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カオスの遺子   作者: 浜口耕平
第一部 エルマの町編 カオスの遺子
21/43

ザクレイとの特訓

 「それじゃあ早速始めるか。まずはお前の力がどんなものなのか見せてみろ」


 「うん! それじゃ行くよ!!」


 戦闘が始まると僕は正面からザクレイに向かって行く。ザクレイは攻撃の素振りを見せないどころか、両腕を開いて防御の意思もないようだ。


 「ずいぶん舐めてくれるけど、僕の攻撃を受けたらそんな気もなくなるさ! くらええええ!!」


 魔法を使って正面からザクレイに殴りかかった。


 タイミングも距離感も完璧。確実にザクレイの腹に拳が当たったと思われたが、ザクレイはその場からほとんど動かずに避けていた。

 

 「なっ、このこのこのーッ!!」


 ムキになって連続で攻撃を繰り返すが、ザクレイにはかする気配すらない。その様子を遠くから見ていたウェインたちも早くに雲行きが怪しくなって眉をひそめた。


 「完全に遊ばれてやがるぜ、ロードの奴」


 「始まったばかりだからしょうがないじゃない。これからよロードの本番は」


 「でもアイツの顔見ろよ! 当たらなくて泣きそうになってんじゃねぇか! 見ててスゲー惨めになっちまう」


 「そんな酷いこと言わないであげてよ。ほらロードっ、もっと頑張れるはずよ!!」


 メリナの応援する声が聞こえてくる。でも、体力がきれた僕は地面に手をついてしまった。鼓動が聞こえてくるほど激しく打っており、呼吸も小刻みになって息苦しい。


 ザクレイが近寄って何か言っているけど、僕の耳に入ってこない。それに、一度も触れることなく敗北することも、一度も攻撃を受けずに敗北することも初めてだったから死ぬほど恥ずかしい。


 ウェインたちも戦闘が終わるとすぐにやって来て、兄さんが僕の体力を回復させてくれた。


 「よくやった合格だ! おめでとうロード」


 「へ?」


 「よかったなぁーロード!! なんもできなかったけどよくやったぞォ!!」


 「本当におめでとう!! これからもっと強くなれるわよ、よかったわねロード」


 アレスとメリナは僕の体に抱きついて猛烈に喜んでくれているけど、僕は何故ザクレイが合格だと言ったのかが分からなかった。

 

 「どうして……? 一度も当てることができなかったのに」


 「そりゃあ俺が避けるつもりでいたんだから当てられるわけないだろ。さっきのはお前の動きを見たかっただけだ。攻撃にバリエーションがあって、創意工夫が見て取れるから及第点ってところだがな」


 ザクレイの反応を見るに僕は本当に失格ではないようだ。でも、勝ってすらなかったのに合格とは複雑な気分だ。それと、合格したなら次は何をするんだ? また戦い? それとも勉強? いずれにせよ僕にはこの事を確かめる義務がある。


 「合格ってことは次は何をするの?」


 「ん? もう終わりだぞお前の特訓は」


 「え?」


 僕は自分の耳を疑った。だってまだ何もしていないじゃないか!? ザクレイに僕の実力を認めてもらって、カオスの遺子と戦うために頑張ったのに……。これじゃあ僕の戦いが水の泡になってしまうよ。


 「隊長っ、それはあんまりですよ! ロードは毎日強くなるため頑張って来たのですから」


 「だってさ、子供殴ったら俺のイメージが悪くなるだろ? やった後、親族が俺を訴えたらどうするんだ!? お前が責任とってくれるのか?」


 ザクレイはよほど僕と拳を交えたくないようだ。兄さんが訴えないと言っても、彼は頑として首を縦に振らない。こうなれば、後は僕をボコボコにする権利を与える他ない。


 「お願いだよー!! 戦いなんだからザクレイも攻撃してくれなきゃ意味ないよ!! 僕はカオスの遺子と戦いたいんだ!」


 「そうは言ってもな……。う~む、そこまで言うならやってやる。絶対なくなよ、泣いたら俺も萎えちまうからよ」


 「うん誓うよ!」


 「わかった、お前たちはリードだけ残して向こうに行ってろ。確かお前は回復魔法を使えるんだったな。ならお前はずっと回復させておけ、死なれたら困るからな」


 準備をしてから僕たちはまた向かい合った。今度はザクレイも真剣な顔になって、戦いに期待を持たせてくれる。


 「いいかロード、ザクレイは今まで最強の相手だ。俺もサポートに全力を注ぐが、即死だったら助けられないから肝に銘じておけよ」


 傍で邪魔にならないように見守っている兄さんも初めてのことなので、いつも冷静さを少し失っているように見えた。


 「俺は戦うことに関してはいつも真剣だ。だから、ここからは俺も魔法を使うぞ」


 すると、ザクレイの体が黒い靄に覆われたかと思うとその靄が次第に形を形成していって、紫色の光を放つ鎧となった。


 「これが俺の魔法多次元魔装(ダークアーマー)だ」


 多次元魔装(ダークアーマー)はザクレイの膨大な魔力を鎧の形にしたもので、身体能力を維持したまま大地を砕く威力と世界最硬に匹敵する防御力をほこる。その上、男の子なら誰もが憧れる要素を全部詰め込んでいてうっとりするほどカッコいい。


