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カオスの遺子   作者: 浜口耕平
序章 兵士への道
3/43

魔物との戦いとロードの決意

 「……………ん? ………ここはどこだろう? 僕は死んだはずじゃ………」



 目を覚ますとそこは何もない、時間の流れも、この光景がどこまで続いているのかも分からない。ただ真っ白な世界が僕の周囲を覆っていた。


 

 「ここが死後の世界? 今まで死後の世界とか考えたことなんかなかったけれど、もし死後の世界があるのならこんな何もない世界のわけないよね。だって、そんなの死後の世界がないのとおんなじじゃん。何もすることがないんだから」



 死んだくせに不気味なほど落ち着いている。何もやることも、できることもないからかな? 



 「そう、ここは死後の世界ではないわ」


 

 「ひゃッ⁉ だ、誰⁉」



 いきなり女の人の声が聞こえたので、思わず変な声がでてしまった。変な叫び声をあげたことを恥ずかしく思いながら、僕は声の主を見つけようと辺りを見渡した。すると、最初はいなかったはずの場所に立派な椅子とそこにゆったりと腰を掛けている女の人を見つけた。


 

 僕はその人を見て過去に会ったような気がした。



 「ママ?」



 女の人は答えない。でも、その人が僕のママであることは直感的に分かった。



 僕を人気のない森に捨てたママ。しかし不思議なことに、僕はママに対して恨みや怒りの感情が全く湧かなかった。代わりに僕は強烈にママに甘えたくなった。そう、ママというにも程遠い施しを与えた見ず知らずのママに対して………。



 「ママ! ママッ!!」



 僕は目の前にいるママに向かって走った。成長して初めて会う母親を前に僕は自然と涙が溢れてきた。



 近づくにつれ僕の体はだんだん小さくなっていく。足取りがおぼつかなくなり、膝をつくようになったころ、僕の体は赤ちゃんになっていた。



 「あま、あまま、まんま…まんま」



 「フフフ…可愛らしい子。定められし王よ、私の麓に来なさい。あなたに渡すものがある」



 カオスが手をかざして名を呼ぶと、ロードの体が浮き上がってカオスにゆっくりと近づいて膝の上に置かれた。ロードは嬉しさのあまり、歓喜の声をあげて母の顔を両手で触ろうと手を伸ばした。ロードが母の注意を惹こうと甘えている姿を見て、カオスは両目から涙を流した。



 「? 私の感情はもう遥か前に落としたはずなのにどうして涙が………? いや、これは必然だ。最初からこの子のために涙を流すことは決まっていたこと。だから聞きなさいロード、あなたはまだ死んだわけではない。あなたは私の子、定められた子として力と思いを託しましょう」



 カオスはロードの小さい手を取ると、自身の内に宿る力を与えた。そして、ロードを祝福するかのように天上にある鐘の音が世界にとどろき、ロードの体は光に包まれて現世へと戻された。



 「戦いなさいロード。それがとても困難で、絶望に打ちひしがれても。これが最後の戦いとなるように………私の半身が待ってるわ」



 現世へと戻されたロードはまたあの大きな家の中にいた。ロードは魔物に殺されたことも、カオスと会ったことも忘れて、時が止まったように誰もいない廊下の真ん中で呆然と佇んでいた。



 「あれ………? 僕は何をしていたんだっけ?」



 ここが何処だかは何となく分かる。でも、どうして僕がこんな所にいるのか分からなかった。


 

 「確か兄さんに頼まれて何かを持って来いって言われて………。おかしいな、兄さんの頼み事だったらここじゃなく、家にあるはずなんだけど。どうして僕はここにいるんだ?」



 兄さんと別れてからの記憶が全くない。その空白の時間を埋めようとすると頭がおかしくなりそうになる。



 ズンッ!!



 とても大きな音がした。振り返ってみると廊下の奥の角から人間ではない生物の足が見える。それは時間をかけて足、腕、肩、頭と体を覗かせた。



 「うわぁあああっ!!」


 

 それはロードを食い殺した、全身人の肌で覆われた気味の悪い魔物だった。記憶がないロードにとっては初めて見る魔物に、自身の非力さからすぐに逃げ出そうと魔物に背を向けて逃げ出そうとした。


 

 しかしその時、ロードは言いようもない感覚に襲われて衝動的に魔物に向かって走っていった。



 勝てる。何故かは分からないけれど、内側からあの魔物に勝てるという自身が絶え間なく湧き上がって来る。そしていざ魔物の麓までやって来ると、無意識のうちに右手を魔物に向かって伸ばしていた。



 前にも述べたようにロードは魔法も使えない上に、カオスに力を与えられたがその記憶が全くない。つまり、ロードは全く勝機が見いだせない賭けを衝動的に行っているのである。



 無茶苦茶な行動をするロードだが、運命に突き動かされた彼にはその身に宿る力を認識する必要があった。それはカオスの意思が、カオスの力がロードの右腕に顕現した瞬間であった。



