寝て、食べて、戦って、笑って……人生の大半を一緒に過ごしてきた二人の絆は本物の兄弟より強かった。しかし、この一件以来、二人は会う度に口論と喧嘩をするようになって現在へと至るのである。

 


 「昔の話をされたって俺は一つも悪くねえじゃん」


 「お前が約束を守らなかったのがいけないんだろ! 勝手に結婚なんてしやがって」


 「俺が悪いみたいに言うなよ。そこの二人は今の話を聞いてどっちが悪いと思う?」


 「え、ええっと……」


 最悪のバトンがアレスとメリナに投げかけられ、二人はあやふやな返答をして質問を濁そうとしたけど、ナルザスたちは答えてもらうまで執拗に問いかける。


 「若い奴らに変な質問するなよお前ら……こっちはカタがついたから急いで宿舎に移動するぞ。今後の作戦について会議だ」 


 「待てよザック、俺たちはまだ話の途中だ! この裏切り者に俺の痛みを分からせてやるんだ」


 「黙れ、今はロイドの対処が最優先。お前みたいなオッサンの恋バナなんて誰も興味ねえよ」


 「う……わかったよ……」


 ザクレイの一喝でおとなしくなったナルザスとその場にいた三人は、ロード達と再び顔を見合わせて自己紹介をしてから宿舎へと向かった。

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