ロードとメリナの死闘
「雷迅石光」
黒い雷が両腕から放電して、その身に雷を宿した魔人が刃のように鋭い爪で攻撃する。
左右に飛びのいて初撃を回避することができたが、魔人は姿勢を崩した僕に狙いを定めて執拗に攻撃を仕掛けてくる。
なんとか態勢を整えて全ての神経を集中させても、攻撃を避けることが精一杯で反撃することができない。体力が徐々に減ってきてあの爪が僕を捕えるのは時間の問題だ。
「オラどうしたあッ!? 逃げてばかりじゃ百年経っても俺には勝てねえぞ!!」
マズい! 本当にマズい! このままじゃ確実に殺される! メリナに助けを求めようにも今は声が出せない。どうせやられるなら、僕の全部をぶつけて一か八かに賭けてみるしかない。
「えーい! これでもくらえええ!!」
振り返って僕の魔法を魔人にぶつけた。だが、やはり思っていた通り、僕の魔法は魔人の体に触れる前に僕自身が吹き飛ばされた。勢いよく地面を転がってようやく止まったと思いきや、体の至る所が骨折しているのか指一本ピクリとも動かせない。
「まずは一人。次はお前だ」
僕を倒した魔人は次はメリナに狙いを定めた。
「仲間を見捨ててさっきからコソコソ何をしてやがった? 圧倒的な力の前には小細工なんて通用しないがな」
「新しい魔法の準備をしていたのよ。まだ習得して間もないから時間がかかってしまったけど、この魔法ならお前を倒せるわ!」
「クックックっ、お前たち雑魚の人間の魔法が俺らに通用するわけないだろ。せっかくだ、死ぬ前の褒美にお前のその魔法とやらを見せてみろ」
「いいの? 後で後悔するんじゃないわよ 幻影を追う亡者」
メリナが魔法を唱えると地面に出現した魔法陣から白い煙が噴き出して周囲を覆った。
「一歩先でさえ見えないな。フン、所詮目くらまし程度の魔法か。不意打ちで俺に勝てると思ったか!? 甘いぞ!」
魔人は煙に紛れた不意打ちを警戒することなく煙の中へと斬り込んでいった。
目が全く役に立たない状況下であれば嗅覚や聴覚が過敏になる。魔物の類の者たちは、視覚・聴覚・嗅覚が人間の倍以上であるため、この見えない中でも魔人の体をメリナのもとへと容易に運んだ。
「感じたぞ! そこだッ!!」
「グッ……」
メリナは突如現れた魔人に反応することができなかった。体を横に真っ二つにされて地面に崩れ落ちた。
だが、死んだはずのメリナの肉体が煙となって消えていった。そればかりか次々とメリナの姿をしたものが剣を持って魔人に斬りかかる。
「そういうことか。コイツらは魔法で作られた偽物で、本物はどこか安全な場所にいる。つまり、奴は煙の外で見物してるわけだ」
煙のメリナを相手にしながら魔人はこの魔法を分析し終えていた。だから、魔人は煙の外で魔法を操っている本物のメリナを殺すため、ここから抜け出す必要があった。
「数でおせば勝てると思ったか? こんなもの魔法ごと消し飛ばしてやる!」
魔人は両手を地面に突き刺すと、地面から黒い雷が湧きだしてその数は次第に多くなって一つの大きな塊になった。
「ラウンドスパークッ!!」
魔法を唱えた瞬間、塊は急激に膨張して爆発した。
巨大な雷が辺り一帯に連続して落ちたような衝撃が地面を破壊して空を黒く塗り替えた。メリナの魔法など軽々と消し去って、周囲には陥没した地面と草木が焼けた匂いしかなかった。
「しまったな、加減するのをミスっちまったぜ。ミンチ肉にしてやろうと思ったのに骨も残ってねーや。まあやってしまったことは仕方ない、次はあの誘拐したカスの番だ。おーい! お前の仲間を殺したぞー! 今すぐ出てきて俺と戦え!!」
魔人は気を取り直して空に向かって叫んだ。しかし、リードからの反応はない。
一向に出てこないリードに痺れをきらしていると背中に違和感を覚えた。何かと思って振り返ると、そこには魔法を使って自身の体に触れているロードの姿があった。
「なッ!? お前はさっき殺したはずじゃ!?」
「くらえええええ!!」
不覚を取った魔人は反撃しようと右手を振りかざすも、ロードの魔法が全身を覆う方が早かった。
