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カオスの遺子   作者: 浜口耕平
第一部 エルマの町編 カオスの遺子
24/43

緊急命令

 ザクレイが報告した内容は、すぐに伝達魔法によって宮殿にいるゼインフォース、並びに各地方の隊長たちに伝えられた。


 宮殿では自身の執務室で、エニグマの出現とクラウディウスの野望を阻止するべく、ゼインフォースは最も信頼している側近のアシュリーと議論を交わしていた。


 「クラウディウスの息子とはな、予想だにしなかったことだ。それに、封印を解除するために暗躍しているとなると、クラウディウスは自身の子供たちに手分けして探させている」


 「つまり、カオスの遺子、魔物に次ぐ、新たな脅威が出てきたのですか。恐ろしいことです、すぐに他国にも伝えて協力してもらうのが得策でしょう」


 「俺もそう思う……。だが、ザックがよこしてきた情報によれば、そのエニグマって奴の実力は隊長たちに匹敵するようだ。どちらにせよ俺たちはコイツらを重点的に始末しなければ、また世界は災厄を見るだろう。それだけは絶対に阻止しなくてはならないっ!」


 「わかりました。では、各国に通達した上、ロイに宮殿に来るよう伝えて参ります」


 「ああ頼む」


 二人が会話を終えると、アシュリーは執務室から退出した。


 会談が終わってもゼインフォースは新たな敵に頭を悩ませていた。新たな敵の出現、それもカオスの遺子の子であるからして、強敵同士が手を組んだような状態だ。


 「ダグラスのアホども然り、めんどくさい敵ばかり増えて嫌になるな。あ~あ、何でこんな時代に生まれて来てしまったのか……。カオスよ、俺はお前を恨むぞ」


 椅子に大きく背もたれしながら、机に脚をあげて嘆いた。次々と舞い込んでくるトラブルに強靭な精神を持つゼインフォースも音を上げてしまった。そして、もう一つ気がかりなことがあった。


 「“原初の遺子”であるバベルとアリスター、一体奴らはどこへ消えた?」


 世界が大きく変わろうと予感している彼には、千年前から人々が追い続けてきた疑問が今になって、とても重要なことだと気がしてならないのである。



 一方エルマの町では、上層部の思惑とは関係ないロード達が通常の任務を行っていた。あれほどの事件があったなに、軍から伝えられた指令は通常の任務だけだった。


 当然、狐男と因縁があるロードとアレスは軍からの指令に不満があった。だから、二人はザクレイに狐男、またはクラウディウス討伐隊を組織するよう頼み込んだ。


 「そんなの無理だぞ。カオスの遺子、及びクラウディウスの子供を始末するための計画はフォースが立案するんだから」


 「ザクレイが王に直接頼んだらいいだけじゃん! エニグマを追えばカオスの遺子に近づけるかもしれないんだよ~!」


 「そう言ってもな~、軍律違反は犯したくないし。これは独り言だが、兵士が休みの間に“趣味”でカオスの遺子を探してもそれは軍律の対象外となる」


 ザクレイは身分上、勝手な動きができないのだろう。独り言と言っているけど、それは暗に僕たちの好きなようにやれと受け止められた。


 「よっしゃー! 行くぞロードっ、俺たちの隊長から許可が出たぞ!!」


 「うん! ありがとうザクレイ!」


 「上の奴らにバレんじゃねーぞ。必ず生きて帰って来い、守れないなら外出はなしだ」


 僕たちはザクレイに見送られて町を出た。目的地は見晴らしのいい平原地帯、最近ここで凶悪な人間が出るとの目撃情報があった。おそらくクラウディウスの子供たちであると予想して僕たちは現場へと走った。


 到着すると平原の真ん中でさまよっている人の姿があって、僕たちはまだ気づかれていない内に攻撃を仕掛けた。

 

 不意に放ったアレスのオメガブラストはマントから出てきたハトの顔が食べてしまった。その時、僕たちは黒いマントの中に多種多様な生き物の頭が見えた。

 

