迫る夕闇
緊張感の続くシーンです。
クアドの目はいつものアノ時の合図だった。
クアド、ラヤン、イトゥサの3人は一斉に別々の方向へ走っていく。3人が悪戯をして叱られそうになった時、少しでも怒られるのを後伸ばしにしようとしてラサやトゥムクに捕まえられないように編み出した3人の決まり事だ。
ラヤンは村の方へ、グアンは北に、イトゥサは剣戟の音のする森の方向へそれぞれ走った。
山道は走り難かったが、よく知ってる道なので転びそうになりながらも思いっきり走った。走ってると自分の鼓動が耳の中で響いている。木の根や下草に足を取られそうになりながら懸命に走った。
後ろから走る音が近づいてくる。「つかまったら殺される?」嫌な考えが頭から離れない。「走れ!走れ!とにかく逃げなきゃ!」ジグザグに深い草の中を走る。
どのくらい走ったのか分からない。とにかく後から追ってくる足音が怖くてめちゃくちゃに走った。太陽が沈みかかり夕闇が迫る。
「夢だ!夢なんだ?これは悪い夢なんだ。」自分に言い聞かせるように走り続ける。
母グアネラの言葉を思い出す。
「冬が近くなると日が早く沈むから、あまり遠くへ行っちゃ駄目よ。」優しい母。大好きな母。「あっ!?」
足を一瞬踏み外したのかと思った。
激しい水音。息が出来ない。「!」
泳げる自分の力を全て使って水面を目指す!
「プハッ」
激しい流れ、水流に翻弄されて泳げない!
水をたくさん飲んだ!息が出来ない!!苦しい!母さん助けて!!目が回る。口に入ってくるのは水ばかり!息が‥
クアドは北に走ったが、他の二人が無事に逃げられるように一瞬走るのを躊躇った。なぜか黒布の男はラヤンではなくイトゥサを追って行ったらしい。クアドは北の近道を使って村へ走った。
長テオラロと村人達は途中でラヤンと出会った。
「ジョラス達が森でやられてる!」
「グアンとイトゥサは⁉」
「二人とも逃げた!男が追いかけてきたから!」
「どっちだ!?」
ラヤンは両手を別々の方向へ指した。
「トゥムクは北へ向かえ!俺達は森へ向かう!」
大人達は風のように走り出した。