リードの実力
今日は通常の見回りとは違い、コルカスたちと賭けの勝負をするために任務を危険な任務を受けることになった。
目的地の廃村へと向かう道中、ウェインは軍に寄せられた魔人の情報をみんなと共有した。
一か月ほど前からこの周辺で人々が行方不明になっているらしい。
報告を受けた軍が町内兵士を偵察のために派遣した結果、誰一人戻ってこなかったそうだ。そうした状況の中で、事態を重く受け止めた軍は戦闘経験豊富なコルカスたちに元凶を殺すよう命令した。
僕は説明を聞いて敵の恐ろしさに身震いしたけど、アレスとメリナは昨日の雪辱を晴らすべく闘志に満ちていた。
「偵察に行った人々がやられたとなると大分厄介な相手だな。コルカスめ、爆弾を押しつけやがって」
「そんなに強い相手なの?」
「俺の経験からするとな。そんな顔をするなロード。勝てるさ誰一人欠けることなくな」
そうしている間に、目的地の廃村が見えてきた。
ウェインの指示に従って陣形を取り、村に入るとできるだけ家屋から距離をとるように仲を練り歩く。
「いたっ!」
僕たちは村の中央で、布が人の形をしたような魔物を見つけた。おそらくあれが報告にあった魔人だろう、いささか普通の魔物の雰囲気とは一線を画した不気味さがある。
「予定通りの配置につけ!」
号令がかかると、2-2-1の五角形に分かれた。
「まずは様子見だ。オメガブラスト!!」
オメガブラストが進行方向の全てを氷解させながら、魔人に向かっていく。
しかし、やはりというべきか魔人には届かなかった。魔人はその布のような体を回転させて、アレスのオメガブラストを正面から粉砕した。
「風魔法だ。お前たち奴の遠距離攻撃には気をつけろよ。アレス、お前はロードを守りながら俺の後をついてこい。リードとメリナは後方から遠距離で奴の気をそらせ。最後にロード、お前は俺たちが奴の動きを止めたら、一気にとどめをさしに行け」
相手の魔法を瞬時に見極めたウェインはすぐさま支持を出して、一番危険な殿として魔人に近づいて行かなければならない。
「また人間かいつまでも懲りない奴らだ。わざわざ俺の飯になりに来たのか?」
「そんなわけないだろ化け物。お前はここで死ぬんだ」
「くっくっく! 五人いれば勝てると思ってるのか? いいだろう、圧倒的な力の差を見せてやる!」
魔人は体を高速回転して周囲に小さな竜巻をいくつも発生させ、それを動かして攻撃してくる。
竜巻はその大きさに反して一つ一つが家屋を粉々にする破壊力を持っていて、近づきすぎると強力な引力で体ごと引きずられる。
こういう近づきにくい相手にはウェインの魔法が効果的だ。
ウェインの魔法は物体を生成することが得意な土魔法だ。土人形や土岩壁などの魔法で相手の攻撃を防ぐなど、驚異的な防御力を発揮する。
土岩壁でみんなを竜巻から守りながら、ウェイン自身は自分の体を黒土の鎧で武装して、魔人の回転に真っ向からぶつかる。
両者の魔法が激しくぶつかり合い、周りには砂の渦が立ち込めて迂闊に手を出すことはできない。互いの力は拮抗しているように思われたが、徐々にウェインの黒土の鎧に小さなヒビが入るようになった。
次の瞬間、爆発音のような音と共にウェインが渦の中から飛び出してきた。
僕はウェインの姿を見て叫んだ。崩れた黒土の鎧から見える右腕が赤い鮮血で染まっていたからである。
布の魔人は回転を止めて、ウェインの様態を確認すると不敵な笑みを浮かべた。
「フハハハハハ! その程度の力しか持ってないのか!? よくそれで勝てると思ったな」
「お前こそたった一人の右腕を潰したぐらいで勝ち誇るな、無様だぞ、それに腕だってこうやって止血して魔法で覆えば」
ウェインはものの数秒で大怪我を負った右腕の応急処置を施した。
さてどうしたものか……。右腕は切断されていないにしろ、これ以上戦いで使うことはできない。それに、俺の黒土の鎧の防御力でさえ奴の回転を止められないとすると、俺たちには奴の動きを止める手段がないということだ。
追い込まれた状況の中、ウェインは次なる一手を繰り出すため、布の魔人の攻撃を避けながらその機会を窺っていた。
さっきの攻防の中でわかったことは二つ。一つ目は奴の回転は半径数メートルの中に入ると、そこからは簡単には抜け出せないほど風の引力が高くなるということ。二つ目は奴の回転が右回転だということだ。