「マズい力が抜けていく、一刻も早くここを出なければ」
急激に力を失っていく魔人は暴れて魔法陣を振り払おうとした。しかし、既に魔法陣は魔人の体をガッシリと捕らえているので、抜け出すのは不可能に近い。
「クソがあああ!! 俺が、俺がこんなところでぇええええ!!」
暴れ叫んでいる魔人を尻目に、僕はメリナのところへ歩いて行った。
「やったね、成功したね! アイツ、メリナの魔法のこと勘違いしたよ!」
「ええ、私の幻影を追う亡者の本当の力は、煙の中に入った者を勘違いさせることよ。あの中では思い込みや自分の考えをした風にその現象が実態となって現れるから、時間が経つにつれて勘違いが大きくなって隙も大きくなるわ」
だから、魔人は思い込みであの偽物のメリナたちを見ていたことになる。思い込みの力が現実となって引き起こされるのはとても厄介で、今ならメリナ一人でも魔人と互角にやっていけるだろう。
「ちょっとロードっ! 魔人がどこかへ逃げてしまっているわ!!」
「えっ!? わっ、本当だ! どうしよう早く見つけなきゃ!」
勝利を確信していたので、僕はついつい魔人から目を放してしまった。その隙に魔人が逃げ出して、気づいた頃にはすっかり姿を消していた。
「クソー、思い込みでもう倒しちゃってる思ってたよ……」
「そこが修正点だなお前は、それとメリナはよくやった。時間はかかったが、しっかりと奴を術中に引きこんだ手際は見事だった。これからももっと練習に励めよ」
「ああ~僕も褒めて褒めてー!」
「おーよしよし、頑張った頑張った」
「えへへーありがと」
魔人を逃がしてしまったことは痛手だったけど、あの傷ならすぐに他の兵士にやられると思う。それに、今日は兄さんに久しぶりに褒めてもらったから、魔人を見逃した大失態なんかスッカリ忘れて気分よく宿舎に戻っていった。
一方、ロードから寸での所で逃げ出すことができた魔人は足を引きずりながら森を歩いていた。
「クソっ、あのガキのせいでこんなになっちまった。早く何か食って力を取り戻さないと……」
力の大部分を失ってしまった魔人は早くに力を取り戻さないと、兵士以外にも他の魔人たちに襲われて食われるかもしれない。だから、人間でも魔物でも何か口に運ばないと死活問題になる。
食べ物を探しに森をさまよっていると、前方にロードぐらいの背丈の子供が悠々と歩いているのが見えた。
「しめたッ! アイツを食って体力を戻そう! 子供だが少しは腹の足しになるだろう」
そうと決まったら魔人の行動は早く子供を後ろから雷迅石光で首を取りに襲いかかった。
「死ね!」
首を吹き飛ばしたと思い一息つこうとしたが、自分の腕がもぎ取られていることに気がついて魔人は動転して子供の方を見た。
そこには空中に浮かんでいる子供とその周りを漂っている、人の大きさほどある巨大な腕があった。よく見ると、その手には自分のもがれた腕が収まっており、手の甲には漆黒の太陽の紋様があった。
「獣ごときが、何の許しもなく僕に襲いかかろうなど不敬だぞ!!」
「あ、あああああああ……」
その時、魔人は目の前にいる子供の正体に気がついて体中が震えあがった。
「か、カオスの遺子……。どうかお許しください、私はいつものように人間だと思ったのです。貴方様だと知っていれば、攻撃するつもりなどありませんでした」
魔人は許しを乞おうと跪いたが、そのカオスの遺子は目もくれることなく魔人を捻り殺した。
「僕に謝ってどうする? 謝るべき相手は母上だ、そんな基本的なことも忘れてしまったのか……?」
カオスの遺子は悲しそうな目をしていた。大いなる神よりも自分に対して許しを乞いたのが彼には許せなかった。
「ああ偉大なる世界の統治者たる母よ!! 母上の威光が消えて千年、この世界は死んでしまった! だが、母上は死んだ世界にも光を照らしてくださっている、なんと慈悲深いことか! 僕も母上の意思に適うよう献身するので温かく見守ってください!!」
そう言うと、彼は再び歩み始めた。
世界がカオスの遺子の侵入に気づいた時、世界は根底から覆るのである。




