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カオスの遺子   作者: 浜口耕平
第一部 エルマの町編 カオスの遺子
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災厄の敵 カオスの遺子

 宿舎で最初の朝を迎えた。


 今日から仕事が始まるので、僕はいつもより早く起きた。


 下に降りると既にみんな起きていて朝食を食べていた。アレス以外は……。


 「よおロード、お前だけか? アレスはまだ起きてこないのか」


 「うんそうだよ。寝てるというか捨てられたというか……」


 「何言ってんだお前。まさか部屋にいないのか? しょうがない探しに行くか」


 「待って兄さん! 僕がちゃんと探すから兄さんはそこにいて!」


 てっかりアレスはもう気を取り戻しているとばかり思っていたので、死んでしまったのではないかと心配になって僕自身が確認することにした。


 「ほっときなさいすぐに帰って来るわ、まあ帰ってこれたらの話だけど」


 積極的に止めようとはしないけど、メリナは僕がアレスを探しに行くのが気に食わないようだ。だけど、このまま放置して死なれたら僕は殺人犯になってしまう。


 メリナの圧がかかった眼差しと良心の呵責がせめぎ合った結果、僕は昨日捨てに行った庭に足を運んだ。


 捨てた場所にはちゃんとアレスが横たわって、大きないびきをかいて寝ていた。


 アレスが生きていたことにホッと胸を撫でおろした後、起こそうと体を揺すったり顔をペチペチしたりした。


 「ぬぁああ……なんだもう朝か。おいロード、俺は何でこんなところで寝てるんだ?」


 間抜けな伸びをしたアレスは起きた場所がベッドではなかったことに驚いていた。


 「知らないよ。酔っぱらっていたんじゃない?」


 本当は僕がここまで運んだからだけど、アレス自身がそれで納得したから嘘を突き通すことにした。


 

 朝食を食べ終わり、ついに僕たちは町の外に出た。


 外に出ると一人一個ずつ単眼鏡をウェインから受け取った。これで魔物を見つけたら倒しに向かうらしい。


 初陣に胸を躍らせながら道を歩いていく。兵士としての実感が湧いてきて、今の僕なら魔人にだって一人で勝てそうだ。


 だとしても浮かれてはいられない。ここは人の自治が及ばない無法地帯、魔物が命を狙いに飛びかかって来ても文句は言えない。


 そんな思いを抱きながら、ウェインは先頭に立って僕たちに退魔兵士としての仕事を一通り教えてくれた。

 

 まず、南門から出て道をまっすぐ二手に分かれた道まで進む。


 そこから左に進んでまた分かれ道の立て札が書かれてある場所まで進み、次はエルマの町へ戻るように左へと進む。


 そしてまた、立て札が見えてきたら左に進んで今度は途中に南門を通るけど、そのまままっすぐ突き進む。


 この要領で分かれ道を常に左と真ん中を行き来することで、円で取り囲むように大きな範囲を見渡すことができる。


 「ここでようやく一周だ。どうだ思っていた以上に退屈な仕事だろ? 何か困ったことや質問はあるか?」


 「なんで決められたルートを通ることしかしないの? もっと違うところに行けば魔物もいっぱいいるのに」


 「みんな好き勝手にあちこち行っていいのなら、組織として統制が取りにくくなるだろ? それに別にこのルートだけが仕事じゃない。基地から直接命令が下ればそこに行って魔物を倒さないといけない場合もある」


