メリナの誕生日2
テオさんを呼びに行った後、僕たちはマイヤーの大きな部屋でボードゲームをして遊んでいた。
このボードゲームは“ナード”の名で呼ばれ、四人はもちろん、一人でも楽しく遊べるので、小さい頃はよくこれで遊んでいた。
久しく遊んでいなかったせいで、マイヤーの部屋でこれを見つけた時に真っ先に飛びついてしまった。
僕は楽しく遊んでいたのだけど、シールをはじめ、ダンやマイヤーもこの遊びがあまり楽くないようだ。そして、しまいにはゲームの途中なのにシールがボードをひっくり返してしまった。
「こんなボッチの遊びより外で遊ぼうぜ、外で! このままやってたら根暗になっちまう」
「全くだ。四人もいるんだから外で遊んだほうが何千倍も楽しい!」
マイヤーもシールに同調して、僕の同意を得ずにボードを片付けようとしたので、驚いた僕はマイヤーからボードを取り上げた。
「何で片付けるの? 面白いじゃん!」
「ロード一人はそうかもしれないけど、俺もシールとマイヤーと同じで、こんなので遊びたくない」
三対一になってしまった。みんなの顔を見ると、呆れた顔で僕を黙って見つめていた。
多数決の法則、困ったら多数の者たちの意見を聞く、誰もが知っているこの世の法則だ。本心ではナードで遊びたいけれど、友達として上手く付き合っていくには友達の言うことを聞くことが大切だ。
だから、歯を軋らせて、体を震わせて、目元が緩んでも僕はボードをマイヤーに返した。
「外で何するよ? ボール遊びでもするか?」
「シールはいっつもボール遊びしかやろうとしないよな。違う遊びも少しは考えろよ」
「しょうがねえじゃん。この前公園に作った秘密基地だって、『ここは公共の土地だから、勝手に物を建てたりしたらダメだ』とか意味不明なこと言われて撤去されちまったしよ」
「僕もボールは遊びはもう嫌だな。それにアレスがボール遊びは女の遊びで、棒遊びは男の遊びって言ってたよ。よく意味は分からなかったけど……」
シールもダンも、アレスが言う男女の遊びの違いについて検討もつかない様子だったけど、マイヤーは涼んだ顔で微笑した。
「マイヤー、お前わかるなら教えてくれよ」
「フフ、いいやわからないよ。ただ、とっておきの遊びが思いついたから笑っただけだ」
みんながマイヤーに注目し、どんな遊びを提案してくれるのか楽しみに待った。
マイヤーは僕たちが静聴する状態になるのを待ってから、その遊びについて語り始めた。
「さっきアレスが女の人とデートしに行っただろ? それを後からついて回るのはどうだ?」
「アレスかぁ~、確かにそれは面白そうだな。なんたってアレスは兵士の恥だしな!」
「兵士の恥ってどういうことなの?」
「ハハハハっ、お前一緒に暮らしてるくせになんも知らないんだな。アイツは町の人たちから借金して遊びまくってるんだよ。だから、市民のほとんどが退魔兵士を尊敬してるのに、アレスだけは町の恥、兵士の恥って認識になってるんだ」
「そうそう、父さんが何でアレスに金を貸し続けるのは、退魔兵士への尊敬があるからだと思う」
「お前の親父は金融屋だから金貸して当り前だろ? そうじゃないと儲けられないしな」
「シール、お前は返せそうにない相手に貸すほど俺の父さんが馬鹿だと思ってるのか?」
「アレスは兵士なんだから、その気になりゃ給料全部持ってっても生活できるだろ。俺はお前の親父を尊敬してるんだ、金儲け一点に関してはな」
シールとマイヤーの熱い口論がここから少し続くのだけど、ここでいう必要はないと思う。ただ、アレスのことに関しては、正直ガッカリを超えて関心さえ持ちたくなかった。