「ダメだ。どう考えても奴の本体を攻撃する方法が見つからねえ」
まるで大きな台風と戦っているような錯覚を覚えるまでに、魔人の力は想像を超えるものだった。
「遠距離も近距離もダメか」と打つ手なしの状況に途方に暮れていると、味方に自分以上の実力を秘めている人間がいるのを思い出した。
「おいリード! お前も前に来て戦え!」
そう、ウェインの思う相手は兄さんだった。
兄さんは回復魔法に空間魔法などの高度な魔法を使いこなせる、このチームの隠れた実力者だ。
「それで俺がアイツの相手をしろと」
「今の俺たちに奴の回転を止められる方法はない。だから、お前の力が必要だ」
「………なるほどわかった、お前の言うことを聞いてやる。全員少し下がって見ていろ」
僕たちは兄さんの言葉通りに二人から距離を取った。兄さんは空間から武器となる槍を引っ張り出してきた。
「ねえロード、リードの戦いって見たことある?」
「いいや今日が初めてだよ」
「だよなあ、いつも俺たちが戦っている時でも、アイツはずっと傍で見ているだけだからな。あんなので給料もらえるなら俺もそうしたいぜ」
僕たちは今日初めて兄さんの戦いを見れることに興奮していた。
あの槍でどうするんだろう? どんなスゴイ戦いを繰り広げるんだろう? などとアレスたちと予想したりして楽しみにしていると、「戦闘中だぞ! はしゃいでないで静かに見ていろ!!」とウェインに初めて怒られた。
そんな和やかな様子を見て、リードは深いため息をこぼした。
「ったく、子供は呑気で羨ましいな」
「今度の相手はお前か? ククク、さっきの人間たちよりは歯ごたえがありそうだな」
「本当はお前なんか相手したくないんだぞ俺は。ずっと傍で見ていた方が楽しいからなぁ~」
「なら何故俺の前に立つ? あのカスどもの言うことなんか聞かなくていいだろうに」
「ふーむ、それはそうなんだが。お前を殺せば一週間休みが貰えるようだから黙って殺されてくれ」
兄さんの戦う理由を聞いた布の魔人は烈火のごとく怒りだした。
「なめるのもたいがいにしろよクソ人間!! 黙って殺されると思ってるならやってみろッ!」
布の魔人は今までにないほど高速に回転し始めた。魔人を中心にできた竜巻は威力と範囲が拡大し続け村を丸ごと巻き込みそうな勢いだ。
「マズいわよこれは! 早く逃げないと私たちも巻き込まれるわ!」
「兄さーん!! 早くソイツをやっつけてよ!」
遠くにいる僕たちも、魔人の攻撃に巻き込まれそうでパニックになっていた。
「チッ、うるさいな。じゃあ、とっとと終わらせるか」
兄さんが槍を構えると、槍が赤黒い雷を帯びてバチバチと雷鳴が周囲に響きわたる。
「終焉」
それは一瞬の出来事だった。投擲された槍は轟音を立てながら竜巻の中心へと向かって行き、減速することなく魔人の体を貫いた。
槍が魔人の体を貫いた瞬間、竜巻がやんで眩しい日の光がみんなを照らした。
「ふぅー終わったぞお前ら」
僕たちは兄さんの力がここまでだとは思ってもみなかったので、目を見開いて唖然としていた。
「? おーい終わったって言ってるだろ。返事がないならさっきの槍をお前たちにやろうか?」
その言葉を聞いて、僕たちはすぐに気を取り戻して兄さんの元まで走っていった。
僕とアレスとメリナの三人は兄さんの強さに感動して、「さっきの魔法は何なの?」、「俺にもさっきの教えてくれよ!」、「やっぱり兄さんはスゴイ」などと称賛と質問を嵐のようにぶつけた。
めんどくさい……だから嫌だったんだよな。俺の力を見せればこのガキどもは数日の間は、俺のことを毎日褒め称えたり、強くしてと懇願してくることになることはわかっていた。だが、今日は……。
「これで満足したか? 今度はお前も遊んでないでちゃんと戦えよ」
ウェインは何も言わなかった。
そこから僕たちは討伐した証拠として、布の魔人の死体を持って帰って基地にいたローズさんに預けた。
ローズさんは僕たちの成長ぶりに感激していると同時に無事でよかったと抱きしめてくれた。本当は兄さんしか役に立っていなかったけど。
何はともあれこれで僕たちはコルカスたちとの賭けに勝った。それに、思いがけない副賞が明日から始まる。
兵士になってから初めての大型連休だ。
久しぶりに自由な時間を過ごせるので、僕たちは今夜予定を徹夜して作るつもりだ。




