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カオスの遺子   作者: 浜口耕平
第一部 エルマの町編 カオスの遺子
31/43

各地方の隊長たち

 カオスの第十遺子ロイドの出現により、魔法軍の総隊長であるゼインフォースは各地方の隊長たちを一堂に会させることはしなかった。その代わりにダンタリオン地方、ダンタリオン地方に隣接するアンタレス地方とアンドロメダ地方の三隊長を王都リベリオンへと呼び寄せた。


 レジスト王宮にある会議室で、アンタレス地方の隊長グレンとアンドロメダ地方の隊長ナルザスが最初に到着した。


 王都に召喚された隊長の一人である赤黒い髪と琥珀色の目を持つグレンには右腕が無い。代わりに魔道具を義手として使っている。この魔道具だが、グレンの爆撃魔法のおかげで戦闘の度に壊れて修理しなければならなくなる。


 王都に召喚されたもう一人の隊長であるナルザスは、黒髪と棘のついたツルが全身を覆っている。ちなみに、このツルはナルザスの意思で自由に動かすことができるが、どこから生えてきているのか本人にもわからない。


 「よお、久しぶりだなグレン。半年ぶりか元気にしてたか~?」


 「半年なんて久しぶりでもなんでもないだろ。相変わらずつまらん人生送ってるのか?」


 「いきなり何だ、喧嘩売ってるのか? 子供の頃みたいに殴り合ったっていいんだぞ」


 「子供と言えば、最近新しい子供ができたんだよ。もうお前も三十六になるけど、仕事が終われば一人虚しくシゴいてるのか?」


 グレンの“子供”という言葉がナルザスの胸の奥深くに突き刺さった。なぜなら、ナルザスには現在、妻も、彼女も、親しい間柄の女性がいないからだ。

 

 隊長としての激務をこなして家に帰っても、ナルザスに待ち受けるのは誰もいない虚しい我が家である。


 それに比べてグレンには美人な妻と三人の子供がいて、会う度に何かと家族の話をしだすので、ナルザスは肩身が狭い思いをしていた。


 「あ、あっそ……それはよかったな……」


 ナルザスはあからさまに気分が落ち込んで下を向いてしまった。


 嫌な空気が会議場に蔓延していたその時、最後に呼ばれた隊長であるダンタリオン地方のザクレイが扉を開けて中に入ってきた。


 「よおっ、お前ら元気にしてたかーッ!?」


 「「ザック!!」」


 三人は子供の時から旧知の仲である。共に孤児院で過ごし、共に戦い、共に隊長となった数少ない事例の一つだ。


 この中でザックはリーダー的存在であり、毎回衝突する二人の間に入って仲裁したり、独身仲間のナルザスの側について結婚がどれだけ害悪かを論じたりすることもあった。


 「これで二対一だぜグレン! なあザック、いかに結婚が人を不幸にさせるか教えてやれ!」


 「あー悪いなナルザス、実は俺結婚したんだ」


 「ふぇ?」


 独身仲間が増えて喜んでいたナルザスに、ザクレイは後ろ指を刺した。


 「クハハハハハ!! 確かに二対一だ! お前が一の方だったがな!」


 「そんな……あの魔物を殺すことでしか楽しみを見いだせないザックが……。いや、これは何かの間違いだ! そんなこと嘘に決まってる! 第一、本当なら何で親友であり兄弟の俺を結婚式に誘わなかったんだよ!?」


