新たなる魔法
モウラに惨敗……、いや惜敗した僕たちは新たな魔法を開発するために魔導書を持って町の外に出かけた。
アレスは持ってきた魔導書を地面に広げて、それをじっくり読み始めた。本を読んでいるアレスの姿なんて今まで見たことがなかったから、その光景は新鮮さと違和感に満ちていた。
「ジロジロ見るんじゃねぇ、気が散るだろ」
「ご、ごめん。今までそんなアレスの姿見たことなかったからさ」
「魔法使えるものなら誰だって魔導書を一冊ぐらい読んだことあるものだ。俺は十歳の時から読んでいないけどな。だから、使える魔法も十歳の時からほとんど変わってねぇ」
簡単に言うけど、それなら今まで十歳の魔法で魔人たちを倒してきたことになる。もし言っている言葉が本当なら、さらに強い魔法を習得さえすればあのモウラの力と張り合えるかもしれない。
しかし、僕は自分が強くなる未来が上手く頭に浮かんでこず、魔導書すらここには持ってこなかった。
「お前こそ、魔導書すら持ってきてねえじゃねぇか。そんなんでナニをシゴくんだ?」
最後の言葉はよく分からないけど、アレスも僕の修業がどんなものか気になっていた。
でも、僕にはずっと考えていた修行方法があった。
それを実践するため、アレスから少し離れた場所までやって来て自身の魔法を発動した。
「よし! これで準備完了。後は……」
僕の修行方法はジッと右腕の魔法陣を見つめ、どんな構造になっているのか詳しく知ることである。
メリナや兄さんたちは二つ以上元素を使いこなせるけど、僕にそれができない。でも、周りの人をよく観察してみれば、ウェインもアレスも一つの元素を極めてあの強さを手に入れた。
だから、僕も新しいことに挑戦せず今ある魔法をしっかり理解したらもっと強くなれると思ったからである。
……見つめ続けること数時間。僕はまだ何の手掛かりを得られないでいた。
目の前にあるのは何の変哲もない魔法陣だ。右腕の周りを回転している十個の魔法陣は触れることも文字を読むことさえできない。一体これでどう学べと言うんだ。
まあでも、この読めない文字が一番とっつきやすいものではある。しかし、こんな分かりやすく解読してくれと言ってるようなものは既に自分で調べてみて解読不可能という結論に至った。
つまり、僕が強くなるための方法がまた見つからなかった……。
「あ~あやってられなーい!! もう嫌っ!!」
やけくそになった僕は地面でふて寝しようと仰向けに寝転がった。
荘厳と浮かぶ太陽から眩しい光が降り注いで目を細めた。
そう言えばカオスの遺子の紋様は漆黒の太陽ってウェインが言ってたっけ? 空に浮かんでいる太陽と何か関係があるのかなぁ~?
今まで何とも思ったことなかった太陽だけど、カオスの遺子と深い関係があるのではないかと興味が湧いてきた。
僕は上半身を起こして手で目を覆いながら太陽を観察し始めた。
「目がイターイ、どうして太陽は僕たちを傷つけるんだ? もしかしてカオスの遺子と関係があるから僕たちを嫌ってるの?」
万物の神と言われるカオスがどうして人間にだけ恐怖と苦痛に満ちた試練を与えるのか。
カオスに関連する者たちが太陽と強く結びついているのはなぜか。
カオスは一体何を望んでいるのか。
僕はカオスの残虐性を酷く憎んだ。やがてそれは、僕の夢である魔物の一掃に繋がるという結論へと至った。
「カオス、聞こえているか? お前が僕たちを傷つけ苦しめると言うなら、僕はお前の子である遺子たちを全て倒してやるぞっ!!」
そう天に向かって叫ぶと、突然僕の左腕が光り始めた。
「うわわっ!! これってまさかあの時と同じ!?」
それは初めて魔物と戦った時に右腕に出現した魔法陣と同じものだった。
両手で魔法が使えることになったことで攻撃力が二倍になって、僕は強くなれたことにジャンプして喜んだ。
「やったやったっ!! これであのモウラを倒せる!!」
これで僕の修業は終わったので、アレスに新しくなった魔法を見せつけに行った。
「おーいアレスー!! 見て見てー左腕にも魔法が宿ったんだよー!! 名付けて贈り物っ。どう? カッコいいでしょー?」
背後からアレスに僕の魔法をまざまざと見せつけても何の反応も示さなかった。不思議に思い地面であぐらをかいているアレスの前に回った。
そこにはアレスが魔導書の前で、うーんと唸っているいた。まだページも最初の方でほとんど読めていなかった。
かなりの時間があったはずだけど……、ここまで読めてないとすると何か大きな要因があったのだろうと、刺激しないようにさりげなくアレスに聞いてみた。
「どうしたのアレス? 何か問題でもあった?」
アレスはフルフルと体を震わせて溜まっていた鬱憤を吐き出すように叫んだ。
「わかんねぇ……わかんねぇんだよッ!! 書いてあることがさっぱり!!」
「え? でも、文字は読めるって……」
