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カオスの遺子   作者: 浜口耕平
第一部 エルマの町編 カオスの遺子
34/43

合同任務③ 不思議なダンジョン

 「う~ッ! う~ッ!」


 「もう離れて大丈夫よロード、外は明るいから」


 見上げると、そこにはメリナの顔があった。どうやた暗くなった時にしがみついた場所はメリナのお腹だったらしい。


 辺りを見渡すと、兄さんとニトの姿は確認できるけど、他のみんなの姿は見えない。それどころか僕たちは今、見知らぬ森の中にいた。


 魔法罠(トラップ)で全員がバラバラに転送されたのはこの際大きなことではなかった。


 不思議なことにこの森は見上げると太陽が見え、動物の声があちらこちらから聞こえてくる。何度景色を見返しても、ここがダンジョン内だとは思えなかったし、確認する手立てがなかった。


 「兄さん! 一体どうなってるの? 僕たちはダンジョンの中にいるの?」


 「知るかよそんなの……クソ! 俺の空間魔法も通じねえな」


 兄さんがいろいろ試してみてわかったことが二つ。


 一つは、空間魔法といった違う場所にワープできる魔法は使えないこと。もう一つは、魔法の制限があるということは、僕たちが今いる場所はダンジョンの中だということ。


 たった二つだけれど、僕たちがダンジョン内にいることは先に進めるということである。幸い、この森はさっきの廊下よりかなり自由に動けそうなので、僕の不満も出てこないだろう。


 ここから右の方向から穏やかに流れる川の音が聞こえてくる。ダンジョンに水辺があるなんて、ダンジョンはいくつ僕を驚かせるつもりなんだろう。


 しかし、驚いている暇はない。まずは長く歩いていたせいで持ってきた水もほとんど底につきそうだった。


 「みんな、向こうで水が流れているよ! 喉が渇いたからみんなでいかない?」


 「持ってきた水はもうないからな……二人はどうだ?」


 「別にいいんじゃない? ニトもいいわよね?」


 「ええ」


 そう言うことで僕たちは音を頼りに川へと向かった。


 生い茂った木々を一歩一歩練り歩くにつれ、水の流れる音が鮮明になって川が近いことを教えてくれる。


 喉が渇いてしょうがない僕は一人駆け出して川を追った。草木が体に擦れて血が出てくるけれど、僕は鮭が川を上るようズタボロになりながら走った。しばらくして走って木々を抜けた先には、川の底がハッキリと見えるほど透き通った穏やかな川が顔を見せた。


 「ふぁー! か、川だ!」


 僕は急いで川に口をつけてがぶがぶ水を飲み始めた。川の水は煮沸しないと、お腹が痛くなる可能性があることは兄さんから聞いている。だけど、川の水があまりに澄んでいるのと喉の渇きに、僕の体は抗えなかった。


 「プハーッ! 生き返ったぁー!!」


 十分以上に水分補給したせいで、立ち上がった際にお腹がチャポンチャポンと音を立てる。ちょうどそのタイミングで兄さんたちがやって来た。


 兄さんは僕が川の水をそのまま飲んだことを責めたけど、「僕は兵士なんだから自分の行動ぐらい、自分で責任とるよ~」と言って跳ねのけた。


 兄さんたちが川の水を煮沸して水筒に補充している間、僕は靴と靴下を脱いで水遊びをして時間を潰していると、ニトやメリナも僕と一緒に遊び始めた。


 水遊びと言っても川岸に腰かけて両足をつけて水を掛け合うのみで、派手さや驚きは全くないけれど、汗でビショビショになっている体に水をかけるのはとても気持ちい。


 気がつくと三人とも全身びしょ濡れになっていた。


 メリナとニトは服が体にピタリと張り付いて中の下着が見えそうになっているので、僕はすかさず顔を手で覆った。


 「あら~可愛い顔を隠してどうしたの?」


 「だ、だって下着が……」


 服が透けて白い下着が露になっているのに、ニトは恥ずかしげもなく僕に近づいてくる。


 「それ以上近づかないで!!」


 僕はこれ以上近づけさせないように両手を前にかざしてジリジリと後ろに下がった。だけど、ニトは僕の反応を面白がってゆっくりと距離を詰めてきた。


 僕はそのうちに川岸へと追い込まれて逃げ場がなくなった。


 「こないでよー!!」


 「何で? 私悪いことなんて何もしてないじゃない。ロードは兵士のくせに恥ずかしがり屋のね」

 

 ダメだこれは……ニトは何を言っても止まらない。横目でメリナを見ても幻影を追う亡者(リアルミスト)の霧で体を隠しながら、風魔法で濡れた服を乾かしている。兄さんは離れた所で煮沸しているので助けを乞うこともできない。


 逃げ場を失った僕は思考が錯乱して、泳げもしないのに川に飛び込んだ。


 思った以上に水深が深く足が底につかない僕は、息ができるように水面に顔を浮かべようともがいていた。

 