 その見た目に見とれて一時は戦いのことなど忘れかけてしまいそうだった。ハッと我に返った僕は拳を構える。

 

 「構えたな、いくぞッ!!」


 ザクレイの言葉と同時に勝負が始まった。


 お互いに相手めがけて直進して拳を交える。二人の拳が交わると、周囲に黒い衝撃波が走り空間が歪んで見えた。


 拳がぶつかった瞬間、僕はすぐに敵わないとわかった。まるで大きい岩石を叩いているかのような感覚が手から頭に伝わって来る。そして気がつくと、僕はザクレイからとても離れた場所でたちすくんでいた。


 どうして僕はこんな遠くまで来ているのか?と困惑していたら、前に延びる地面が剥がされた跡を見て僕は力負けしてここまで転がって来たことを理解した。傷は兄さんによって完治されているけど、一撃で瀕死の状態まで持っていかれたことに身震いした。


 一方のザクレイは、右腕を覆っていた多次元魔装(ダークアーマー)が消えていたことにロードの力の強さを改めて理解することになった。


 「あの一瞬で俺の鎧を剥がすか……。これはもっと鍛えればカオスの遺子にも届くかもな。もう少し見てみるか」


 ロードが回復したのを見て、戦いを再開した。


 何度も拳を交えて瀕死になっては回復を繰り返す。外から見ているウェインたちは見ていられないのか、宿舎に戻ってしまった。


 そんな中、ザクレイはロードの魔法について徐々に理解していった。


 ロードの攻撃は一度当たれば非常に強力な技である一方、体に直接触れなければいけないという大きなデメリットが存在する。もちろん戦いになれば全力で周りがサポートするが、隊長たちの動きについて行けるとも思えない。


 この戦いでロードの全てを知る必要があるので、ザクレイは何十、何百とロードと拳を交えては詳細な記録をつけていった。


 「これで何回目だろう? もうここで意識が戻るのも十八回目だ」


 殴られた時の記憶は頭にはないけど、戦いの最中のことは映像として頭にへばりついている。そのおかげで、ザクレイが攻撃をする前の動作を予測してなんとか攻撃を避けたり、カウンターを決めたりすることができるようになっていった。


 そして、254回目の衝突で僕は右腕、左足、左わき腹と次々と多次元魔装(ダークアーマー)の装甲を剥いでいった。


 「はあはあ、もうやめだロード。俺の魔力もそろそろ限界だ、今日はここまでにしよう」


 とうとうザクレイの魔力が切れてしまったので、強制的に戦いは終わることになった。にしても、僕は一回ごとに体力と傷を回復してもらっているのであまり疲れてないけど、ザクレイはぶっ通しで戦っていたのを考えると、彼の魔力と体力はどれくらいなのか気になる。


 「ねえ兄さん、ザクレイの魔力ってどれくらいあるんだろう?」


 「そうだな俺もハッキリとしたことは言えないが、魔人の十倍以上はあるんじゃないか?」


 「へえーそれはすごいね! あんだけ強い味方がいれば、カオスの遺子に勝てるかもしれないよ!」


 「おいおいそれはカオスの遺子を舐めすぎだ。俺一人では何の役にも立たないと思うし、今の俺じゃ魔人にでさえ手こずるだろうしな」


 「あはははっ、そんな時は素手で倒せばいいさ」


 和気あいあいとした空気を醸しだしながら、僕たちは町に帰る準備をした。


 着々と準備をしていると、背後からガシャン!とガラスが割れた時の音が聞こえてきた。音の方を確認してみたら世界の一部にヒビが入っていた。


 空中にぽっかりとできたその穴は時間が経つにつれ大きくなり、風がヒューヒューっと中に入っていくのが聞こえてくる。


 この現象は“特異点”に間違いない。特異点とは、魔界から人間界へ魔物などがやってくる際にできる、時空の歪みのことだ。この特異点は出現する場所も時間も予測することができず、軍に報告が入るとすぐに現場に直行して侵入してきた魔物を始末しないといけない。


 「特異点か、なんとまあ都合のいい時に現れてくれるものだ。よしお前ら、帰る前に一仕事していくぞ」


 僕たちは警戒して魔物が出てくるのを待つが、魔物が出てくる気配はない。


 「どうしたんだろう? いつもはすぐに飛び出してくるのに」


 なかなか出てこないので、詰まっているのかと思い兄さんたちの制止を振り切って穴の中を覗いてみた。


 「うーん、やっぱり何もいないよ~」


 「ッ!? 離れろロード!!」

 

 兄さんの怒号に体がビクッとしても全力で特異点から離れて二人の元に戻った。何故あんなに兄さんが怒鳴ったのか、気になって特異点の方向を見た。


 すぐにその理由がわかった。先ほどまで無限の暗闇が見えていたはずなのに、中から筋肉質の男の左腕が出てきている。


 人間? そんなはずない、魔界に住んでいる人間なんて存在するわけがない! なら一体誰が……。


 僕たちは冷たい汗が全身から川のように出てくるのを感じた。最悪な結末が頭によぎる。僕たちは息を呑んでその腕の持ち主が出てくるのを見守っていた。

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