忍び寄る戦争の影
村の人達のエピソードです。イトゥサと周りの人々の関係やこの村の存在意義が語られます。
長のテオラロやこの村の大半の人々は戦争孤児で、長老ラフェロスと妻ニアンナやこの村を開拓した人達によって飢えているところを救われ、育てられた。
また、長老ラフェロスとニアンナも戦争に翻弄され自分達の子供を幼くして病気で亡くしたり、戦争に徴兵されたまま二度と戻ってくることは無く、心の痛みを抱えたままだった。
ラフェロスは度々、戦場近くで迷子になったり飢えて死にそうな子供達を連れ帰り手厚く保護し、街や都市に迷子の子供達を預かっていると役所に届け、親が見つかれば一緒に喜んで親元へ返してやった。
そういう活動を人々が認め、同じ境遇の人達が集まり孤児達を村の人達全員で細々と育てていった。
テオラロもその中の一人で、戦争孤児をみつけては世話していたのですっかり婚期を逃して独り身でいた。
テオラロが先の戦で森の中で見つけた孤児の兄トゥムクと弟テオも飢えて震えていたので連れ帰って育て、今ではすっかり立派な青年となっていた。
ようやく平和な月日が戻ったと、この村で戦争を知らずに生まれた子供達が育ち穏やかな日々が過ぎていたのもつかの間で、戦争の影がこの村にも忍び寄って来ていた。
兄トゥムクは15歳、弟テオが11歳の時にこの村へやって来て、兄は同じく孤児のラサを妻に娶りクアドとラヤンの息子二人を育てていた。
弟テオは古都ナハトバの衛兵として都におり、妻グアネラはイトゥサを出産してからずっとテオと離れて暮らしていた。
正直なところイトゥサにとっては母親のグアネラが世界の中心で、優しい伯父伯母と従兄弟のクアドとラヤンがいれば寂しくは無かった。
年に一度、1年の初めに父親のテオが帰ってきたが、恥ずかしくてソワソワして話しも出来なかった。
また、妻のグアネラもテオを持て成してはいたが、眠る時はまるで他人のようにイトゥサを抱えて別の部屋で寝ていた。