クラウディウスの息子
特異点から出てくる腕は、足、胴体、頭と僕たちの前に姿を現した。
その姿は一部を除いて人間とほとんど遜色ないものだった。頭からは日本のとんがった大きな耳、お尻から九本にもなるモフモフの尻尾が生えていて、その姿はまさに狐人間だった。
「ふむ兵士とは運がいいな。これも神の思し召しというわけだ、そうだろお前たち」
狐男は悠長に話しかけてくる。口調や態度は魔人と比べるととても穏やかで、まるで人間が話しかけてくるような感じ。
「お前はカオスの遺子ではないようだが、一体何者だ?」
ザクレイも初めて見る敵の姿に驚きを隠せない。なぜなら、カオスの遺子は人間と姿は同じなのに対して、目の前にいる狐男は魔人と人間の中間的な姿だったからだ。もちろん、魔人にも人型はいるけど、ここまで人の形を残しているのは見たことも聞いたこともない。
得体の知れない敵を前に緊張が走る。カオスの遺子や魔物とは違う、第三勢力であるならば世界にとって非常に危険な存在が生まれたことになる。
「俺はエニグマ、クラウディウスの子」
「クラウディウスだとッ!?」
狐男は衝撃の発言をした。クラウディウスはカオスの第四遺子、そして、ザクレイが直接エルマの町に赴くことになった原因でもある。
そのクラウディウスの子と名乗る男に向かって、兄さんは槍を取り出して終焉を使った。
「いっけーッ!!」
雷槍がエニグマを貫く瞬間、彼は尾の一本のみを使って兄さんの終焉を弾いた。
「嘘でしょ!? あの魔人を一撃で葬った兄さんの終焉を尻尾一本で弾くなんて……。このまま戦ったらマズいよッ!!」
僕は慌てふためいていた。ザクレイは魔力切れ、兄さんの魔法も通用しない、正面からまともにぶつかったら僕たちは全滅するだろう。
防御一つで力の差を見せつけられた僕たちの頭に浮かんだのは“撤退”の一文字だけだった。
「いきなり何すんだ。まさか、この俺とやろうって腹づもりなのか?」
「いいや手が滑っただけだ。お前とは戦うつもりなんてない。お前たちもそうだろ?」
「うんうんうん! 僕たちはここにピクニックしに来ただけで、誰かと戦う予定なんて入ってないよ‼」
「ふーむ、まあ怪我しなかったから別にどうでもいいが。それよりお前たち、俺の敬愛する叔父のバサラをどこに封印した?」
エニグマが言うバサラとは、約二百年前に北の大国ヤマトを襲ったカオスの第六遺子のことであり、半数の国民と九割の兵士を犠牲にしてある場所に封じ込めた。封印されている場所はごくごく少数にしか伝わっていないので、もちろん僕たちがそんなこと知るはずがない。
だから、知らないことをエニグマに伝えると、彼は頭を抱えて明らかに狼狽していた。
「はあ~やっぱりかぁ。二百年探し回ってるのにこんな所でそう易々と見つかるわけないよな、邪魔したな」
エニグマは有益な情報を得ることができないと悟った時、踵を返すように特異点に歩いて行った。
「おい待て、バサラを封印から解放して何をするつもりだ?」
ザクレイの問いにエニグマは不敵な笑みを浮かべ、そして、「父上曰く“世界の終焉は近い”だそうだ」と言い残して特異点の中へと姿を消した。
「二人ともすぐに町に戻るぞ! 上にこの事を報告しないと」
僕たちは急いで町に戻って、基地の人たちにさっき起こった出来事を伝えた。
詳し出来事はウェインたちには秘密にしろとのことだったので、いくら聞いてきても答えることはしなかった。
だけどその夜、しつこくアレスに聞かれた僕はつい昼の出来事を口走ってしまった。
「絶対みんなに言っちゃダメだからね、言ったらただじゃおかないよ」
何故か話を聞き終えたアレスは目を見開いて無口になった。それまで騒々しく話を聞こうとした態度とは大違いだ。
「どうしたの何かあった?」
すると突然アレスは立ち上がると、雨が降りしきるなか外へと飛び出した。
「待ってよー!! どこ行くのー?」と呼び止めても、アレスの足は止まることはなかった。
ついには見失ってしまって僕は暗闇の中立ちすくんで、アレスがどこへ行ったのか考えていた。まさか町の外に出たんじゃないかと思い、僕は南門に急いで足を運んだ。
南門に着くと、そこには門を呆然と見つめるアレスがいた。
「何やってるのっ、早く戻らないと風邪ひくよー!」
「お前はこの先に一番殺してやりたいと思う奴がいたらどうする?」
「そんな急に言われても分からないよ。じゃあ、アレスならどうする?」
アレスは振り返って、「殺すッ! あの狐野郎は絶対俺がこの手で殺してやる!!」と見たことない殺気に満ちた表情で喋った。
僕はその表情がとにかく怖くて逃げだしそうになったけど、一つアレスに聞きたいことがあった。ここまでアレスを動かす目的、兵士になった理由、あまり自分のことを多くは語らない彼に尋ねた。
「まさかアレスが兵士になった理由って?」
互いに見つめ合って少し時間が経った後、アレスはハッキリと僕に言い放った。
「復讐だ」