 すかさずニトが飛び込んで僕を救い上げたおかげで事無きを得たけれど、川から上がったタイミングで煮沸を終えた兄さんが帰ってきた。


 僕たちの体がびしょ濡れなのを見て、兄さんは雷のように怒った。それはそれは凄まじい怒りで、僕はおろか、ニトやメリナでさえも泣いて謝った。


 怒りが収まると、兄さんは火を焚いてくれた。僕とニトは服を乾かすために火を囲んだ。


 「驚かせちゃってごめんね」


 「いいのいいの、見慣れない光景に慌てただけだから。それと、さっきは助けてくれてありがとう」


 「こんな可愛らしい子供を見捨てるわけにはいかないでしょ。まだ十歳にもなってなさそうなのに死んだら親が悲しむわ」


 「僕は十一歳だよ。それに、両親は僕が赤ちゃんの時に捨てたから親はいないよ、見たこともないし……」


 余計な事を喋って悲しい過去を思い出させたことに、ニトの顔から血の気が引いたのが見て取れた。


 もう過去のことだから僕は全然気にしていないのだけど、ニトは僕を憐れんで目に涙を浮かべて抱擁した。


 「ちょ、ちょっとやめてよ。別に僕は親がいなくても兄さんたちがいるから寂しくないよ」


 「そのままジッとしていて……」


 ニトはそう言って、抱きしめる力をさらに強くする。


 そこまで悲しい話じゃないのに、どうしてニトは涙を流しているのだろう? 気になって彼女に聞いてみた。


 「私たち混血は生まれる際に必ず母親が死んでしまうのよ。父親も兵士か魔物かわからないから孤児院に預けられて育てられるの。混血が全員兵士になるのも無意識に親を求めているかもしれないわ」


 生んでくれた母が既に死んでいることを聞かされた時の心情は察しが付く。僕も兄さんが本当の親ではないと知った時は三日三晩泣いたものだ。


 その片親が兵士として戦っているのなら、自然と自身も兵士に身を委ねるのも当然だ。犯罪者であれ、権力者であれ、神の子であれ、親を慕うのは生まれついての感情だと思う。


 なので、僕はニトの頭を優しく撫でて慰めた。


 しばらくして服が渇くと、僕たちはこの場所から抜け出そうと川岸に、流れてくる方へと歩き出した。


 「何で川の流れに沿って歩くの?」


 「水は起伏がないと流れない。だから、川を辿っていけば湧水や山にたどり着けるはずだ。そこから何かしらヒントが得られるだろう」


 「魔物が出てこないけどどうしたんだろう? 物語では必須の登場キャラなのに」


 「俺の空間魔法が通じないんだ、特異点ですらここに繋げることは無理だろう。まあ、迷い込んだ奴がいれば別だが……」


 それもそうか。なにせこのダンジョンは兄さんの魔法が通じない空間なのだから、特異点のような別の世界とを結びつける魔法が通用するわけない。


 それはつまり、ダンジョン内では魔物の襲来に怯えなくていいということだ。変に構えていた僕たちは一気に緊張の輪が解けたのを感じると、体全体で歓喜の声をあげた。


 「魔物が出ないかもしれないからって、あんまり調子乗るんじゃないぞ。魔法罠(トラップ)は未だに健在だからな」


 「もうリードったら、そんなこと言ってないでアナタもこの歓喜の輪に入りなさいよ」


 「そうだそうだ! メリナの言う通り、兄さんも一緒に楽しもうよー」


 「あほ、一人はしっかりしてないとダメだ」


 兄さんはいつもノリが悪い。こうやってみんなが楽しそうにしている時、そそくさとどこかへ行ってしまう。


 しょうがなく僕たち三人で手を取り合って円を描きながら兄さんの後ろについて行った。


 「我らは人々の矛、人々の盾、栄光なる人々の守りびと~♪」


 「今日も人々の前に立ち、我らは悪しき軍勢と対峙する♪」


 「悪しき魔物は我らの魔法で砕け、人々は喝采をあげ、その名を呼ぶだろう♪」


 「「「おお偉大なるマルスよ! 氷の戦王よ! 貴方の元で我らは兵士となるのだ!」」」


 エレイス王国に伝わる古い歌を歌っていると、兄さんが大きな洞窟を見つけたので歌うのをやめてその洞窟の中を見た。中は陽の光が当たっていなため真っ暗だけど、かなり奥の方から蝙蝠の鳴き声が聞こえてくるので、長い洞窟であることが分かる。