町内兵士と違って退魔兵士が町の市民から尊敬されているのは、町を歩いていてよく分かる。お菓子をくれたり、値段を少なくしてくれて、宿舎まで物資を無料で提供してくれることも珍しくはない。
僕たちはそれに感謝していたし、誇りに思っていた。だけど、今の話を聞いてしまうと、市民たちからの好意を受け取っていた事がとても恥ずかしいことだと思う。
そして、あの善良な市民たちは、僕たちにアレスの非行をできるだけ伝えないように振る舞っていたことに気がついた。
これは後でちゃんとみんなで話をしないといけないと心に決めて、僕たちはアレスたちの観察ごっこをしに外に出た。
プレゼントならばと言うことで、中区を重点的に探していると、装飾店へ入っていく二人の姿が見えた。
物陰に隠れながらゆっくりと二人が入った装飾店の窓下に入り、頭だけ顔を突き出して店内の二人の様子を観察した。
「アレスめ、みんなから借金しておいてこんな高そうな店で買おうとするなんて酷いよ」
「少し落ち着けロード、バレたらこの遊びが台無しになる」
「でも……」とシールに反論しようとした時、二人が外に出ようと僕たちの方に向かってきたので、急いで店から離れた木陰に避難した。
アレスとメリナは何やら言い合っているようで僕たちの存在に気づいてないのか、息を潜めてジッとしている僕たちの前を通り過ぎていった。
店を後にした二人はプレゼントの意見の相違があって、誰の目にも憚らず口喧嘩をしていた。
「私の好きな物を買ってもいいっていったのに、商品を取る度文句を言ってくるのよ!!」
「せっかくのプレゼントなんだから、一軒見ただけで即決なんて味気ないと思わないのか? 俺ならもっと店を周ってから決めるな」
「私は別にそんな多く店を周りたいわけじゃないもの。私はあのイヤリングが欲しいの! 他の物なんて興味ないわ!」
チっ、俺はお前が欲しい物なんて別に興味ねぇんだよ。俺はただメリナにプレゼント選びに一日中迷っていて欲しいだけだ。
アレスはずっとこの日を待ちわびていた。メリナが十八歳になり、性行為交渉が認められるこの時を。
この日のためにいろいろと準備をしていた。例えば、高い宿の予約や自分自身をよく見せるために高い服や靴を買い揃えたりなど、できる限りの努力をした。
だから、ここでメリナをとどまらせて置かないと、これまでの努力と金が無駄になってしまう。
アレスは懇願してメリナに他の店へと連れ出すことに成功した。
装飾店、宝石屋、骨董品店、家具屋、食料品店まで、メリナが行きたくない場所でもアレスが強引に連れ出して見て回った。
そうしている間に時刻はすっかり夜になってしまった。
シールたち町の子供は太陽が沈んだら家に帰らないといけない条例があるので、観察ごっこを惜しみそうにしながらも自分たちの家へと帰っていった。
残った僕だけで観察ごっこを続けていると、二人は夕食を取りに店に入っていった。僕も続いて窓の外から二人を覗き込んだ
朝ごはんしか食べていないせいか、二人のテーブルに運ばれてくる料理を見てグ~っとお腹が大きくなった。
「いいなあ~僕も食べたいな~」
指をくわえて二人が食事している風景を眺めていると、店主が店から出てきて一切れのパンを恵んでくれた。
店主は僕のことを知っているので、中に入って食べていかないかと提案されたけど、今はアレスたちを観察している途中だからと言って断った。あと、二人にはこの事は内密にするよう忠告して。
店主が去り、パンをかじりながら二人を見つめていると、何やらお酒の飲み比べが始まったようで店内が盛り上がって外からは見えなくなってしまった。
「うーっ、これじゃ見えないよ! どうしよう…ここでやめて中に入ろうかな?」
