第壱話
高校生の妄想を書き起こした物ですので文章も拙く、読みにくいところが多々みられると思いますが、暖かく見守ってくださると助かります。
「一菱 菊丸」 1,900年5月28日 聖天堂医院にて、一菱未来重工の御曹司としてこの世に生を受ける。
幼少期の頃から何一つ不自由無い生活を送っていた。しかし子供である。
少しばかり悪いことに興味を持つのも仕方がない。だが菊丸のそれは
一線を越えていた。盗み 虐め カンニング 数えればキリがないほどである。
このように幼少期から自分の欲望のままに生きていた菊丸であったが、そんな
彼でも憧れるものがあった。それは「宇宙」である。
「あの縹色の空の向こうには何があるのだろう」
菊丸は昼間に學校を抜け出しては、よく考えている。
幸いなことに菊丸は宇宙へ行く術を知っていた。一菱未来重工が秘密裏に開発を進める宇宙船、「零式」である。それに零式はもうすぐ完成する段階まで到達していたのだ。
そんな菊丸に千載一遇のチャンスが訪れる。
彼の両親が出張で長期間家を留守にするのである。今までこのようなことは何度もあったのだが、零式はまだ飛べるような状態ではなかった。しかし完成間近の状態でこの機会である、利用しない術はない。
1914年8月8日の早朝、菊丸は両親が家を出発してすぐに家を飛び出した。
召使はまだ寝ている。菊丸は足早に最寄駅である上野へ向かい、汽車で工場がある横浜までの切符
を購入した。一人で汽車に乗るのは初めてであったため、少々の緊張はあったが宇宙への憧れが彼を奮い立たせた。駅弁 寝るサラリーマン 楽しそうに話す女学生 小さな頃から親に連れられて汽車に乗っていた彼にとっては見慣れたものであったが、不思議と新鮮な感覚だった。
そして汽車はあっという間に横浜に到着する。
小さな頃から何度も訪れている場所である。迷う筈が無い。菊丸は早歩きで工場へ向かう。
「両親に頼まれて零式の視察に来た。通して頂けないか」
「社長様からそのような電報は頂いていないのですが、、」
「急用であるからな。届いていなくても無理はないだろう。」
やはり御曹司である。このように話すとすぐ工場の門を通ることが出来た。
耳をつん裂く騒音を我慢しながら、菊丸は零式へと足を運ぶ。
途中に多数の作業員の側を通ったのだが、誰一人として彼への礼を欠かすことはなかった。
これが彼にとってはこれ以上ないくらいの快感で、ずっとここにいたいと思わせる程心地が良かった。そして重工な何重もの鉄扉を開け、何やら近未来的なものが見えてきた。汽車一両程の大きさで、先端は綺麗な丸みを帯びている。菊丸には一瞬それが何なのか解らなかったが、その数秒後
すぐ理解した。まさしく「零式」そのものだ。以前見たときと風貌が違いすぎたのである。
幸いにも零式の作業員はこの部屋に誰一人としていなかった。菊丸にはそれが不思議で仕方無かったのだが、彼は意気揚々と操縦室に乗りこむ。しかし彼は操縦の方法が解らない。
操縦桿の使い方は解るのだが、その他無数に付いているぼたんの用途が解らないのである。
試行錯誤していると、菊丸の周りが一瞬にして赤い洋燈で照らされた。
まずい、これで捕まってしまったら二度と零式を触れることはできなくなる。
子供ながらにそう悟った菊丸は、手当たり次第にぼたんを押す。
何やら警報音も鳴り始めた。そして部屋に居無いと思われた零式の作業員も取り巻くように迫ってくる。菊丸は祈るように最後のぼたんを押した。だが、零式は飛ばなかった。
「あれ、、?」
何やら一つ見落としているものがあったようだ。それはさながらラヂオのようであった。
菊丸は急いで”それ”の電源を付け、祈った。
そして次の瞬間、零式は宙に浮いた。こうなって仕舞えばもうお手のものだ。
菊丸は操縦桿を傾け、空へと向かうのであった。
それから数十分程だろうか。窓の外が暗くなっていくのを菊丸は感じた。
「宇宙だ、、、」
もうそこは菊丸にとって夢の世界であった。目の前には瑠璃色をした球体の地球、少し遠くには
鼠色をした月を見ることができる。
「燃料 残り 玖拾程」
ふとそう聞こえた。
あのラヂオのようなものがひとりでに喋り出したのである。
「次の目的地は 月」
また喋った。
「自動操縦へ 切り替えます」
またまた喋った。
「なんだ?次は月へ行くのか?」
そう考えた瞬間、菊丸の興奮は最高潮に達した。