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カオスの遺子   作者: 浜口耕平
第一部 エルマの町編 カオスの遺子
29/43

メリナの誕生日1

 ロイドは去り際にまた会いに来ると言い残していったので、軍は大慌てで対ロイド作戦を練る必要が生まれた。

 

 ザクレイは各地の隊長たちを集めた御前会議が開かれるので、馬車で王都へと向かった。一方、ロイドが僕を探しているという理由で町で待機命令が出た僕たちは、宿舎で暇を持て余していた。


 だけど、今日はメリナの十八歳の誕生日だ。これまで僕たちはメリナを喜ばせるために、サプライズで各自プレゼントを準備していた。


 当日の朝、朝食を食べに降りてきたメリナは盛大な拍手と魔法の火花で迎えられた。


 「朝から騒がしいわね。一体何のつもり?」


 「何言ってるのっ、今日はメリナ自身の誕生日じゃん! まさか忘れていたの? 本人なのに?」


 呆然と見ていたメリナだったけど、僕の言葉にピンっときたらしく、「ちょっと待ってて主役に相応しい服に変えてくるから!!」と言ってまた上に上がっていった。


 数十分後、着替えを終えたメリナが二階から下りてきた。メリナはいつもの薄汚れたズボンではなく、母の形見である豪華なドレスを身に纏っていた。


 「どう?」


 「少し大きいけど似合ってるよメリナ! それより早く食べようよ! 僕ずっと我慢していたんだからさ~」

 

 メリナを待っている間にお腹が空いた僕が料理に手を出そうとすると、兄さんが怒って止めたので、僕のお腹は空っぽで早く食べたくてうずうずしていた。


 僕は立ち上がって本来主役であるはずのメリナを引っ張って無理矢理席に着かせる分には、食欲が理性を上回っていた。そして、食事前の感謝の言葉を強行させると、僕は目の前のパンにかぶりついて無我夢中で食べ始めた。


 「ったく、今日はメリナが主役だってのに節操がない奴だ」


 「そんなこと言わないであげて、私がドレスを着用する時間が長かっただけだから。我慢していたロードは別に悪くないわ。そんなことより、私たちもいただきましょう」


 主役のメリナが僕の行いを許してくれたので、怒りが収まった兄さんもばつが悪そうに黙って肉を食べ始めた。


 豪華な食事を終えると、次はお待ちかねのプレゼントタイムだ。


 「あのねー、今日はメリナのためにみんながプレゼントを用意したんだよ」


 「そうなの? 嬉しいわ~! 何をプレゼントしてくれるのかしら~?」

 

 プレゼントが貰えると聞いて、メリナもとても楽しそうにしていた。だから、最初は僕が用意したプレゼントの童話『黄金の草原』の主人公ネリの大きな人形をメリナに手渡した。


 「まあネリの人形ね、私も小さい頃読んでいたから嬉しいわ。……でも、なんかかなり年季が入っているような」


 「うん、だってその人形は僕が五歳の時に兄さんに買ってもらった物だから、もう六年になるかな」


 それを聞いて、メリナはネリ人形を隅々まで見渡すと、よだれの跡や糸で縫合した跡が沢山あることに気づいた。


 事実を知ったアレスは耳打ちで、「誕生日にお前のゴミを押し付けるなよ!」と叱責してきた。でも、ネリ人形は紛れもなく僕の大切な宝物の一つなのだから、大事な祝い事に贈り物としてあげても問題ないはずだ。逆に感謝して受け取らない方が失礼ってもんだ。


 「まあでも、ロードがこの人形をいつも大切に持っていることは分かっているし、宝物をくれたのよね? ありがたく受け取っておくわ」


 「うん! 大事に使ってね!」

 

 僕の番が終わると、ウェイン、兄さんの順に用意したプレゼントを渡していった。ウェインは軍用図書館で保管されていた魔導書を、兄さんは小さなトパーズがついた指輪。


 「ありがとう二人とも! 大事に使うわね!」


 心なしかメリナは僕のプレゼントより笑顔になっているような気がした。


 「最後はアレスね、何をくれるのかしら」


 「……………言いにくいんだが、実はまだプレゼントは用意してないんだ。だから、今から二人で買いに行かないか?」


 ネリ人形を馬鹿にするぐらいだから、どんなプレゼントを用意しているのかと思ったら何も用意していないなんて笑えるね。メリナもこれには怒りを覚えるに違いない。


 「ええいいわよ」


 え? 僕はメリナが言って意味が分からなかった。


 「どうして!? アレスはメリナの誕生日プレゼントを用意してこなかったんだよ! いっぱい時間があったのに」


 「何をそんなに怒ってるの? 用意できなかったとしても今から買いに行こうと誘ってくれてるのだから問題ないじゃない」


 僕は言い返せずに口を閉ざした。みんな僕が怒っているのを不思議に見ていた。


 仲間の誕生日にプレゼント一つ用意できなかったアレスが平然としているのが許せなかった。でも、みんなはアレスの提案を良しとした。

 

