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カオスの遺子   作者: 浜口耕平
第一部 エルマの町編 カオスの遺子
14/43

旅人と意志

 大型連休初日の朝、僕は昨日考えた予定を実行するべく兄さんの部屋にいた。


 「起きてよ~! 今日は兄さんと遊ぶんだからぁー!」


 「んーっ、せっかくの休みなんだから寝させろよ~」

 

 「ダメダメっ!! 一緒に遊ぶのー!」


 なあなあに答えるだけで起きようとしない兄さんの上に体を乗せて顔にへばりついた。


 「ううぅ!」と駄々をこねて兄さんに相手してもらおうと努力する。だけど、兄さんは一筋縄ではいかない。


 「重いぞロード。今日は俺じゃなくてアレスとか他の奴と遊べよ」


 覇気のない声で言いながら、両手で顔から僕を引きはがして自身の腹の上に座らせる。眠気におそわれて老人のようにしぼんだ顔をしている兄さんはとても面白い。


 「あはははは! 兄さんの顔スゴく面白いことになってるよ!」


 「俺の顔のことなんて今はどうでもいいんだよ。さっきから言っている通り俺は眠いんだ。だから、お前とは遊べない他の奴に頼め」

 

 「えーだって、ウェインはこの通り爆睡してるし、メリナとアレスは三日目に一緒に遊ぶことになってるから今日は遊ばないんだ」


 「だったら俺もこの休みは予定があるからお前とは遊べないな」


 「んもうー! 僕が誘わなかったら兄さん、ずっと寝ているつもりでしょ!?」


 「うん、それが俺の予定だもの。今日は一人で町に出かけてみたらどうだ? 昼間と夜では町の景色も変わって見えるだろうし、年頃の友達も見つかるかもしれん」


 「うーん一人で町に行くのはいいけど、友達か……」


 あの時のトラウマが蘇るも、一物の不安を抱えて僕は町へと駆り出した。


 兄さんの言っていた通り、町の雰囲気は昼と夜では別世界だった。夜は人肌が恋しくなるほどには人の出入りが少ないのだけど、昼は人と物が大量に行きかって、その様子は王都で見た活気にも負けない勢いがある。


 人混みにまみれないように気を配りながら、まだ行ったことのない東地区に足を運ぶ。


 ここには大きな公園とおもちゃ屋が多くあって、町の子供が大勢集まって来る。人形遊びやフリスビー、はては爆竹など子供たちは持っているおもちゃで楽しそうに遊んでいる。


 楽しそうに遊んでいる子供たちを見ていて僕も興味が湧いてきた。僕もまざって遊びたくなって、公園にいたフリスビーで遊んでいる四人組の男子たちに声をかけようと近づいた。


 「ね、ねえ僕も一緒にまぜてくれない?」


 勇気を振り絞って一人の男子に声をかけると、その男子は振り向いて僕の方を見た。


 「誰お前? お前なんか呼んだ記憶ないんだけど」


 「そ、そうだけど見ていて楽しそうだなぁって。だからまぜて欲しいんだけど」


 「無理。もう人は足りてるんだよ、一人で遊びたいなら家に帰ったらどうだ?」


 「そ、そう……わかったよ」

 

 男子の反応は残酷なほど冷たかった。コリンの時とは違う、また別の種類のトラウマが僕の心を締め付けた。


 その場から立ち去った後、僕は誰もいない木の傍で顔を埋めて泣きだした。


 「ヒクっ、ヒクっ、ヒクっ! ふぇええええん! あああああああ!」


 視界がぼやけるほど泣いたのはコリンの墓の前で泣いた時以来だ。


 これは骨折するほどの痛みや体を貫く痛みよりも痛い。誰にも慰めてもらえない疎外感と虚しさはあらゆる激痛を遥かに凌駕して、僕の精神と体に深刻なダメージを残した。


 ひとしきり泣いて落ち着きを取り戻してきた頃、僕は目の前に女性がいることに初めて気がついた。


 涙を拭うと顔を全体を隠すほど大きなローブを着ている女性の姿がハッキリと見て取れた。


 「ああ可哀想に、群れから逃げ出した羊が物陰で泣いているのを誰も気にも留めないなんて」


 「うぐっ、おばさん誰?」


 「私はただの旅人。世界中を練り歩いて紙芝居をみんなに聞かせてあげている者だ。坊やも一つ少女の話を聞いて行くかい?」


 「うん」


 「それじゃ始めよう、“星になった少女”の物語を」

 