 「貴様ら、この私をクラウディウスの子と知っていての行いか? 罰が下るぞ」


 マントの主はこちらに振り向いてそう言った。女の声をしてはいるけど、オスのライオンの皮が直接顔にくっついていて、とても恐ろしい顔をしている。


 「お前のことなんかどうでもいいんだよっ!! 早くエニグマの居場所を教えろッ!!」


 探していたエニグマではなかったことにアレスは気が立って冷静さを失っていたのか、続けざまにオメガブラストを放った。でもやはり、クラウディウスの子たちにはアレスの魔法は通用しなかった。それどころか、二発も故意に魔法を放ったのだから攻撃された本人は怒り心頭で僕たちを標的に定めた。


 「フフフ、このモウラに喧嘩を売るとはよほど命が惜しくないようだな。望み通り私の百獣の魔王(ひゃくじゅうのまおう)で食い殺してやる」


 モウラがマントを脱ぎ捨てると、魚、動物、昆虫、魔物果ては人間に至るまであらゆる生き物の顔が彼女の体を覆っていた。そして、それぞれの顔はお互い独立した意思を持っており、モウラはそれらに名前をつけて統率していた。


 「目の前の人間は食ってもいいぞお前たち」


 モウラの呼びかけで、顔たちは歓喜の声をあげ、彼女の体から四体の顔が飛び出して僕たちに襲いかかってきた。


 四体の顔はそれぞれ、ハト、ワニ、魚、魔物で、しかも四体が全く異なる元素魔法を使ってくる。ハトは風魔法、ワニは出血魔法、魚は水魔法、魔物は闇魔法と、四体は軍隊のように規律が取れた見事な連携攻撃を繰り出す。そのため、僕たちが反撃する機会がほとんど生まれずに、防戦一方を強いられることになった。


 「お前も少しはアイツらに攻撃しろっ、このままジリ貧だぞ!」


 「でもでもっ、動きが早くて捉えられないんだよ」


 「言い訳すんな! まだ一回もアイツらに攻撃を当ててねぇじゃねぇか!!」


 「そんなこと言うアレスだって、まだ一回しか魔法当てられてないじゃん! それもかすった程度の攻撃のくせに!」


 「ああやんのかお前?」


 「上等だっ! やっつけてやる!!」


 お互いの戦い方に不満があった僕たちは、口喧嘩が発端で殴り合いの大喧嘩へと発展していった。

 

 すっかりモウラたちのことなんか忘れて、もう歯止めが利かなくなった。


 「ポッポーっ、何をしているんだろうあの二人は」


 ハトが高笑いすると、それにつられて他の三体もゲラゲラと笑った。


 モウラも興が冷めたのか、「四人とも戻ってきなさい」と彼らに退却させてどこかへ行ってしまった。


 そんな重大な出来事が起こったのに、まだ僕たちは喧嘩をしていた。


 体格差で劣る僕は、アレスの魔力を吸い取って動きを鈍らせる戦略を取った。


 ただ、それでもアレスの力は強くて服を掴まれてあちこち投げ飛ばされる。


 「痛っ!! こんのー!!」


 頭から血が出ている。血と痛みを抑えながら再びアレスに突っかかろうした時、僕たちはようやくモウラたちがいなくなっていたことに気づいた。


 「一旦やめにしよう。モウラがどっか行っちゃったよ!」


 「お前が諦めないで粘っているから見失ったんだろっ!? 魔力も随分取っていきやがって……これじゃあ全力で戦えねぇよ!!」


 アレスはほとんどの魔力を持っていかれたせいで、足元がおぼつかない様子で怒鳴る度に態勢が崩れてしまう。


 かく言う僕も、アレスに何度も引きずられたせいでこれ以上戦う余裕はなかった。


 僕たちは互いに目をあわせて考えが同じであることを確認すると、町の方へと歩き出した。


 帰る道中、「俺たちはまだ負けてねぇ。潰しあって戦えなくなっただけだ」とアレスが言い、僕もそれに頷いて、「なら今度はもっと真剣に戦う方法を考えよう。今のままではアイツらには勝てない」と言い返した。


 後悔が残る凱旋ではあったけど、僕たちはより一層強くなるための新たな魔法を生み出そうとしていた。

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