純血と混血
みんなで実戦に繰り出してから数日が経った。
新たに一人で戦える実力を身に着けた僕とメリナを加えて、順調に仕事が進んでいた。
戦闘に慣れてきたことを祝って、ウェインがみんなに夕食を奢ることになった。
「今日は俺の奢りだ! 好きなだけ食べて飲んでいってくれ」
「いえーい! 食べ放題だぁ!」
「おいこの店の食い物全部持ってこーい!」
僕とアレスは久しぶりの豪華な食事に大はしゃぎしていた。いつもなら、宿舎で配給された少ない食料で済ませていたので、毎日肉が食べたくて飢えていた。
「はしゃぎすぎよ二人とも。少しは落ち着きなさい」
「なに堅ぇこと言ってんだよ! 今夜は祭りだ、騒いだらダメなんて理由はねぇ!」
そう言って、アレスは一本の酒瓶を一気に飲み干した。
「プハーッ! たまんねぇなあ! これだから飲酒はやめられねぇ!」
「ったく、お前の肝臓はスポンジかよ。……おいロード、肉ばかり食べてないで野菜も一緒に食べろ」
「ぎぃっ! んもう分かってるよー! 食べればいいんでしょ食べれば」
楽しく食事をしていると、混血の男たちが話しかけてきた。
「ウェインじゃないか! ついにお前も部下を持つようになったか」
「コルカス……一体何の用だ?」
「冷たい男だな、知り合いがいたら挨拶するなんて世の常識だろ?」
「お前酔っているから近づいて欲しくないんだよ。それに今は新兵たちの歓迎会だ。邪魔するな」
とても強そうなコルカスと呼ばれる男は僕たちを品定めするように見た後、「混血が一人もいないじゃないか。これじゃあ任務も簡単にはいかないだろ?」と僕たち純血の人間を見下す発言をした。
「僕たちは今まで仕事でへまをしたことない! だから、そんなこと言わないでよ!」
「そうよ私たちは強いのよ! 私たちの戦いも見たことないのに勝手なこと言わないで!!」
僕たちは怒りを露にしてコルカスの言葉を真っ向から否定した。
すると、コルカスの横にいた彼より若い男が僕たちをさらに貶める発言を繰り返した。
「見回りの話じゃない。隊長は魔人などの相手をする“任務”の話をしてるんだ。それに、お前らがいくら強くなっても俺たち混血を実力で上回ることは絶対にない。兵士ごっこしてるなら町の中でやれ、俺たちが守ってやるからさ」
「お前らどこの国のもんだ? どうせローデイルだろ? 人ん家まで押しかけて文句を言う奴は俺が許さないぞ」
男の言葉を聞いて、アレスは彼の前に立って両手の指の骨を鳴らしながら詰め寄った。
「そうだ俺たちはローデイルの兵士だ。それに事実を言って何が悪い? お前たちの王も、各地方の隊長も、そこにいるウェインだって実力者は全員混血だ。これがすべてだろ」
「なら、俺が今からお前の理論を壊してやるよ」
両者ヒートアップして、店にいる客もヤレヤレ!とご丁寧にテーブルをどかして喧嘩のリングを作って楽しんでいる。
普段は他国の兵士と喧嘩するのはご法度だけど、今回ばかりはウェインも黙認して二人の動向を見守る。
「フン、カスが俺に敵うとでも思ってるのか」
「お前らキメラと魔物と何が違うんだ?」
するといきなり、男の拳がアレスの顔面に飛んだ。
もろにくらってしまい、鼻血がドバドバと流れてくる。しかし、アレスはそんなこと気にせず男の顔を全力で殴った。
男は少しよろめいたがまた一発アレスの顔を下から殴った。それから、両者は互いに一発ずつ顔を殴り合いどちらが先に倒れるかというチキンレースの様相を呈すようになった。
「ハハハハハ! やっちまえガロン!」
コルカスも二人の喧嘩を見て楽しそうに飲んだくれている。
ここには二人の喧嘩を止めるものは誰もいない。みんなスポーツを見るかのように熱狂して二人を取り囲んでいる。
お互い数十発の拳を受けてなお、一歩も下がる気配はない。誰だか判別できないほど腫れあがった顔はこれ以上見ていられない。
そして、ついに決着の時は来た。
ガロンが放った拳がアレスを地面に叩き伏せ、観客からは両者を讃える歓声が上がった。
僕たちはアレスの無残な姿と混血による純血の敗北を目の当たりにして悲しくて呆然と見ていた。
「決まったなウェイン。これで俺たちの方が強いってわけだ」
「そうだな第一ラウンドはお前たちの勝ちだ。だが、まだ勝負は決まってない。お前たちが受けている任務をこっちによこせ! そこで俺たちが強敵にも勝てるチームだってことを見せてやる!」
「クククっ、いいぜお前の案に乗ってやるよ。お前たちが一人も死なないで任務をこなせたなら、俺たちローデイルが一週間お前たちの仕事をやってあげてもいいぞ!!」
「二言はなしだぞ」
「ああ二言はなしだ。それじゃあまた今度な、いくぞガロン」
コルカスはウェインと口約束をすると、ガロンを連れて店を後にした。
「アレス大丈夫!? 兄さん早く見てあげて」
倒れているアレスの怪我を治して、まだ目が責めないまま宿舎に運んだ。
目が覚めたアレスは枕を顔にあてて泣いていた。よほど悔しいのか窒息しそうなほど強く押しあてている。
「グソーっ、あと少しだったのにぃいい……」
普段はアレスが泣いているのを見たら僕もメリナも煽り散らかすのだけど、今は二人でアレスをつきっきりで看病している。
「泣かないで、アレスは頑張ったよ」
「泣いてねぇし! お前らどっか行け!」
「もうせっかく慰めてあげようと思ったのにぃ! もう知らない!」
せっかく看病してあげたのに毛嫌いされるのは心外だ。そこまで言うなら望み通り僕は出ていく。
「もう少し素直になったら? あの子はアナタのために心配してくれたのよ」
「お前も出てけ傷はもう癒えた」
「そうもいかないでしょ。それに今はアナタに感謝してるのよ。あの時、私は言葉で反論しても空虚なものだと思っていた、頭のどこかで彼らの方がより兵士として優れていると考えていた。でも、アナタがあそこまで対等に戦っているのを見て、私もやればできると自信を持てたわ。ありがとう」
メリナはロードのベッドに腰かけて、心から感謝の言葉を伝えた。アレスはそれを聞いて声を出して笑った。
「俺は負けたんだぜ? 敗北に何の意味がある?」
「勝負に負けたことは重要ではないわ。大切なのは状況を変えようと立ち上がったことよ。例え今日負けたとしても、明日勝てばいい。明日負けたのなら、次の日勝てばいい。戦い続ける限り負けることはないわ」
アレスは枕を胸において横目にメリナを見た時、いつもの彼女とは全く異なる印象を受けた。
強く、優しく、穏やかな様はかつて大事に育ててくれた自身の母と重なる。
メリナに母の面影を見たアレスはまた笑った、今度はより大きく楽しそうに笑った。
「お前がここまで良い奴だと思わなかったぜ」
「何を言ってるの、多くの人はアナタよりも良いひとよ」
「フフ、そうか?」
「ええ」
その後も、犬猿の仲だった二人はロードが戻って来るまで楽しく談笑していた。