 「そりゃあ結婚なんて嘘だからに決まってるだろ。それに、結婚しなくても幸せならそれでいいじゃないか。なんで結婚している奴の悪口ばっかり言うんだお前は」


 ザクレイに振り回されたナルザスはさっきまでの怒りをどこにぶつけたらいいのか分からず、両手を見比べて怒りが抑まるまでジッと耐えた。


 「ふぅーそう言うことかよ。騙されたぜ」


 「すまんな、何やら楽しそうだったから乗ってやらないとキレが悪くなるだろ?」


 「全くお前って奴は……。いい加減ナルザスにちょっかい掛けるのはやめろよ」


 「面白れぇからいいだろ別に? それに結婚話で喧嘩なんて子供が見たら泣くぞ、子供がいればの話だが」


 「てめえもかザック!? お前も俺を馬鹿にする気か?」


 ナルザスの怒りが爆発しそうになってザクレイに飛びかかろうとした時、バンっと扉が大きな音を立てて開くと、ゼインフォースとアシュリーが会議室に入ってきた。


 「何してんだガキども。早く席に着け、今日は大事な話があってお前たちを呼んだのだから」


 「ちょ、ちょっと一つだけ、フォースはまだ結婚していないけど、結婚についてどう思ってるんだ?」


 「別に結婚はしたい奴がすればいいと思うぞ。ただ結婚の“け”の文字も出てこない独りよがりのエゴ野郎が高らかに結婚は悪だと言ってるのは滑稽だと思うがな。そんな奴は一人で勝手に死んでいけばいいさ、誰にも気づかれずにな」


 三人の結婚論争はゼインフォースによって決着がついた。勝者となったグレンはにこやかに笑いながら、しょんぼりしているナルザスを見ていた。


 ともかく、全員が席に着いたので、本格的な会議が始まった。


 「もう聞いていると思うが、ダンタリオン地方のエルマの町周辺でカオスの第十遺子ロイドが現れた。そして、ロイドは一人の少年に向かって『また会いに来る』と言ったそうだ。だから、お前たちを集めたのだ」


 「でも、俺たちを集めたら守りが薄くなってロイドの襲来に対応できなくないですか?」


 「確かにグレンの言う通りだが、お前たちそれぞれに使者を送るのは時間の無駄だ。それにここでしっかりと決めておかないと勝手なことするだろ?」


 三人はゼインフォースから顔をそらした。ザクレイが軍律に違反するロード達を見送った件より前から、この三人はよく軍律を犯しては罰金を受けていた。


 「ったく、お前たちはいつまで経ってもクソガキだな。だが、今回ばかりは俺の言うことを聞けよ」


 「はいはい」とやる気の声で答えたので、会議の記録を取っていたアシュリーがザクレイたちに対して激怒した。


 「貴様ら王に向かって何だそのやる気のない返事は!? お前たちは今、我が国が危機にあるということを自覚しているのか? もしくは、それさえ認識できない無能なのか?」


 アシュリーはザクレイたちより年下ではあるが、ゼインフォースによって見出された逸材である。大事な会議の場で、年下にここまで叱責されたことを恥じた三人は打って変わったように、真面目に会議を受けることを宣言した。


 そこからはスムーズとはいかないまでも、順調に議題が進んでいった。


 ダンタリオンへ派遣する隊長の最低人数、ロードを誰の監視下においておくか、ロイドと遭遇した時戦うか、逃げるかの選択などなど……次々に全員の承諾を受けて進んでいった。


 しかし、一つだけゼインフォースの参戦の是非を巡っては大きな対立が生じた。国の危機であるのに、王は参戦しないと明言したからだ。


 「どうしても参戦しないと言うのか!? フォースなしでどうやってロイドに勝つんだ!?」


 「すまない……王である俺はここを離れるわけにはいかない。一応議会に掛け合ってみるが、俺の出陣は議会は承認しないだろう」


 「フォースは王じゃないか、軍の統帥権を持っているんだから議会の承認なんて待つ必要ないだろ?」


 「いいえ、軍の統帥権は議会の承認がないと王に与えられないのですよ。ましてや中央の番人たる王自ら出陣するためには議会の全会一致が必要なのです」


 「それなら俺たち三人でロイドの襲来を何とかしろって言うのか?」


 ザクレイは法律上無理であると説明されても簡単には納得できなかった。他の二人も同じで、三人は無言で席を立って会議室から出ていった。

 

 去り際に、「頼むぞ!」と声を掛けられたが、三人は何も答えなかった。


 どれだけ不満があっても命令違反は厳罰に処せられるため、三人は命令に従わずにはいられない。


 「あ~ムカつくなー!! 中央貴族は薄情者だっ、うちの領主様はしょうがなく俺を送り出したって言うのによー!」


 「中央の奴らはフォースがいないとカオスの遺子の襲来に耐えられないからな。王都に留めておきたい気持ちもわからんでもないが……」


 「フフ、いくら文句を吐いてもダンタリオンの人々のために戦ってくれるお前たちには感謝してるぜ」


 「おいおいザックぅ~俺たちは兄弟なんだから助け合いは当然だろ? 今更そんなこと言うなよ」


 三人が文句を言いながら宮中を歩いていると、前から杖をついた混血の老人が歩いてきた。


 「おっ、シリウスのとこのジジイじゃん。こんな所で何やってんだ?」


 歩いてきたのはエレイス王国の最北端地方シリウスの隊長であるディスティニアヌスであった。


 御年六十八、毛のほとんどが白く変わり果てているが、三十年前の第七遺子ベルナドール襲来で唯一生き残った隊長である。実力は衰えたとはいえ、遺子から生き延びた力は健在であり、建国以来最高齢の隊長となっている。