 「そうなんだ。ねえ、この世から魔物がいなくなるにはどうしたらいいかな? 僕は魔物からみんなを守るために兵士になったんだ」


 初めてこれをメリナとアレスの二人に打ち明けた時、二人そろって魔物をこの世から消し去る方法はないし、これからも見つからないとあっさりと否定された。


 僕は悲しくなったけど、大胆で極端な夢を叶えるための具体的な案を僕自身も思いつくことができないでいた。


 だから、兵士としてたくさんの時間を過ごしているウェインなら、心当たりがあるのではないかと小さな希望を持っていた。


 「……………不可能だ。たぶん、俺たちが死んでも何百年、何千年と魔物と戦わないといけない」


 「じゃあ僕たちは無駄な争いをしているんだね……」


 「ただ一つ、たった一つだけこの争いを終わらせる方法はある。だが、これは魔物を全員殺すことより難しい」


 「それを教えてよ! たとえ困難なことだとしても、希望を持って戦えるなら僕はずっと戦うよ!」


 僕は食らいつくようにその方法を聞いた。そして、ウェインの口から語られたのは聞いたことのない巨悪の存在だった。


 「わかった教えてやる。各国が千年前に結んだ軍事同盟の根本的な理由は、“カオスの遺子”だ。カオスの遺子は魔神カオスが世界の遺した十人の子供たちのことで、それぞれが圧倒的な力と不死身の能力を持っている」


 「待て待て待て話が見えねぇよ。そもそも神ってなんだ? それにカオスって誰だよ」


 アレスの疑問は僕たちが思っているのと同じだった。


 「神はこの世の理そのもの、万物は神によって創られ神によって滅ぶ。つまりカオスとは世界の母と言うべき存在なんだ」


 「何言ってるのウェイン、母上の名前はカオスじゃないわ! それなのに何でそのわからない神って存在が私たちの親になるのよ!?」


 メリナはご立腹だった。自分自身を大切に育ててくれた母親が本当は違うという言い方は受け入れられない。


 世界の親という壮大な物語の人物を聞いて、僕たちみんな理解できなくて混乱していた。


 「落ち着けお前たち。今大事なのは世界だとか、魔神カオスとかではなくて“カオスの遺子”だろ?」


 兄さんはそう言うと、ウェインに続きを話すよう促した。


 「カオスの遺子はさっき言った通り全員で十人。『第一遺子 バベル』、『第二遺子 アリスター』、『第三遺子 ラフィーネ』、『第四遺子 クラウディウス』、『第五遺子 ウェスタシア』、『第六遺子 バサラ』、『第七遺子 ベルナドール』、『第八遺子 アイスショット』、『第九遺子 ディーン』、『第十遺子 ロイド』」


 「これら相手には国単位で対処しないと国が滅んでしまうからな。実際、同盟を組んで千年の間にヤマトは第六遺子に襲われて人口の半分が死んだと言われているし、ここエレイスでも三十年前に第七遺子が襲撃して地方の隊長九人が戦死する大惨事を被ったこともある。だから悪いことは言わん、コイツらに出くわしてしまったら一目散に逃げろ」


 短い沈黙の間、僕たちはそれぞれカオスの遺子とどう向き合うか考えていた。


 僕は世界のために戦うと、アレスはどんな奴が相手だろうと戦うと、メリナは当主として返り咲くために戦うと、兄さんは僕のために最後まで戦うと決めた。


 みんなが自身の思いをウェインに伝えると、彼は困った顔をした後にチームのリーダーとしてできる限りのことはすると言ってくれた。


 「最後にカオスの遺子の見分け方だが、奴らは普通の人間と同じ見た目をしているから誰がそうだか見分けがつかない。しかし、奴らには体のどこかに漆黒の太陽の痣がある。見つけたらお前たちの隙にやってもいいが、絶対に死ぬなよ!」


 ウェインはチームリーダーとしての本音は死にに行くような真似はさせたくない。しかし、ロード達は確固たる目的と意志を持って戦おうとしているのだから、彼らを止めようとすることは野暮であると考え、複雑な面持ちでみんなを鼓舞した。


 その後、僕たちは単眼鏡を持ってルート内を探索し続けた。


 幸いにも魔物は一体も確認できなかったため、そらが赤くなるのを見て僕たちは町に帰還した。


 今日知ったことは僕たちの運命を変えるかもしれない。そう思えるほどの大きな収穫を得た。


 僕はベッドの上でカオスの遺子を全員倒す想像をして鼓動が早くなっているのを感じている。それは道がなく夢が天高くあった状態から、手段を知って夢への階段が出来上がったように今は体で夢を追うことができる。


 今の僕はその階段に足を乗せたばかりではあるけど、この階段を着実に踏み越えてあの天にある夢にたどり着くように、僕は明日に備えて眠りについた。

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