ロードとメリナの特別講習2
少しばかりの休日が終わり、またいつもの日が戻ってきた。
休みの前と後で変わったのは任務を受けることが多くなったことである。毎日、強力で様々な魔法を駆使する魔人を相手に戦い続けるのは骨が折れる。
だが、前にも見たように魔人の大半を討伐しているのは、僕とメリナ以外の三人だった。
だからまた、僕たちは特別講習を受けようと、基地にいるローズの元へやって来ていた。
「ねーえーお願いだからもう一回僕たちに魔法を教えてよぉ」
僕は窓口でガラス越しにお願いした。メリナも同様に頭を下げて懇願した。
「魔人が相手なんでしょ? それは私の専門外というか、対処しきれないから無理よ。だから、他を当たりなさいな」
「でもでも! ウェインとかアレスが言ってることはよく分からないんだもん!」
「でも、本当にこればかりは無理なのよ。力になれなくてごめんなさいね」
「ちょっと待ってください! 私の先月の給料の半分で手打ちにしませんか?」
ローズは唸りながら考えに考えた結果、魅力的でも丁重に断ることにした。
頼れる人に断られたので、僕たちは誰に師事するか、それとも魔導書で独学を極めるべきかの洗濯に迫られた。
「どうするぅ? このままじゃ僕たち任務の途中で死んじゃうよ」
「ええ、ローズもあと少しだったのに……。悔やんでてもしょうがないわ! 次のことを考えましょう!」
「うん! 僕は誰かに教わりたいなー! 魔導書を読むのはめんどくさいからさ~」
「そうね身近な人で言うと……あっ、リードを忘れていたわ! 強くて優しいからお願いしたら教えてくれるかも!」
「兄さんなら絶対教えてくれるよ! そうと決まったら早く行こー!」
思い立ってすぐに僕たちは兄さんのとこへと向かった。最初は面倒事はやりたくないと相手にしてもらえなかったけど、必死の説得により渋々僕たちの師匠として修行に付き合ってもらうことができた。
修行場所はいつもの見回り範囲内にある、背丈が小さい草が生い茂っている一画。ここなら魔物の襲来にもすぐに気がつけるから、長時間運動しても安全だ。
そうして、兄さんは地面に座った僕たちの前に立って修行を始めた。
「強くなりたいんだっけ? めんどいが早く終わらせるか」
「「よろしくお願いいたしまーす!」」
「えっと基本元素と応用元素、どっちも説明は聞いたらしいけど本当か?」
「応用元素はまだ聞いてないわ」
「応用つっても簡単だから、ようは基本となる六大元素を重ね合わせて新たな元素を生み出すことだで、例えばアレスなんかの氷魔法は水と風の元素を組み合わせたものだ」
そんなことだろうと思ったよ。正直、僕の魔法は何の元素から成り立っているのかはわからないけど、メリナは風だから応用元素を学ぶことにあまり意味を見いだせない。
メリナも同じことを思っていたそうで、兄さんに応用元素について学ぶ意味を聞いた。
「おいおい基礎ができたら次は応用に行くなんて学問の基礎だろ。メリナは新しい魔法を習得して、ロードは、ロードは、、、まあ学んどけ」
「なんか僕の理由だけしょぼくない?」
「いいから俺の言うことを聞いてろ、わかったか?」
「う、うん」
無理やりまるめこまれた気がしてならないけど、こちらは教えを乞うている身なので拒否することは難しい。だから、黙って兄さんの言うことを聞くしかない。
兄さんの膨大な知識による授業はとても分かりやすく、メリナはすぐに新たな基本元素の光を習得して応用元素の習得に入った。
順調に学んでいるメリナの傍らで、僕は基本元素を一つも習得できずにやる気を失ったことから木の枝で地面に絵をかいていた。
「ふん! いいもん、僕は何も覚えられなくても戦えるもん!」
「お前から頼んできたんだから真面目にやれよ。メリナをもっと見習え」
「ふえええええええん!! だ、だっていくら頑張っても元素を習得できないんだもーん!」
「泣いたって変化は起きないぞー。強くなりたいなら自分の魔法をもっと知らないと」
「ギィイイイイイイイイ!!!」
「ダメだこりゃ。おいメリナ、ちょっとロードを見てやってくれないか? 俺はアイツのためにちょっとした準備をするから」
「ええわかったわ。おーよしよしそんなに泣かないで、ぎゅってしてあげる」
メリナは泣いている僕を腕で抱きよせてあやしてくれた。兄さんの塩対応とは大きな違いだ。
だいぶ落ち着いてきたところで兄さんが帰ってきた。準備をすると言っていたから何か持ってくるものだと思っていたけど、兄さんは手ぶらで何も持っていない。これじゃ何をしに行ったのか意味がないじゃないか!
