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カオスの遺子   作者: 浜口耕平
第一部 エルマの町編 カオスの遺子
20/43

ダンタリオン地方の隊長ザクレイ

 新しい魔法を覚え魔人相手に一定の活躍を残すようになった僕たちは、次のターゲットであるカオスの遺子に打ち勝つため日々特訓に励んでいた。


 そんな激怒の日々を送っていたある日、食卓でウェインからこの町にダンタリオン地方の隊長ザクレイがやって来ると伝えられた。


 エレイス王国は王都を含む中央地帯の他に十個の地方によって構成されている。僕たちが住むダンタリオンの他、ベガ、アルタイル、カペラ、アンタレス、シリウス、アンドロメダ、ポルックス、カストル、ペテルギウスの地方があって、それぞれの地方には地方の兵士の代表である隊長がいる。


 普段は地方を治める領主の元で仕事をしているはずの隊長が、どうしてこんな田舎の町にやって来ることになったのかウェインですら見当がつかないようだ。ともかく、隊長がやって来ることになったので、基地で盛大な歓迎会を行うことになった。


 祝宴会当日、僕たちはいつもの格好で基地内のデカい食堂にやって来ていた。


 綺麗に装飾された会場には有り余る御馳走と招待された大勢の人でひしめき合っていた。招待客の中にはシールたちの姿があって、僕はみんなをアレスとメリナに紹介した。


 「みんなも来ていたんだね!」


 「マイヤーのおかげでな。持つべきものは金持ちの友達だよな~、なあマイヤー?」

 

 「別に俺が金持ちってわけじゃないけどな。そうそう、父さんがアレスを探していたよ、今月の借金の利息がまだだって」


 「アレス、アナタ借金してるの? どんな使い方すれば借金してしまうの!?」


 メリナは高給取りであるはずの兵士が借金をするほど金に困窮していることが不思議でならなかった。衣食住は軍から提供されているので、金を使う機会も滅多にない。


 「あ、ああ…それはだなあと少し待って欲しいと言っといてくれないか? あと数日でデカい金が入るんだ」


 「頼むなら本人に直接言ってもらいものだ」


 すると、背後からアレスに金を貸しているテオが現れた。


 「げッ、テオ!」


 「驚いてんじゃねえよ。先週までに金を収める約束だったよな。どうして遅れてる?」


 「最近、副業が上手く行ってなくてまとまった金が用意できないんだ。あと三日待ってくれたら必ず金が用意できるから!」


 「フン、お前の副業は魔物の一部を売っぱらってるらしいじゃねえか。バレたら捕まっちまうな」


 みんなそのことを聞いてドン引きした。魔物の死体が放つ独特な匂いは他の魔物を引き付けるため、魔物を討伐するごとに燃やしたり、地面に深く埋めたりすることが兵士たちには義務付けられている。


 しかし、魔物の死体から稀に黒く光沢のある魔力玉と呼ばれる宝石が取れるので、その希少性から富裕層はそれを求めてやまない。無論、それらを勝手に採取・販売することは犯罪である。


 「アレス! アナタ何をしているの!?」


 仕事中に隠れてそんなチームを危険に晒すようなことをしていたことにメリナは怒っていた。一歩間違えれば、死んでいたかもしれない行為に、当然僕も怒っている。


 「おいテオ、それ以上コイツらの前で何も言うんじゃねえぞゴラッ。お前は金が入れば文句ねえだろッ?」


 アレスはテオに詰め寄って物凄い眼光で彼に釘を刺した。


 「そうだな。何をしてようが俺は金を返してもらえれば文句はない。じゃあ三日後な、家で待ってるぞ」


 テオはそう言うとこの場を去った。だが、僕たちは侮蔑する目でアレスを見つめていた。


 「何か言うことはないのかしら?」


 「100ルーンで手をうたないか」


 「ダメよ」

 

 「そんなぁー!! 俺の仕事がああああああ!!」


 副業を失ったアレスは僕たちをお金で買収しようとしたけど、メリナはそれを突っぱねた。それでもアレスは食い下がったけど、僕たちは報告はしないものの決して許すことはなかった。


 その後は飲んだり、シールたちとお喋りしてる間に、ザクレイが基地に到着した。


 扉開いてザクレイが入って来ると歓声があがった。でも、ここからじゃ人混みにまみれてその姿を拝むことができない。


 しばらくして、一通りの挨拶を終えたザクレイはついに僕たちの元へとやって来た。


 「久しぶりだなウェイン! おーっ、お前もついにチームの隊長になったか! かつての部下が出世して俺は嬉しいぞ!!」


 現れたザクレイはデカいお屋敷に飾られている鎧のようなずっしりとした威圧感と、鍛え抜かれた逞しい肉体を持った人だった。


 「ダンタリオンにいるのだから、今もアナタの部下ですよ。それより、今日は何の理由でこんな場所に遥々やって来たのですか?」


 「いやなー俺も来たくなかったんだが、フォースの命令だからしょうがなく来たんだよ」


 「まあ王の命令じゃ仕方ないですしね。それで要件は?」


 すると、さっきまで陽気に話していたザクレイの顔が急に引き締まってただならぬ気配を漂わせた。それほど事が重大なのだろうか、僕たちは食事も話もやめて彼の話を聞くことにした。