「読めてもわかんなかったら意味無いだろ!? 難しすぎて理解できないんだよ」
アレスは数時間経っても理解できなかった魔導書を怒りに任せて破り捨てた後、「こんなクソ本二度と見たくねえッ!!」と言って何の収穫もないまま町に戻ろうとした。
「ま、待ってよアレス、このまま何もしないで帰るの?」
「俺の頭が理解できないんだから、これ以上何しろって言うんだよ!?」
僕にはアレスの気持ちが分かる。習っていたことが齢を経るにつれて難しくなることは、勉強する中でとてもストレスになるからだ。
特に今のアレスのような絶交したような気持ちになれば、自分から再び勉学に向き合おうとすることはないだろう。
でも、アレスにはモウラたちに対抗するためにもっと強くなってもらわないと困る。かと言って、今の僕にはアレスを説得させることは無理だ。
それならばと僕は最終手段を使うことにした。
町に着いてやって来たのは基地だった。
「あらロード、今日は何のようかしら?」
僕たちが真っ先に向かった先はローズの元だった。僕には彼女しかアレスの課題を解決できないと思って直接頼みに来た。
「えっとね今日はアレスにあの特別授業をしてあげて欲しいの! それも時間がないから半分の期間で!」
「またぁ~? それも半分って無茶言わないでよ~。最近新しい敵が増えてこっちもてんやわんやなんだから」
「俺たちもその敵を倒すために努力してんだから少しは協力してくれよ」
「ふーん、アナタいくつ?」
「十九だが、それがどうした」
「それなら別に教えてあげても構わないわ。それとロード、半分の期間なら一日で教える量も多くなるから帰りは夜になると思うわ」
ローズはアレスの体を下から上までジッと見つめて吟味している様子だったけど、頼み事が受け入れられたことが一番嬉しくてそのままアレスを預けて宿舎に戻った。
その夜、自室でメリナと今日あったことを楽しく談笑していた。
「あはははは! アレスがあの量を半分の時間でできるわけないじゃない!!」
「でもでも、ローズもやる気いっぱいで夜までみっちり教えてあげているらしいよ」
「夜まで……みっちり?」
メリナの顔の雲行きが険しくなった。
「どうしたのメリナ? 何か問題でもあるの?」
「い、いえ全然問題ないわっ!! ささっ、違う話でもしましょ!!」
メリナは動揺しているように見えたけど、すぐさま別の話にすり替えようとした。
何か嫌な事でもあったのかな? そう思いつつも言われた通り別の話をしようとした時、生気が抜けた顔をしたアレスが帰ってきた。
「た、ただいま……」
帰ってきたアレスの顔を見て驚いた僕たちは、「何があったの!?」と詰め寄ったが、とても疲れているようでアレスは死んだようにベッドに倒れた。
「ちょ、ちょっとアレスっ、アナタ一体何をしたらそんな年寄りみたいな顔になるの!?」
「こ、腰が死ぬ……もう何も、出ない……」
「腰が痛いの? じゃあ僕がマッサージしてあげる」
アレスは腰を酷く痛めたようで、「腰が、腰が……」とずっと呟いているものだから僕が率先してマッサージをしてあげることにした。
メリナはそれを聞いて、癪に障ったようで何も言わずに自室へと戻っていった。
それから授業が終わるまでアレスはミイラのような姿になって帰ってきた。兄さんがその都度全快させても夜になると元通りになってしまったけれど、無事アレスはローズの講習を終えた。
「しばらくは女と遊ばなくていいかもな……」
落ち込んだ口調で語るアレスは魚が死んだような目をしていた。一体何があったのだろうか?と基地にいるローズに聞きに行こうとした僕をメリナはやめように説得した。
まあ、目的は達成したことだしどうでもいいか。僕はメリナの説得を受けれ入れた。
勉学に励んた甲斐もあって、アレスは難しい魔導書を少しずつ読み解くことができるようになった。
そして、魔導書を読み始めてから一週間後、ついに新魔法を開発したアレスは平原で僕とメリナが見守る中、新魔法のお披露目会を開催することにした。
「見てろよお前ら、これが俺の新魔法だッ!!」
アレスが両腕を突き出して叫ぶと、両手をかざした前に大きな魔法陣が出てきて、そこから幾百の氷の氷柱がカーブを描きながら放たれて遠くにある大木にあたった。
「どうだ? これが俺の新魔法メルヴィングだ」
「アナタの大好きなオメガブラストとほとんど変わらないじゃない。それに威力だけを求めていても当たらなかったら意味ないわよ」
「戦いじゃ力こそ正義だろ? それにこのメルヴィングは威力だけじゃない、ホーミング性能も兼ね備えているんだっ!!」
アレスの新魔法はまさにモウラを倒すために作られた魔法だ。あの飛び交う数多の顔を多弾・ホーミングを備えたメルヴィングで潰していくというアイデアは勉強の賜物のようだ。
これで戦う準備は整った。僕たちは翌日から新しい魔法を引っ提げてモウラの討伐に赴いた。




