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カオスの遺子   作者: 浜口耕平
第一部 エルマの町編 カオスの遺子
15/43

今を楽しむ大切さ

 休日は三日目に入った。


 今日の予定はアレスとメリナと遊ぶことだったけど、新しい友達と遊ぶために僕は二人との約束をキャンセルして宿舎を出た。


 急に約束を反故にされたアレスとメリナは、互いに予定が狂ってしまってソファに一言も言葉を酌み交わさずに座っていた。


 二人の仲が最悪というわけでない。単に会話をするための話題がないだけである。


 えもいわれぬ静寂した雰囲気のもと、アレスがついに口を開いた。


 「なあメリナ、あの自分勝手なおチビちゃんのことどう思う? ドタキャンはねぇわよな」


 「あの子も新しい友達ができて嬉しいのよ。少しは見守ってあげたらいいのに」


 「ダメダメ、アイツは社会の常識をわかっちゃいねぇ! 帰ってきたら俺がたっぷり社会の怖さを教えてやる!」


 「フフフ、アナタが社会の常識を知っていたことに驚いたわ」


 「そこまで馬鹿と思ってたのか? ひでぇ女だ」


 「さあどうかしらね。それよりこれからどうする? 今この家には私たち以外みんな出払っているし、予定もなくなってしまったから暇よ」


 「うーん、俺とヤるか?」


 アレスは立ちあがって上着を脱ぎながらメリナに近づこうとするが、メリナは唐突な誘いに動揺して距離を取った。


 「ちょ、ちょっと待ってよ! いくらなんでもいきなり過ぎでしょ!! それに私はまだ十七だから、そんなことしたら捕まっちゃうわよ!」


 「はぁ? なに堅ぇこと言ってんだよ、そんな法律誰も気にしてねぇって。アイツらが帰ってくるまでにサクッと終わらせようぜ」


 「いいや結構よ。ついでだから貴族だった私が風魔法を少し使えるようになった理由を教えてあげる。お母様が私に自分の身を守れるようにと教えてくれたのよ。それ以上近づいたらアナタの大事な部分が無くなるけど、それでもいいの?」


 「ちぇーノリ悪ぃ。萎えちまったよモジャモジャのもじょもじょのくせに」


 脱いだ服をもう一度着た後、自室に戻って寝ようとしたところ、メリナから一緒に町に出かける程度ならいいと打診され、アレスはそれを受け入れた。


 二人は宿舎を出てから食料を買い込んで公園にピクニックしに来た。


 マットを置いて靴を脱いで座って茶色い紙袋からサンドイッチを取り出して口に運ぶ。


 「リードのよりは味が悪いな」


 「そうね、ゲテモノしか作れないアナタよりマシだけど」


 「俺は兵士だぞ。兵士に料理のスキルなんか求められていねぇ」


 「そうは言ってもアナタが料理できないせいで、毎日の食事は私とリードとウェインの三人で回してるのよ。五人分の食事を作るのは大変なんだから」


 「作ったことないからそんなの分かんねぇな」


 「はあ……アナタって本当に力と勇気しかないのね」


 「俺には復讐のためにそれが必要だからな」


 二人が話していると、どこからかボールが飛んできてアレスの頭に直撃した。


 「イテっ! おいどこのクソガキだッ!?」

  

 アレスは転がったボールを拾い上げて、ボールが飛んできた方を睨んだ。そこにはロードと奥の方にロードの友達がいた。


 「なんだアレスじゃん、他の人にぶつかっていたらどうなるかと思ったよ。よかったよかった~」


 もし怖い人にあたっていたら嫌だなと思っていたけど、アレスだったので僕はホッとした。


 だけど、アレスの怒りはまだ収まってないようで、両手で僕の頭を掴んでグリグリしてくる。


 「痛い痛い! 謝るからやめてよアレス」


 「やめてあげなさいよ。ロードも反省してるわ」


 「……わかったよ。おいロード、もっと離れたところで遊べ。今度当てたらただじゃおかねぇぞ」


 「うん! 心に留めておくよ! じゃあねみんなが待ってるから!」


 アレスからボールを受け取ったロードは、元気に友達の元へと走っていった。


 メリナはロードが同年代の友達を楽しく遊んでいることに喜んでいた。


 実家にいた時は家の教えで学校に通えず友達を作ることができなかったが、一人の従者を姉として尊敬し愛していた。ロード達を見るメリナの目には、過去の姉との楽しい時間が映っていた。


 「なに呆けてやがる。いいことでも思い出したか?」


 「ええ、とても楽しかった日々をね。これも人間の性と言うのかしら、失った過去が今になってこれほど輝いて見えるのは……」


 現在の時を生きているのに私は未だに過去に囚われている。今私が最も恋しく思うのは、貴族として豪華な屋敷と宝石に囲まれ、みんなが私にかしずく生活ではなく、市民に落とされた後の、母クラリスと姉ロゼと三人で楽しく生活していた三年間だ。


 もしあの時に戻れるなら、私は迷わず戻ることを選択するだろう。しかし、今の生活も非常に楽しいものだから、戻った時に心残りをしてしまったらと考えてもしまう。何だろうこの気持ち……上手く言葉にできない。


 「そんなこと考えても無駄だぞ。人間はみんな過去の積み重ねで生きてるんだ、過去に囚われていねぇ人間なんて存在しない。過去に戻れないなら今を大切にして過去にしてしまえばいい。そうすれば人生は充実した過去と現在、はては未来を持つことができる!」


 アレスの語った、“時は不可逆な因果律に従い、全ての事象はやがて過去となる”の人生哲学は、メリナを感化させるには十分な力を持っていた。


 「アナタがいつも楽しそうなのはそういうことね。私も今理解できたわ!」


 メリナはその時から今を楽しむことを大切にしようと決めた。領主として返り咲くという遠い目標でも、今を大切にすればきっとたどり着けるとメリナは確信した。


 「お前も今の大切さがようやくわかったか。今が楽しかったら過去のことも振り替えずにすむし、ささいなことも忘れらるからな!」


 「あ、あぶなーい!」


 アレスは立ち上がって現在の大切さをメリナに語っていると、またボールが頭に飛んできた。


 頭に直撃した後、数秒の間アレスは黙ったままで落ちたボールを見つめていた。


 「あ、アレス?」

  

 メリナはアレスが嵐の前の静けさのような雰囲気を漂わせていることに感づいた。すると、遠くからまたロードがボールを拾いに近づいてきた。


 「ごめんねー! シールがまた変なとこに投げたんだよ! じゃあボール返して~」


 「うがああああ!! このクソガキがぁあああ! 何回言ったら分かんだボケ!」


 アレスは噴火したように怒りを爆発させて、ロードに襲いかかった。


 「うわああああああああ!!」


 ロードも逃げ出して二人の鬼ごっこが始まった。


 「なによ、アナタもまだ過去に囚われているのね」


 メリナは公園中を駆け巡る二人を見てそう言った後、町内兵士が間に入るまでずっと笑っていた。

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