 カオスの力を宿した右腕が魔法陣に包まれて光を放つ。



 「ひ、光った⁉」



 突然光りだした右腕に戸惑いながらも、ロードはその腕で魔物の体に触れた。



 「ぎゃあああああああああッ!!!」


 

 魔物は絶叫した。


 

 魔物の体は触れられた部分から体が朽ちていく。そして、10秒ほどで魔物の体は原形をとどめないほどに崩れて砂の山になった。



 「はあ、はあ………。今まで魔法も使えなかった僕がどうしてこんな力を? いいや、今はそんなことどうだっていい!! 倒した! 僕が魔物を倒したんだ!!」



 頭に浮かんできた疑問が全て無意味になるほど、僕は魔法が使えたことと、魔物を倒せたことに歓喜して感情が暴走して廃家内を走り回った。



 そんなことをしていると、騒ぎをかぎつけた兄さんが僕を探しに来て、誰もいない廃家で走り回ってる僕を見つけた。 



 「鐘の音がしたから、『ロードに何かあったのか?』と思って来てみたら、なんでこんな場所で走り回ってるんだ?」



 「あ、兄さん!! ちょっと見てよコレ! 僕が魔物を倒したんだよ!! それも一瞬で!!」



 僕は右腕に宿る魔法を見せてから、続いて砂山になった魔物の死体を指差して見せた。



 「少し落ち着けロード。さっきの鐘の音といい、ロードの魔法といい、種を持って来いと言ったはずがなんでここにいるのか、何が起こってるのか俺でもまだ混乱してるんだ」



 兄さんがこの状況に困惑していても、僕は構わず魔法と魔物を倒した時の武勇を語っていた。


 

 そんな中、僕は兄さんから信じられない言葉を聞いた。



 「その腕で俺の体に触れてみろ」



 「ええッ⁉ そんなことしたらコイツみたいに砂山になっちゃうよ? 僕、兄さんが砂遊びの道具になるなんて嫌だよ」



 「馬鹿なこと言うんじゃない。そもそもお前の魔法はいきなりできるようになったんだろ? だったら、それがどのくらい危険か身をもって知っておかないとな。俺のことは気にしなくていいぞ。危ないと感じたらすぐ離れるから」



 言われてみれば確かに………。この魔法は僕が目指して習得したものじゃなく偶然使えるようになったものだ。この魔法が触れた相手を砂に変えること以外に何か効果があるのか………。よく分かっていないことを考えればどこかで知っておかないと、いざという時に致命的なミスをして兄さんを傷つけてしまうかもしれない。


 しかし、いくら『攻撃していい』って言われても、兄さんに対して自分でもよく分かってない魔法で攻撃するのは気が進まない。下手をしたら兄さんが死んでしまうかもしれないから。



 「あーもう面倒くさい。ちょっと貸してみろ」


 

 僕がグズグズしていると、兄さんは僕の右腕をとって無理やり自分の体に触れさせた。そして、魔法に触れたところから光りだした。あっという間の出来事だったので、僕は無意識のうちに魔法の出力を限界まで高めていたのか数秒で意識が飛びそうになった。



 しかし、フッと気が遠くなったと思った次の瞬間、猛烈な吐き気がこみ上げてきて僕はその場で前にいる兄さんに構わず胃の中が空っぽになるまで吐いた。



 「う、うぅ………おぉえエエ………。はぁ、はあ………なんで? 魔物を倒した時は吐き気なんかまったくしなかったのに………。兄さんの方はどうだった?」



 「体は何ともないが力を削ぎ取られた。おそらくお前の魔法は相手の力を吸い取る力、言いかえると触れた相手の魔力を奪う魔法だ。俺もこんな魔法は初めて見る………、どこでこんな力を身に着けたんだ?」



 「どこでなんか知らないよ。そんなことより力を削ぎ取られたって大丈夫なの?」



 「ああ………問題ない。次は奪った力を返してもらおうか」



 「うん、じゃあ手ぇだして」



 僕はもう一度、兄さんの腕に触れて奪った魔力を返そうと意識しながら魔法を使った。



 (お、光った光った。なぁんだ僕の思いで発動するなら、いちいち兄さんに確認してもらうほど危険な魔法じゃな………うぇええ)



 扱いが簡単だなと思ったのも束の間、僕はまた豪快に吐いてしまった。どうやらこの魔法は相手の力を奪うことしかできないようだ。



 吐しゃ物と魔物の死体を放置して家に戻った僕は嘔吐した後の余韻で気分が悪いので、椅子に座って眠るようにテーブルに上半身を落とした。兄さんは魔物が近くにでたのを嫌って家の周囲の見張りをしに出ていった。夕方までには戻ると言っていたので、腕を枕にして眠った。