今まで何時間も後をつけてきたのだから、最後までやり遂げたい意思と店内が騒がしく楽しそうになっている雰囲気を見てみたい欲求とがぶつかり合って頭を悩ませた。
どれくらい悩んでいたのだろうか? 気がつくと、二人の飲み比べは終わっていてメリナが酔いつぶれたアレスを抱えて出てきた。
「えっ!? あのアレスが飲み比べで負けるなんて信じられない……」
毎日浴びるように飲んでいたアレスにとって、飲酒なんて水を飲むようなものだと周囲から一目置かれていたのに、まさかメリナの方が酒に強いなんて……。
あの華奢な体にどうやってアレスの飲酒量を超える酒が入るのか不思議でならなかった。
そんな酔いつぶれてしまったアレスだが、ロードがリードに甘える時と同じようにメリナの体に抱きついて甘えていた。
「お前は最高だよメリナ、ずっと一緒にいてくれよ」
「はいはいどこにも行かないからちょっと離れてよ、重たいから」
「やだよ~お前が離れたら俺は死んじまうよ~」
そして、より一層メリナに抱きつくのだった。
「ああ鬱陶しい! この酒乱が離れなさいよ!」
メリナは離れようと精一杯抵抗するが、アレスは凄まじい力で抱きついているので、女性の力ではどうしようもできない。
諦めたメリナは抱きついていてもいいから力を抜いてくれと頼んで、そのまま宿舎に戻ろうとした。
「あっ、ちょっと待ってメリナー!! プレゼントの他に俺からもう一つ贈り物があるんだよ。案内するから連れてってぇ~」
「はあ……わかったわ案内すればいいんでしょ!!」
酔いつぶれたアレスは魔物より質が悪い。
早く宿舎に戻って休みたいと考えていたメリナだったが、贈り物はいくらでも受け取っても損はないと思いアレスの指示に従って目的地へと急いだ。
「おっ、見えてきたぞ。今夜は朝まで楽しもうぜ」
「は? 贈り物って、まさかそれが目的だったの? あいにくだけど、私はまだそういうことに興味がないのよ」
高い金を払って予約した宿を前にメリナが立ち止まって入ることを渋ると、二人は夜の町で口論を始めた。
「一回やってみようぜ、そしたら病みつきになるかもしれないだろ?」
「いいえ結構よ」
「はぁ!? 俺がせっかく高い金を払ったのに? 男と二人きりで夜まで遊んでいて何もせずに帰る人間がどこにいるんだ!?」
「ここにいるわよ。じゃあ私はこれで」
メリナはそう言って宿舎に戻ろうと歩き始めたのを、アレスが腕を掴んで引き留めた。
「待て待て、キングサイズのベッドだぞ」
「そこまでしたいならそこら辺の股の緩い女性でも誘ったらいいじゃない」
「ああそうかい!! これだからモジャモジャのモジョモジョはつまんねぇんだよ! 俺はお前としたかったのに何でお前は乗り気じゃねぇんだよ!!」
アレスは散々メリナに文句を言った後、どこへともなく走っていった。
「ちょっとどこへ行くのよー!?」
「宿舎に帰るんだよ! ついてくんなよ!!」
「私も宿舎に住んでるんだけどー!」
怒りで走っていったアレスにはどんな言葉も伝わらなかった。
僕は夜の町で一人呆然と佇むメリナの元に走っていったら、とても嬉しそうな笑顔で僕を迎え入れてくれた。そして、一緒に手を繋いで宿舎に戻った。
一足先に宿舎に帰ったアレスはドタドタと騒がしい音を立てながら自室のベッドに潜り込んだ。
隣の部屋からウェインが、「おい姫様はどうしたアレス! 金だけ渡されて先に返されたか!?」とからかう発言をしてリード達は爆笑していた。
「うるせえ! 寝させろ!!」
目的は達成することできなかったアレスだったが、日中メリナと一緒にデートできたことは、アレスにとっても、メリナにとっても楽しい思い出として二人の心に永遠に刻み込まれた。