 「松明も用意したし中に入るとするか」


松明を掲げて洞窟の中に入ろうとする兄さんを必死に引き留めた。


 「何してんだお前ら、放せよ!」


 「リードこそ本気なの? こんな薄汚い洞窟の中を進むなんて狂ってるわ!」


 「この奥しか先に行けないんだから進むしかないだろ」


 兄さんは目的にためなら、あまりの匂いに目が痛くなり、蝙蝠が夥しく蠢き、その糞で山ができそうな汚い洞窟の中を躊躇なく入ろうとする。


 三人の中でも女性であるメリナとニトの反対は凄まじく、「この中に入るくらいなら、ここで死んだ方がマシ!」と言う有様だ。


 誉ある屈強な精神と肉体を持つ兵士でさえも、この洞窟に松明一本で突入しようとは考えもしないだろう。その愚かとも言える行為を兄さんは僕たちに強要している。


 壮絶な反対の声に堪えた兄さんは、代替案として終焉(ザハト)で洞窟を破壊することを訴えた。


 「ただ破壊した時、魔法罠(トラップ)が発動するかもしれないが」


 またさっきのような魔法罠(トラップ)は懲り懲りだ。しかし、背に腹は代えられない。


 僕たちは兄さんの提案を受け入れると、洞窟から後ろの木々に素早く移動して数十メートル距離を取った。


 準備が整わり、「いいよー!」と合図を送ると、兄さんは槍を構えた。

 

 「終焉(ザハト)


 黒い閃光が洞窟へと吸い込まれていった。次の瞬間、洞窟の奥から眩い閃光と轟音が一気に爆発して周囲に飛散して、このエリア全体に激しい地鳴りを引き起こした。

 

 メリナの風斬撃(クラリス)でこっちに飛んでくる残骸を退けてから、煙立ち込める荒野を進んで兄さんと合流した。


 煙が収まると、跡には底が見えないほどぽっかりと空いた穴ができていた。


 その穴の深さがどれくらいか確かめるために松明を投げ捨てると、五秒ほど経って底についた。


 「百メートルぐらいか? まあこの程度だったら足場もあるし降りていけるだろ」


 「「ええ」」


 二人は兄さんと一緒に穴の淵に立ち、まずはニトが近くの足場に飛び乗った。それからメリナと兄さんも続き、次は僕の番となった。


 でも、僕は穴を見下ろしながら固まって飛び降りる勇気が出てこなかった。


 「おい、早く降りて来いよー!」


 「私たちが受け止めるから飛んでみなさいな」


 メリナが両手を広げて受け止める姿勢になり、他の二人も降りてくるよう何度も促す。高所恐怖症ではないけれど、僕は暗闇恐怖症だ。ほぼ真っ暗な穴に飛び込むのはとてつもない勇気がいる。


 数分迷って飛び込む覚悟を決めた僕は、助走をつけて飛び込んだ。そして、兄さんが僕をキャッチして、メリナたちが僕の勇気を讃えて頭を撫でた。


 だけど、安心してはいられない。全員飛び降りた後には次の足場が待っている。


 一度勇気を見せた僕に、“もう一回”という考えは頭にない。だから、僕は兄さんにおんぶしてもらうことにした。


 「ったく、兵士のくせに臆病な奴だ」


 「臆病と天才は一緒だよ兄さん。僕は死なないためにこうしてるんだ」


 「リードが嫌って言うなら私が代わりにおんぶしようか?」


 「ニトは兄さんより小さいから別にいいかな」


 「ロードだって十分小さいじゃない」


 「なッ、言ったなこのこのーッ!!」


 体格いじりは親しい間柄でも決して許せないことなため、僕は背中からニトの体を叩いた。

 

 自分の体の上で喧嘩している僕を、「喧嘩するならおろすぞ」と兄さんは脅してきた。仕方なく、僕はニトを叩くのをやめた。


 それから足場を転々と下りて行き、やがて見えなかった地面の底が見えてきた。


 そこにたどり着くと、僕は背中から下りて地面に落とした松明を持って辺りを照らした。


 「うわぁ……」


 思わず感嘆の声が漏れた。照らし出された壁には人や動物が精巧に描かれていて、この先が宝物の在処だと期待に胸が躍った。


 「みんな! みんな! ついに宝物を見つけたよ!!」


 「落ち着けロード、まだ確定したわけじゃなだろ?」


 「でもでも! こんな豪華な壁画を見たらそうとしか思えないよ!」


 「下りてきてよかったわね~。最初の発見は譲ってあげるから走っていきなよ」


 「喧嘩の仲直りの印として私も譲るわ」


 「見たいならさっさと行ってこい。さもないと俺が先に見ちまうぞ」


 三人は宝物の第一発見者となる権利を僕に譲ってくれた。第一発見者となれば国の記録に名前が載って、歴史に名を残せるというのにみんなは笑顔で快く譲ってくれた。


 「うん! ありがとうメリナ! ありがとうニト! ありがとう兄さん!」


 そうしてみんなの思いを背負い、長く続いている回廊を走り抜けて大きな扉の前にたどり着いた。

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