「手ぶらで帰ってきて僕に何をしてくれるの? 何もできないと思うけどね!」
目もあわせないのかコイツ…。不貞腐しやがって、最近はちょっとは成長したと思っていたが、この様子じゃまだまだダメだな。成長するには試練が必要だ。どれ、少し喝を入れてやるか。
「そう怒るなよロード。俺もお前の魔法がどんな元素で成り立っているかわからないんだよ。だから、強くなる方法は実戦を積んでいくことしかないと思ったんだ」
「でも、それじゃあ僕に直接教えることは無いって言ってるのと同じだよ」
「知らないことを教えられるほど俺は頭がいいわけではないからな。代わりにお前の特別講師を連れてきた。ほらっ、特別講師の魔人さんだ!」
そう言うと、兄さんは空間魔法で捕らえてきた魔人を僕たちの前に放り出した。
すぐ目前にいる魔人を見て、僕たちは驚いて襲われないように距離を取った。しかし、魔人は兄さんの魔法で拘束されていて身動きが取れないようだった。
「コイツはさっき俺が見つけてきた魔人だ。見ての通り強そうだが、お前たちにはコイツと戦ってもらう」
「「ええーッ!!!」」
僕たちは一斉に声を荒げた。
そんなの無理だ。第一、魔人相手にはチームの中でも指折りの実力者が活躍してくれるおかげで勝てるのであって、僕たち下位のメンバー二人では到底かなう敵ではないからだ。
「無理無理! 私たち二人だけじゃ絶対無理よ!!」
「つべこべ言うな。そら行くぞ、3・2・1始めィッ!!」
兄さんの言葉と共に魔法が解かれて、魔人が地上に解き放たれて自由の身となった。僕たちはすぐに魔人から離れて相手の出方を窺うが、魔人は兄さんを目視すると咆哮をあげて襲い掛かった。
「おっとあぶねえ。あいにくだがお前の相手は俺じゃない」
兄さんは魔人の攻撃を空間魔法で作りだした空間の中に入ってやり過ごした。
「うるせえ! 俺はてめえをぶっ殺さねえと気が収まらねえんだ!! そこからとっとと出てこいっ!!」
「そこの二人に勝てたらな。俺はどっちかが勝つまで出てこないから後は頼んだ!」
「ちょっと! 僕たちを置いてかないでよ!!」
呼び止めようにも兄さんの姿は空間が閉じるとどこかへ消えてしまったので、今更どうすることもできない。
僕たちは再び魔人に目をやる。魔人は両腕が異常なほど大きな刃のように発達しており、さっき兄さんには避けられていたけど、その威力は地面にクッキリと現れている。
「アイツの言い方からすれば、俺はどうやらお前たちの練習相手として連れてこられたのか……」
魔人は兄さんが言っていた情報をもとに、今自身が置かれている状況を瞬時に理解した。そしてそれは、自尊心が高い魔人を怒らせるのには十分であった。
「クソがあぁああああ!! 人間の分際で俺をコマ扱いするだと!? 許せねえ! 俺を連れてきたアイツも、その理由を作ったお前らも、ぐちゃぐちゃのミンチ肉にしてやる!!」
「来るよメリナ!」
未だ緊張がほぐれない間に、激情した魔人が僕たちに襲いかかった。