 しかし、襲来の影響でディスティニアヌスの右目は酷く充血していて、時折血が流れてくるのをハンカチで抑えなければならなくなった。


 「相変わらずのクソガキぶりじゃなナルザス、お前たちこそどうしてここにいるんじゃ?」


 「俺たちは王に呼ばれてここに来たのですよ」


 「ほぅ~ロイドの件じゃな?」


 「その通りです。今から俺たち三人はダンタリオンに出立します」


 「そうかそうか気をつけてな。たとえ、最下位の遺子とて油断するんじゃないぞ、相手は神の子だ」


 「そんなこと百も承知だよジジイ、他に何かアドバイスできることないのかよ。そう、例えば三十年前の話とかさ~」


 口の利き方が悪いナルザスを、他の二人がわき腹を突いて黙らせてから、ザクレイが丁寧な言葉でその時の話を話してもらえないかとお願いした。


 ディスティニアヌスはそれを快く受け入れて、ゆっくりと昨日の出来事のように話し始めた。


 「あれは凍える日のことじゃった。領主の屋敷にいたワシに基地から『鉱山労働者数百人が忽然と姿を消した』との報告を受けてな。ただ事じゃないと思ったワシは部下を連れてその鉱山に足を運んだんじゃ。


  着いて調べると、ある異変に気づいた。荒らされた形跡もなく、住んでいた人だけが消えていたんじゃ。部下に基地へ報告して王に伝えるよう命令して帰らせた後、ワシ一人で現場周辺を調べていると、鉱山の頂上に人が立っていることに気づいたワシは、『おーい! ここで人が消えたことについて何か知っているか!?』とその男に尋ねた。


  じゃが、奴は人ではなかった。その正体を知った時には既に手遅れじゃった。気がつくと、ワシはベッドの上で傷だらけの状態になっていた。


  何がどうなったのか分からずに動揺していると、傍で寄り添っていた今の王が事の詳細を教えてくれたのじゃ。後はお前たちも知っているように、九人の隊長と先王が戦死、それ以外にも民間人を合わせたら数万人が死んだ大事件じゃった                    」


 改めて事件の大きさを知った三人は、被害を最小限に抑えるためにどうしてでもゼインフォースに参戦して欲しいと思うようになった。


 三人はディスティニアヌスに感謝して、ゼインフォースの元にもう一度向かおうと振り返った。

 

 「待つのじゃ三人とも! 今回は王の力を借りてはならん! 王に頼り過ぎれば人間は永遠に遺子たちに勝つことはできなくなる!」


 「だけど、さっきに話を聞いてみればフォースの力を借りることが最善だと思うのだが?」


 「ザクレイよ、なにも王だけがカオスの遺子を撃退できるわけじゃないじゃろうて。おぬしの所の兵士には何やら面白い魔法を少年がいるそうじゃないか」


 「それってロードのことか? だが、奴はまだ弱すぎる」


 「じゃが、一番弱いとされるロイドで試しておかないと、これからの戦いはもっと厳しいものになると思うぞ。いいからワシの言うことを聞け、運命は必ず味方してくれる」


 ディスティニアヌスが三人を説得した途端、彼の充血した右目から出血が起こって、地面にポタポタと血が滴り落ちた。


 三人が心配して駆け寄るが、「大丈夫じゃ、それより早く出立しろ。間に合わなかったら意味がないじゃろ」と一蹴して出発を急がせた。


 了解した三人はハンカチで目を抑えているディスティニアヌスの元から走り去った。


 「ああ偉大なる運命よ……彼の者が生き残るようお願いします」


 ザクレイたちを見送りながら、ディスティニアヌスは彼の者の無事をひたすら祈っていた。

 

 

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