 目を開けると外は既に真っ暗になっていて、兄さんがキッチンで食事の用意をしているのか美味しそうな匂いがしてくる。



 もうすぐ出来上がるのだろうとこのまま待っていようとふと右腕が目に映った。そういや魔物と初めて会った時、なぜか勝てると思って向かって行ったんだよね。あの時は魔法が使えるなんて微塵も思ってなかったから、あんな行動をするなんて僕じゃないみたいだった。



 「何考えてんだロード? 今日のことがそんなに気になるのか」



 「そうなんだよ。あの時、僕は魔物を倒す手段なんて持ってなかったのに『どうして僕の体は魔物に向かって行ったのか?』。僕じゃないみたいだった」



 「だったら無意識に体が動いたのか? それで運よく魔法が使えるようになって魔物を倒せましたって出来過ぎた話だな」


 

 「もしかしたらお前の魔法は誰かに与えられた力なのかもな。まあ、魔法そのものを誰かに与えるなんてそう簡単にできるわけではないけどな。特にお前みたいな子供相手には」



 今までに何度も魔法を習得させようと原理を教え実演練習を行ったが、ついにロードがその片鱗を見せることはなかった。そして今、ロードは見たこともない、すぐに魔物を倒せるほどの強力な魔法を手に入れた。だから、どうしても習得させることができなかったリードがその力を手に入れた経緯を自分自身に納得させるには、奇跡的な現象が起こったと考えた。



 「じゃあこの力が誰かの力なら、なんで僕なんかに力を託したんだろう。僕みたいに弱そうな奴じゃなくて、兄さんみたいに強い人に渡せばよかったのに」



 「お前に何かやって欲しいことがあったんじゃないか? 『魔物と戦ってくれ!』みたいにな」



 「んー………」



 (魔物を数秒で灰の山に変えることができる強力な魔法を僕に与えたってことは何か意味があるように思える。兄さんには全く効果がなかったけど………はっ!!)


 

 「わかったよ兄さん、僕がこの力を与えられた理由が! この力は魔物に対しては強力な効果を発揮するけれど、兄さんのように人に対しては逆に僕の方がダメージを受けてしまうから、この力を与えてくれた人は僕に、『兵士になって魔物の脅威から人々を守れ』って言ってるんだっ!! てことで僕は兵士になるために明日町に行ってくる」


 

 「お前なぁ………兵士ってのは毎日魔物と戦ってるような奴らだぞ。とても危険なうえに、戦えと言われたら市民を守るために命を張って戦わないとダメなんだ。お前みたいに毎日ゴロゴロして、遊んでる奴が力を手に入れたからって簡単に選んでいい職業じゃないんだ。そもそも11歳のお前を兵士として雇えるわけないだろ、混血じゃあるまいし………」



 「でも兄さんっていつも僕に一人で生き残れる力をつけろって言ってたじゃん! 力はつけた! 次は力を活かす時間だよ」



 兄さんは昨日の僕の様子とは打って変わって、力を手に入れた自信満々の発現に嬉しいのか、嫌なのか微妙な面持ちで少し考えた後、諦めたかのように話し始めた。



 「ロード、お前には守ってもらう条件がある。一つ目は、俺と一緒に兵士になること。二つ目は、俺の力に頼り過ぎないこと。三つ目は、何があっても戦って目標を追い続けること。この3つを守れるなら目標のために力を貸してやる」



 「兄さんも来てくれるならそんな約束守るのなんか簡単だよ。明日出発しよう! もう夕飯はいいから明日の準備してくる!!」



 「おいちょっと待てッ………!」



 僕は兄さんの呼びかけを無視してそのまま自分の部屋へと戻って、出発のための荷造りを始めた。



 翌日、荷造りのために必要な物を兄さんの空間魔法の中に放り込んでから僕たち2人は外に出た。急な決め事に兄さんはあまり乗り気ではなかったけれど、僕の気が変わらない内に移動した方が手っ取り早いと昨日から考えを改めたようだ。

 

 

 「うわ―い!! 町に行くなんて何年ぶりだろ⁉ 早く出ていって兵士になりたいなぁ~」



 「あんまりはしゃぐなよロード。それより昨日俺と約束したこと覚えてるか?」



 「ひとぉつ、兄さんと一緒に兵士になる! ふたぁつ、自分が行った目標は何が何でも成し遂げること! みぃっつ、兄さんの力には極力頼らない!」


 

 「ああそうだ。つまり、今回の移動手段は俺の魔法ではなく、人力で歩いて行くぞ」



 「えぇっー………ううんわかった! 歩こう兄さん、これが僕の夢への第一歩だ!」


 そうして、僕たちは住んでいた廃村から歩いて町へと向かった。力を与えられたロードが兵士を目指し戦いに身を投じようとしているのは、カオスの意思か、ロード自身の意思か、はたまた別の誰かの意思か、様々な意思と運命の交わりの末、ロードの物語が始まる。


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