 旅人はローブの中から紙芝居の道具を取り出して最初のページを開いた。


 「どこかわからない場所で少女は膝を抱えて泣いていた。かつて少女には父と母がいたが、二人はふとした時から見えなくなった。

  

  見えなくなった理由は少女には分からないが、自分が今ここにいる場所が自室であることは知っている。


  両親の不和、人間関係の崩壊、自信の喪失……何も成し遂げられなかった少女は外界との一切の関係を断った。


 どれくらい時が経ったのだろうか? 周りの世界は闇に包まれていた。


  『ママ、パパどこにいるの!?』 彼女はそう叫んだ。


  返事がない両親を探しに行こうと立ち上がった。しかし、少女の一歩先には永遠の闇が広がっていて踏み出す勇気が出てこない。


  少女はまた膝をついて塞ぎこんだ。


  『ママもパパも、みんな私のことを忘れてしまったの?』 時が経つにつれて、自ら捨てたはずの孤独を強く求めるようになった。


  少女はその時これまで自分がしてきたことを深く後悔した。そして、誰もいない虚空に向かって助けを求めた。


  『私はなんてことをしてしまったの……。ああ誰か、この私の手を取ってこの闇から助けて』


  声は闇に消え、また静寂が辺りを包み込む。少女は暗闇に囚われまいと手をばたつかせて抗った。


  すると、闇に手が触れた部分が明るい光に変わっていた。


  『光が……どうして?』 少女は戸惑っていたが、光が照らしだした黄金の花をとても美しいと思った。そして、闇が隠している世界がいかに美しいのか好奇心が少女の体を動かした。


  辺りを一通り見て回ると、少女は黄金の花畑の中にいることに気がついた。


  『ああ、なんて美しい世界なの! きっとあの闇の中にも素晴らしい世界が広がっているはずだわ!!』 少女は未だ見ぬ世界に思いを馳せながら闇に向かって走りだした。


  光が世界を照らしたのは、宝石の都、炎の国、氷の大地、砂の川、そしてそこに住む美しい生き物たち。


  少女はついに世界から闇を取り払った。世界を見た少女は今までにない自信に満ちあふれていた。


  『素晴らしい世界だわ! あの太陽と同じく私は全てを照らす存在になったのだわ!』


  こうして、少女は世界を照らす星になった。                   おしまい」


 僕は気がつくとその話に魅入っていた。


 少女が最初と最後で全く違う印象を受けた。そして、少女に親近感を覚えて、今の僕と少女を重ね合わせた。


 「僕も星になれるかな?」


 「さあ? やってみないと分からない。だが、今のお前は重要な岐路にいる。勇気を出せば素晴らしいものが手に入るかもしれないが、それを失ってしまうことへの恐怖がお前を惑わせている」


 旅人には僕の考えや悩みが筒抜けのようだ。そこまでわかるのならと、これから僕はどうすればいいのか旅人に尋ねた。


 「それは私が決めることではない。お前の“意志”で決めるのだ」


 そう言い残すと、旅人は僕の前から去っていった。


 「僕の意思か……。そう言えば兵士になると決めた時も、僕が自分の意思で言い出したことだったっけ」


 そうだ僕を今苦しめてるのはさっきの男子たちの言葉ではない。今苦しんでいるのは自分の意思に迷いがあり、それに窓割れているからだ。


 意志がハッキリしていれば、何事にも惑わされず自分のやりたいことを実行できる大きな力となる。かつて僕が兵士になったように。今必要なのは恐れないで前に進む僕の意思だけだ。

 

 そう思いたった僕は、もう一度誰かに声を掛けようと立ち上がった。


 先ほどの所に戻ってきて、ふと僕の目に三人でボール遊びをしている同年代の男子たちが飛び込んできた。

  

 僕は勇気を出して彼らに話しかけた。


 「僕も一緒に遊びたいんだけど仲間に入れてくれない?」


 「別にいいぞ。お前らもいいよな?」


 「ああ構わないね」

 

 「うん。ボール遊びは偶数でやるから楽しいんだ」


 この前みたく拒否されるかと心配してたけど、彼らは暖かく僕を向かい入れて一緒にボール遊びをしてくれた。


 彼らとの遊びは、コリンと一緒に遊んだ以来のとても充実した時間だった。

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