 「……ここら辺りでカオスの第四遺子クラウディウスが現れたとの情報が入った。まだ詳しくはわからないが、本物なら全力で対処しなければならない。だから、フォースは俺をここに送ったんだ」


 ザクレイが話した後、僕たちは唖然として事の重大さを理解するのに数秒の時間を要した。


 「マジですか……? しかも第四遺子と言えば、カオスの遺子の中でも特別危険な奴じゃないですか」


 「ああ、“最狂の遺子クラウディウス”今まで幾度となく現れては人間界に多大な損害を与えてきた存在だ。もし情報が確かならダンタリオンは終わりだ」


 「ちょ、ちょっと待ってよ! ダンタリオンが終わるって、アナタがここに来たのだから大丈夫じゃないの? 何でそう簡単に諦めているのよ!?」


 「メリナの言う通りだよ! 簡単に諦めたら勝てるものも勝てないって兄さんが言ってたんだから!!」

 

 僕とメリナはザクレイが簡単にダンタリオンが滅びると言うので反論した。町を守るための兵士、ましてや地方を預かる身でありながら、易々と負ける言葉を口にするのが気に食わなかった。


 「お前たちの言うことも分かる。それじゃあ質問だ、お前たちは魔人一体ならどれくらいの人数、または魔法を使わずに殺せる?」


 「どういうつもりかは知らないけど、私たちはみんな一人で魔人を倒したことがあるのよ。それに、魔法を使わないでどうやって魔人に勝てるって言うのよ」


 「そうか、俺なら魔人程度なら素手で瞬殺できるぞ。それに俺以外の隊長たちも魔人相手なら、いちいち魔法を使わずとも勝てる。だが、そんな俺たちが束になっても敵わないのがカオスの遺子だ。お前たち程度の実力で、諦めるとか諦めないとかの話をしても無意味だ」

 

 僕たちはザクレイの話を聞くまで天狗になっていたかもしれない。最近の魔人相手には苦戦を強いられることはほとんど無くなっていたので、カオスの遺子と戦えるのも時間の問題だと思っていた。


 だけど、ザクレイたちとの実力の差を実感して、僕たちは声を出して反論することも恥ずかしくてできなかった。ずっと前にガロンが言っていた純血と混血の力の差が、ここまで大きいとは思いもよらなかった。


 「隊長たちは特別なんだから俺たちペーペーと一緒くたにしないでくださいよー。二人もそこまで落ち込まなくていいぞ、この人がおかしいだけだから」


 「人を化け物扱いかよ! 俺は別に特別でも何でもないぞ、フォースこそが特別な存在なんだから」

 

 「さっきからフォースって名前出てるけど、それって王のことだろ? あのオッサンそんなに強いのか?」


 「おいアレス! 俺たちの王をオッサンって言うな!!」


 怒っているウェインとは対照的に、ザクレイは爆笑していた。


 「ハハハハハッ!! お前、面白い奴だな。でも、本人の前ではやめておけよ。殺されたくなかったらな」


 「そんなこと今はどうでもいいんだよ。で、本当に王は強いのか?」


 「強いさ! それも世界でぶっちぎりで一番さ! 三十年前の第七遺子襲来の時も、隊長たちは九人戦死したけど、フォース一人でコイツを撃退したんだからな」


 「ほう……ソイツはすげえな。なら今度も王がこっちに出っ張ってくれないのか?」


 「王の仕事は軍事以外もたくさんだからな。簡単には出てこないだろうな」


 「フン、国の危機なのに王はそれ以外の仕事の方が優先されるのか」


 「そう言うなよアレス。まだ情報は暫定的なんだから。それで、隊長はここに赴任することになったのですか?」


 「ああそうだ。どうやらここの兵士で相手の魔力を吸い取る魔法を使う兵士がいるそうだから、“一人前の兵士になるまで帰るな!”とのご命令だ」


 僕はそれを聞いて顔をあげた。圧倒的な力を持つ隊長が僕のために特訓をつけてくれると言っているのだ、これに乗らない手はない。立ち上がってザクレイに元気よく自己紹介した。


 「あの! 僕はロード、その魔法を使う兵士です!」


 「お、お前がか? こんな小さい子供に重要な仕事を任せるのは気が進まないが、軍において命令は絶対だ。よしっ、それじゃあ早速ここから移動するぞ! 特訓開始だ!」


 ザクレイは事が決まると、歓迎会を中止してまで町の外に僕たちを連れだした。


 草原の中、僕はザクレイと対峙した。これから強くなるという高揚感とザクレイに自分の実力を早く見せたいという思いが強くなっている。


 緊張が張り巡る中、僕とザクレイとの特訓が幕を開けた。


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