 なぜ、みんなはアレスの言葉に不満を述べなかったのか? アレスとメリナが買い物に行った後、兄さんたちに聞いてみた。すると、二人は声をあげて笑った。


 「何がそんなにおかしいの?」


 「考えてみろ。アレスは普段馬鹿だが、自分のためになるなら恐ろしいほど頭が回る奴だ。十八になったメリナと二人きりになりたくて、わざとプレゼントを買ってこなかったんだよ」


 「でもウェイン、あの二人は時たま一緒に出かけることはあるからそんな回りくどいことしなくてもいいんじゃない?」


 今まであの二人は休日の度によく出かけるようになったので、ウェインの言っていることはあまり説得力がない。短気なアレスが嘘をついてまでメリナと一緒に出かけようとするなんてあり得ないからだ。


 「それは……アレだよ、アレ」


 「あれって?」


 ウェインは言いたくないのか口をもごもごして、意味のない言葉ではぐらかすと、いきなり兄さんに“アレ”の話を僕に言うように命令した。


 「……………あと数年すればわかるから俺は何も言わない」


 「兄さんまで、もったいぶらないで教えてよー!!」


 「時が来ればわかることを一々教える必要はない」


 兄さんたちはそそくさと食べ終えた皿を片付け始めた。僕は教えてもらおうと縋ったけれど、結局何も聞きだすことができなかったので、宿舎を出てシールたちと遊びに行った。


 

 メリナのプレゼントに相応しいものを買うため、二人はエルマの町で最も豊かな中区にやって来た。

 

 普段なら基地に寄る以外、滅多に来ない中区ではあるが、プレゼントを買う場所としてはこの上ない場所だ。


 「私の気に入ったものを何でも買ってくれるんでしょ? 楽しみだわ~」


 「あんまり高いものは無理だけどな」


 「あはははっ、アレスにそんなに期待していないから大丈夫よ」


 「言いやがったな。これを見ればお前は何も言えなくなるぞ」

 

 アレスはポケットからおびただしい数の宝石が装飾された手のひらサイズの剣を取り出して見せた。


 「盗んだの?」


 「最初のコメントがそれかよ。これはザクレイに金をねだった時に貰った戦利品だ。これを担保にテオから大金を借りられるぜ!」

 

 そう言うと、アレスはメリナの手を掴んでテオの家へと向かった。


 テオの邸宅は中区の高級住宅街にある大きな屋敷だ。その大きさは庭を含めたら基地と同じぐらいの建物だ。


 屋敷の門を抜けて玄関の扉を叩いた。しばらくして扉が開くと、中からテオの息子であるマイヤーが友達たちを引き連れて出てきた。


 友達の中にはロードの姿もあって、二人に気づいたロードは何をしに来たのか尋ねてきた。


 「そんなの金に決まってるじゃないか」とマイヤーが代わりに答えた。まだ借金をしていることがロードは嫌らしく、マイヤーにこれ以上借金させないようにと頼みやがった。


 「余計なお世話だ。さっさとテオを呼んで来い、いるんだろ?」


 「はいはいわかったよ。ロードもアレスのことなんか構うなよ

 

 「むぅ~、マイヤーがそう言うなら……」


 癪だがロードは俺以外には案外聞き分けがいい。ともかくテオを呼んできてもらえるということで、俺たちは客室のソファで待つことにした。


 談笑して時間を潰しているとテオが測りを持ってやって来た。俺はすぐにザクレイから貰った宝をテオに手渡すと、測りで重さを図ったり、宝石の種類と大きさを鑑みて試算額を提示した。


 「いいもの持ってるじゃないか。ざっと計算して百万ルーンぐらいの価値はあるだろうな。ザクレイも何でこんな奴にこの宝をタダで渡したんだ、考えられねえぞ」


 「「ひゃ、百万ッ!?」」


 テオが提示した金額は俺たちの予想を超えていた。百万ルーンもあれば、多くの町の市民権を獲得することができる上に、家を買ってもお釣りがくるほどの金額だ。一般市民がこれほどの額を手に入れられることは普通の人生を送っているなら絶対にない。


 それほど俺たちにとっては巨万の額だった。俺はすぐに百万ルーンに飛びついて、契約をまとめるように促した。


 「それでいいのか? 金を受け取るより、これをプレゼントとしてメリナにあげればいいじゃないか」


 「ええっと……それは……」


 俺はメリナの様子を横目で窺った。俺としてはこの宝をプレゼントしてしまうのはもったいなくてできない。だが、俺は既にメリナに対して買える範囲の物なら買ってやると言った手前、テオの申し出を拒否するのは格好がつかない。


 「別にいらないわよそんなの。百万ルーンの宝より、私はもっと平凡な物で満足よ」


 「ほっ、よかった……」


 「よし分かった。交渉成立だな、今すぐ手形を持ってきてやる」


 こうして、百万ルーンの銀行手形を受け取った俺たちはようやくプレゼントを探しに向かった。

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